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サステナビリティやパーソナライズ。新しい価値観とデジタルが生み出す未来の「美」

2020.03.27

2020年1月、資生堂グローバルイノベーションセンター (S/PARK)にて「起業大国イスラエルで急成長するデジタルヘルスとBeautyTech」と題したイベントが開催されました。主催は、イスラエル情報のリサーチや、イスラエルスタートアップの日本市場進出のサポートをするAniwo。本稿ではBeautyTechを中心にイベントを振り返ります。 イベントページ

イスラエルはGDPに対する研究開発投資や、国民1人あたりのスタートアップ数、投資数等が世界トップの実績を誇るイノベーション大国。特に研究開発には力を入れていて、スタートアップの社員の約1/4は研究開発に携わる社員だそう。そのためエンジニアの優秀さ、学歴の高さがスタートアップのステータスとなっており、イスラエルのスタートアップは「うちの会社にはPh.D.卒業のエンジニアが10人います」といった自慢をするそうです。

スマホミラーからD2Cまで、イスラエルのBeautyTechスタートアップ


イベントではまず、Aniwo, CEO and Founderの寺田氏が登壇。「起業大国イスラエルで急成長するデジタルヘルスとBeautyTech」と題して、前述したイスラエルの概観と、デジタルヘルスおよびビューティテック関連のスタートアップが紹介されました。

寺田 彼日氏 Aniwo, Founder and CEO

最初に紹介されたのはMirrori。スマホが鏡になるアプリケーションを開発しています。メイクをする際にスマホのインカメラで自分を撮影。アプリが自動で肌の状態等を分析してくれて「今日はチークをちょっと明るくした方がいいですよ」「今日の口紅の色をワントーン上げたらこうなりますよ」といったことを、ARを利用しながら表示してくれます。イスラエルのスタートアップは技術力がバックグランドにあると前述しましたが、Mirroriの共同創業者もコンピュータービジョンに詳しい博士がいるそうです。

続いて紹介されたのはCannablis。CBD(カンナビジオール、大麻の一成分)関連のスタートアップです。近年CBDを医療用または嗜好用に使用する動きが活性化しており、その動きに対応しているスタートアップです。

最後に紹介されたのはMAAPILIM。イスラエルはB2Bのサービスが多く、ゆえにいわゆるD2Cも少ないそう。そんな環境にあるなか同社は、イスラエルで数少ないD2Cの会社。クルエルティフリー(動物実験をしない)等のサステナビリティを掲げながら、地中海沿いのオイル配合の男性向け化粧品ブランドを展開しています。

新しい価値観がつくる、次世代の美


イベント後半はゲストスピーカーを交えてパネルディスカッションを実施。ビューティテックやデジタルヘルスという枠を超えて、「美」について意見が交わされました。

登壇者は以下の方々です(敬称略、写真左から)。プロフィールはこちらから。
寺田 彼日 Aniwo, Founder and CEO
中西 裕子 株式会社資生堂 リサーチセンター R&I戦略G マネージャー
白井 智之 株式会社MTG インキュベーション推進室 室長
大山 知春 VIVIA JAPAN株式会社 代表取締役
森 雄一郎 資生堂 リサーチセンター インフォマティクスイノベーションG マネージャー

寺田(Aniwo):
本日はパネルディスカッションのテーマを2つ用意しています。最初に「次世代の『美』」についてどのように考えているのか、教えて下さい。

中西(資生堂):
すごく難しいお題が一番初めに来ますね。会社としてなかなか定義しづらいんですよね、何がビューティーか。その理由は、やっぱり答えがいっぱいあるから、というところが根本的な原因だと思っています。外見美という話もあれば内面美という話もあるし、自然を見て美しいみたいな話もあれば、立ち居振る舞いの美という話もある。色々なものの中にビューティーって存在しますよね。

CESでトヨタ自動車の社長が「チョイスを作る」というお話をされていました。そういう意味では資生堂も「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD」という企業ミッションを掲げています。今あるものの延長線だけでなく、全く新しいビューティーを作り表現していかなくてはなりません。結局はなんなんだろうと言われると、作り続けて提供し続けるものなんだろうなというところではないでしょうか。

寺田(Aniwo):
例えばコスメって、これだけ研究もされて製品もいっぱいあって、もう限界なんじゃないのかなとも思えるのですが、まだまだ先はあるのでしょうか。

中西(資生堂):
20~30年ほど前だと新しい知見があって、市場も1つの方向性に向いていて、今後の動きが予想できるという環境でした。しかし今では、例えばサステナビリティといった話がコスメティクスと掛け合わさり、新しい価値観が生まれています。そういう意味では違うものと美が組み合わさる可能性は、まだまだあるのではないかなと思っています。

大山(VIVIA JAPAN):
新しい価値観という意味では、サステナビリティはVIVIA JAPANでも意識しています。特に私はアジア、ヨーロッパ、アフリカのガーナに住んでいた経験があるのですが、日本に帰ってくるとどこも過剰包装でビックリするんです。

先日日本に帰ってきて、久々にマスカラを買いました。当然買ったからには箱に入って持って帰るのですが、家に帰ると捨ててしまう。でもそのパッケージがないと、やっぱりお客さんは手に取ってくれない。そこのバランスは非常に難しいですね。サステナビリティと便利さは相反するところがあるので、そのバランスについてはすごく考えさせられます。

白井(MTG):
MTGでは美容とは、表面的なものではなくて内面的なものから作り上げていくものだと考えています。

MTGは対外的には「ブランド開発カンパニー」だと表現しています。大山さんから「パッケージは買ったら捨ててしまう」という話がありましたが、ブランドという文脈でいくと、パッケージもブランドの1つです。お客様の中には「こんなところに金をかけて」と思われる方もいるかもしれませんが、MTGはそれなりの単価の商品を売っているところもあって、パッケージひとつとってもこだわりをもって開発しています。パッケージを家に置いておいても邪魔にならないような、例えばインテリア的に溶け込むようなデザインになろうとしていますね。

森(資生堂):
私自身は美容を「文化」みたいなものだと捉えています。美容の価値観や基準みたいなものが時代で変遷するなという印象を受けるんです。

最近だと、先程話に出たサステナビリティや環境配慮が基準になったりするし、2019年はメンズコスメがはやりましたよね。そこで私もメイクアップデビューをして、いざやってみたら「こんな気持ちになるのか」「こんな価値があるんだな」と感じました。

美容はそういった、文化の流れと切っても切り離せないと思っています。だから常に最新のトレンドに触れていなければならないし、新しいものを試さなければならないとは考えています。

寺田(Aniwo):
トレンドや次世代という意味では、ファッションの文脈で最近、バーチャルリアリティが一つのトレンドです。そこに今ハイブランドがバーチャルなアイテムを販売しだすという話が出てきているんですね。つまり目で見る、感じるといったものが、デジタル情報としてアップデートされていくという世界観が今後出てくるんじゃないかと思います。

デジタルが提供する、美の新しい付加価値


(会場から質問)
デジタルとビューティーの関連性についてはどのように考えていますか。

森(資生堂):
私の仕事の中では、パーソナライズが一番関連すると思います。実際グローバルなコンペティターたちや、もちろん資生堂もその領域を狙っています。価値観がどんどん多様化する中で、どう適応していくかという観点でデジタルを使っていこうという流れが始まっているという印象です。

白井(MTG):
MTGの主力商品はReFaという美顔ローラーや、SIXPADという腹筋を鍛えるベルトなのですが、これらは使っただけでは効果が出ているのかすぐにはわかりません。そのためアナログなインプットに対して、デジタルで数値化・可視化すると納得感が醸成されるのかなともいます。今そういう研究開発を進めているところです。

(会場から質問)
世界展開を考えてプロダクト開発されているという点でいくと、国内とグローバルで求められているものの違いはありますか?
中西(資生堂):
かなり異なります。海外もすべて一緒ではなく、やはりローカルやエリアでだいぶ違いますね。例えば、香りの好みはエリアによって全然違いますし、メイクアップやスキンケアに対する投資の仕方違います。先程デジタルのお話がありましたが、文化的に世界がつながってきて、色々なものがミックスされてきているという実感はあります。

(会場から質問)
マーケティングや商品開発についての考え方を教えて下さい。

白井(MTG):
正直に言うと、ヒットを狙って外れることもありますし、そんなに売れないだろうと思っていたら売れるときもあって、予想が百発百中とはいきません。美容は国民性や文化もありますし、ブームの波に乗ることも重要です。なのでマーケティングについては、正解というものは正直ないと思っています。

ただMTGが商品をどういう思いで作ったのかということを訴求していくことは大事です。それに共感していただいて、SNSを中心に広がっていくということはありますね。

大山(VIVIA JAPAN):
商品開発に際してはカニバライズしないかを考えます。VIVIA JAPANではモリンガオイルを販売しているのですが、いざ「使ってみませんか?」となったときに、同じようなオイルが並んでいたら選んでもらえないですよね。そのため他の商品と差別化できるようにとは常に考えています。

また他の会社ともよくお話するのは「何が当たるかわからない」ということです。なので遊び心のある商品を作ってみたり、ちょっと試してみようかな、ということは大事にしています。

イスラエルのビューティ・ヘルスケアのスタートアップから、業界の第一人者が語る未来の美まで、幅広くディスカッションされた本イベント。fibonaでは引き続き、ビューティに関する情報発信を続けていきます。

(text: pilot boat 納富 隼平、photo: Aniwo)

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