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「盛り」の美意識とものづくりについて考える「Around Beauty Meetup #3」開催

2020.02.18

美にまつわる社内外のさまざまなイノベーターが、S/PARKに集まり交流する「fibona ~Around Beauty Meetup」。第3回目となる今回は「『盛り』という美意識とそれを実現するものづくり」をテーマに、日本で独自に発展した女の子たちの「盛り」の変化やものづくりとの関係について考える。

早くも3回目の開催となったAround Beauty Meetup。この日も、資生堂グローバルイノベーションセンターの研究員に加え、様々な企業や大学などから美や美意識と関わりを持つ参加者がS/PARKに集合。まずは3人1組のグループになり、「最近私が“盛った”コト・モノ」をキーワードに自己紹介した。「#盛り」「#デコレーション」「#デコ」といったハッシュタグで検索かけて出てきたSNS上のポストをサンプルにしながら、最近日常生活のなかで“盛った”体験を思い返してもらった。あちこちから笑い声が上がり、ユーモア溢れる自己紹介が繰り広げられていた様子。

会場の雰囲気が温まったところで早速、本日のゲストスピーカーである久保友香さんが登場した。今回のテーマにもある「盛り」という言葉が広まりだしたのは2002年頃とのこと。女子高生たちがプリクラで本来の自分の顔よりも“良く”写ったものを「盛りプリ」と表現し始めたそう。久保さんはそんな「盛り」について、科学的な立ち位置から研究している。

大学院在学中から「日本人の美意識を解明したい」と考えていたという久保さん。専攻であったことから、工学的に「美」を解き明かすアプローチを始めた。特に日本特有の美の在り方に興味を持ち、まず注目したのが浮世絵や美人画といった日本の絵画だった。その幾何学的特徴を研究していくと、デフォルメを活用する傾向があることに気付いた。

「研究を進める中で、ふと、現代に立ち戻って若い女の子たちの間で人気の雑誌の表紙を見てみると『(3人並ぶモデルの顔が)あれ、似ているんじゃないかな?』ということに気付きました。みんな違う人のはずなのに、似ている。生き物なので多様性があるはずなのに、これだけ似た顔をしているというのは、きっと何かしら人工的に加工されているはず。そう考えました。すると、世の中に公開されている日本の女の子の絵や写真の中には、過去から現在まで一貫して、デフォルメされた構造が存在するということがみえてきたんです」と、久保さんは自身の研究のきっかけを振り返る。

久保さんは昨年まで東京大学大学院などで研究を行なっていたが、今年より独立し「シンデレラ・テクノロジー」研究の第一人者として書籍を上梓したり、様々な人や場とコミュニケーションをしながら研究を続けている。 「実際とは異なるビジュアルを作り、公開する技術全般を『シンデレラ・テクノロジー』と名付けました」と、説明してくれた。

続いて、話は現代の「盛り」の研究のプレゼンテーションへ。「『盛り』について写真やプリクラで顔のパーツの位置などを定量的に分析していても、なかなかわからないことが多くて。そこで実際に『盛り』の中心にいる女の子たちに会いに行ってインタビューを行なったんです。『なぜ盛るのか?』という問いに対して、『自分らしくあるため』という答えが返ってきたときにはとても驚きました。なぜみんな同じメイクをするのだろうと疑問に思っていたら、彼女たちは『個性的であるため』にメイクをしていたんです」と、久保さん。実際に彼女たちにプリクラを撮る様子を見せてもらったところ、「プリクラはトレーニングです」と言いながらそれぞれの機械の特性に合わせながら撮られ方を工夫していたり、アイメイクの様子からは、いくつもの違う種類のつけまつげを切り貼りして自分なりのものを生み出す様子などがうかがえたそうだ。このような興味深いエピソードを交えつつ、これまでの研究の結果を時系列で整理し、それぞれの時代のメディア環境により女の子の「盛り」の対象が変化していく様子をわかりやすく紹介したプレゼンテーションに、参加者も興味深げに聞き入っていた。

次に行われたのが、資生堂グローバルイノベーションセンターの研究員である大澤友と田代麻友里(所属は開催当時)、そして久保さんの3名によるパネルディスカッション。 大澤からの「日本ではなぜデフォルメの文化が流行り、またそれは今後海外にも広がりうるのでしょうか?」という質問に対して久保さんからは「きっと遊び心をとても大事にしているからではないでしょうか。日本ではロボットの源流にあるからくり人形でも、西洋のオートマタが写実的であるのとは違い、わざと中の構造をみせてその動きを楽しんでいて、そこにも遊び心があるような気がします。最近では、海外でもコスプレが一部で流行していますが、人間の生まれ持ったビジュアルよりも、そういう『作りこみ』のビジュアルを評価し合うということが、世界の一部の人たちにとっても魅力になっているのかもしれませんね。」という意見が出たり、逆に、ナチュラルな肌についての海外と日本での意識の違いについて久保さんから質問が挙がると、田代から「素肌の捉えられ方って各国で違うし、その違いには自己肯定感やそれを形成する教育なども関係するのではないかと個人的には思っています。日本の女の子はともするとマイナスになってしまう素肌をゼロに戻すのに下地やファンデーション、もちろんスキンケアも頑張っている様子がありますよね。」といった話が展開された。このように国ごとに違いがあったり、刻々とトレンドが変化する女の子たちに対し、どんな「ものさし(基準)」を見出しながら化粧品というものづくりをするかについてディスカッションは盛り上がった。

その後、参加者同士が再び3人1組になり、本日のプレゼンとパネルディスカッションを受けての感想や疑問、気づきについて自由に話し合うダイアログを実施。最後に各グループで出た話を発表してもらうと、「すでに『盛り』はバーチャルリアリティでも起こっているのでは」などの意見が飛び出た。

登壇者も参加者もまだまだ話し足りない様子だったものの、会は終盤に。最後は参加者同士が自由に雑談できる懇談会の時間だ。S/PARK Caféによるケータリングフードを食べながら、セッション中には話せなかった人と会話をしたり、同じ相手とより深く議論をしたり、久保さんやパネリストに質問したり。誰もが楽しそうに積極的に関わりあう場となった。

こうして今回のAround Beauty Meetupは終了。日本特有の「盛り」という美意識は、自分のビジュアルをまるでものづくりやDIYするように楽しむという意味での“MAKE(作るという意味でのメイク)”カルチャーなのかもしれない。そんなことを考える機会になったのではないだろうか。

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Cultivation

ビューティー分野に関連する異業種の方々と資生堂研究員とのミートアップを開催し、美に関する多様な知と人を融合し、イノベーションを生み出す研究員の熱意やアイディアを 刺激する風土を作ります。

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