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企業がイノベーションを加速化させるために必要なこと。 人や情報をつなぐ外部「ポリネーター」特別対談(前編)

2020.07.10

資生堂の研究員と、外部のさまざまな人と知の融合から新たな美のイノベーションを目指す「fibona」。1周年を迎えるいま、スタートアップとの協業やスピーディートライアルなど、様々なプロジェクトが進められている。

この動きを加速化させていくうえで鍵を握るのが「ポリネーター®(以下ポリネーター)」と呼ばれる外部アドバイザーの存在だ。研究施設である資生堂グローバルイノベーションセンター(GIC)で実施されているインキュベーションセンターの活動に主に寄与し、その意思決定にも参画している。

企業のオープンノベーションは今後どうあるべきか。外部の専門家と共創するうえで大切なことは?

2020年から外部ポリネーターに就任した西村真里子氏、西村勇哉氏、若宮和男氏の3名と、fibonaプロジェクトオーナーの荒木秀文による白熱したオンライン対談をレポートする。

(モデレータ:fibonaプロジェクトリーダー中西裕子)

今回のメンバー(敬称略)※プロフィールは記事末に掲載しています。
西村真里子(左上):ポリネーター、株式会社HEART CATCH代表
西村勇哉(上中央):NPO法人ミラツク代表理事
若宮和男(右):uni’que Inc. Founder・CEO
荒木秀文(下中央):fibonaプロジェクトオーナー 兼 R&I戦略部長 兼 インキュベーションセンター長
モデレータ 中西裕子(左下): fibonaプロジェクトリーダー 兼 R&I戦略G マネージャー

人や情報を自由につなぐ「ポリネーター」

中西:
2020年1月に、主にインキュベーションセンターにおける研究開発の外部アドバイザーである「ポリネーター」に就任された3名に集まっていただきました。そもそもポリネーターとはどんな存在なのでしょうか。

荒木:
私は、ポリネーターとは、「企画力」のプロフェッショナルだと考えています。

イノベーションには「企画力」と「具現化力」が必要だと思っているのですが、私たち研究者はいわば「具現化力」のプロフェッショナルです。実現したいアイデアを持ちかけられた時に、これまでの研究成果や様々な技術をうまく組み合わせて製品化するのは、研究員の得意領域。一方で、研究者は「企画力」は強くありません。そこで、「企画力」の部分を、イノベーションデザインのプロフェッショナルであるポリネーターのみなさんのお力を借りようと考えました。

加えて、いまの時代に、資生堂だけの視点で生活者にイノベーションを提案するのは難しいとも考えていました。ずっと社内にいると、いつしか生活者や美に対する固定概念ができてしまいます。固定概念の枠を取り払うためにも、外部のプロフェッショナルの方に、アイデアやビジネスが本当に面白いのか、本当に社会に貢献できるのかをアドバイスしていただきたいと考えました。

西村(真):
これからの時代、新しいサービスやプロダクトをつくるうえで、外部とのつながりを通じて、様々な角度で情報収集しながら機敏に動くのが理想的です。そして、できあがった部分からすばやくサービスをリリースし、ブラッシュアップしていくような、システム開発におけるいわゆる「アジャイル開発」の方法が適しています。とはいえ、こういう方法をゼロから企業が行うのは難しい。

※アジャイル開発:「俊敏な」を意味するソフトウェア開発手法のひとつ。プランニングから実装、テストまでを約1~2週間ほどの短いサイクルで回していくやり方。


そこで、こういうやり方で事業開発を進め、企業をサポートする人のことを、ポリネーターと名付けました。社会や企業のために情報収集し、機敏に動くことで新規事業の創出を促したいと考えたんです。

中西:
ポリネーターという言葉は、どのような意味を持つのでしょうか。

西村(真):
日本語に直訳すると「受粉者」という意味で、空を飛び回っていろんな植物の花粉を運んでくるハチを指します。この言葉に出会ったのは、イギリスの(巨大な複合型環境施設)「エデン・プロジェクト」を知ったときのことでした。

「エデン・プロジェクト」は世界各地から集めてきた植物を、ハチの巣型のドームに集めたショー型の植物園。そこにはポリネーターという役割の方がいて、例えばサハラ砂漠に生えているサボテンを説明するときは、そこに棲息する動物や昆虫役を演じながら植物を紹介するのです。

オープンイノベーション型の新規プロジェクトを起こそうとしているある企業に対して、他企業のニーズや、スタートアップの新規アプローチなどの情報を届けたり、人と人をつなげる活動をしている動きは、「エデン・プロジェクト」のポリネーターに近いなと、ふと思ったんです。

企業の中にある研究開発やアイデアを受粉して、ビジネスの「蜜」としてアウトプットしていくまで媒介する役割。役割的にはコンサルティングに近くてもアジャイルさを示すにはコンサルティングよりもポリネーション、ポリネーターだな、と。

新たな価値開発はアジャイル的な発想ができているか

中西:
ポリネーターのみなさんは、大手企業での新規事業立ち上げや、共同プロジェクトのアドバイザーのご経験も豊富です。ポリネーターの方々との連携によって、資生堂の研究開発はどんなことが加速すると思いますか。

荒木:
いまビューティーの分野は、生活者の価値観や市場の変化がとてつもなく早いんです。研究開発のサイクルと、生活者のニーズが噛み合わなくなってくる。とくにインキュベーションセンターは、従来のビューティーの価値観を超える新しい技術開発を目指しているので、市場規模や売上予測が立てにくい。

このときに重要なのが、「どれだけ筋の良いテーマを立てられるか」ということ。

たとえテーマを見つけ出すまでに時間がかかったとしても、今まで誰も目をつけてこなかった価値や、知られざるブルーオーシャンが広がっていれば、ものすごいスピードでイノベーションは加速します。ポリネーターのみなさんからアドバイスをいただけたら、新規事業の企画から社会実装までを、小さくすばやく回せるようになるのではないかと思っています。

中西:
ポリネーターのみなさんは、企業のイノベーションを推進するうえで、どんなことを大切にしていますか?

若宮:
僕はもう、それについては「しくじり体験」が山ほどあるのですが…(笑)。一番よくいうのが、事業や市場の「年齢」ということですね。企業の新規事業では時間軸が忘れられがちなんです。みんな「イノベーションをつくれ」という号令は出すけど、「必ず成功しろ」とか「売上の規模が小さい」という理由で「失敗だ」と言ったり。これって実は自己矛盾なんです…。

「イノベーション」っていういう言葉をそもそもみんなすごく曖昧に使っていて…。

もし1年以内とかですぐに大きな売上を立てたいなら、0→1ではなく、すでにマーケットが立ち上がっているproven(実績のある)な市場に参入して、大企業のアセットを使ってブーストさせる戦略がいい。つまり、“赤ちゃん”ではなく“20歳”くらいから育成して高年収にする、10→1000フェーズの事業の作り方です。

世の中にないイノベーションを求めながら、立ち上げからほんの数カ月でユーザー数や売上の規模を聞いて失敗の烙印を押す…。これは“赤ちゃん”に「いまの身長や年収」を聞いているようなもの。

ですから、企業で新規事業についてアドバイスするときは、そもそも本当に「イノベーション」を起こしたいのか、そうではなく売上が必要なのか、いつまでに何が得られれば「成功」で、そのためには何歳から始めるべきかを現場の方、マネジメント層の方々と徹底的に目線合わせをします。

西村(真):
生活者のニーズが早く複雑に変化するこれからの時代には、企業としての態度を世の中に示し、共感を得てファンをつくることが大切になってきます。そのときに企業が迷ってはいけません。迷っているのは生活者の方だから。

失敗を恐れず、「こんな新しい価値観を提供します!」と勇ましく宣言し、旗を掲げることが大切。その後ろ姿を見せることが企業への信頼につながります。イノベーションを加速化させるために必要なことだと思います。

西村(勇):
僕には3つの視点があります。1つ目は、時間軸を複眼的にとらえること。新規事業って、どうしても「短期」か「長期」かの2軸でとらえてしまいがちです。しかし重要なのは、「今すぐでも、100年後の未来を見据えながら、今の足元で取り組める。そんな両サイドの視点を同時に持てているか」ということです。

宇宙開発の用語で「デュアルユース」という言葉があります。ロケットや宇宙空間だけで役立つプロダクトをつくるのではなく、今すぐ地上で使えることを視野に入れましょうという考え方です。こうした発想で事業開発を行った方がいいと思います。

2つ目は、出口を決めておくこと。イノベーションのアイデアって考えはじめたら無限に出てきますよね。でも、それを具現化させる分岐点は、「制約条件」があるかどうか。本当に市場で販売するなら、必ず「売り場に置くためにはこのサイズが最適」とか、「利益の出る単価はこの範囲」などの制約に直面します。

こうした制約は一見、事業化の弊害になりそうに見えますが、そこを乗り越えることが大事。うまくいかないプロジェクトは、世の中に本当にリリースすることを視野に入れていないから、制約すら訪れないんです。

3つ目は謙虚さですね。イノベーションについて考え始めると、だんだん「こんなすごいアイデア、誰も思いつかないだろう」みたいな尊大な気分になってくるのですが(笑)、「いやいや、みんな同じことを考えてますよ」という前提に立つことが大事。

「アイデアは同じでも、他のプロジェクトで形にならなかったのはなぜだろう」と考えると、どうすればリリースできるのか、そのために何を突破しなければならないのかを真剣に考えるようになる。独自の突破方法を考えはじめると、うまくいくんじゃないかなと思っています。

イノベーションの本質、デザイン思考からアート思考へ

荒木:
資生堂はこれまで、ひとつの商品を大量生産し、マス広告を展開して、大量に売るビジネスをしてきました。どうしても大々的な調査を行って、その結果に基づいた商品開発をすれば安心と考えがち。それは私たち研究者も同じです。

でも、いまや調査に従ってモノをつくれば絶対に勝てる時代ではありません。その時、自分たちが面白い、新しいと感じたことを信じて突き進めばいいんですけど、やっているうちにその強さがだんだん弱まってしまうところがありました。

若宮:
大手企業の新規事業開発は、稟議を経るごとにアイデアが丸くなってしまいがちですが、市場に風穴を開けるためには、アイデアを絞って鉛筆を尖らせて、まず小さな穴を開けてから、ぐりぐりとその穴を大きくしていくことが大切です。大きい穴を開けたいからといって(最初から)丸太で押しても穴は開かないですよね。

こういう0→1のときに注目されているのがアート思考です。ざっくりいうと、デザイン思考やロジカル思考は、ユーザーを観察したり分析したりして、「あなたの欲しいものはこれですよね」と解決策を提案するのですが、アート思考は「これ最高だから使ってみない?」と自分が好きな物をプレゼントして熱量で押していく感じ。僕は、事業って究極的には「社会へのプレゼント」だと思っているのですが、もらったユーザーも最初は「えー、これ何!?」と思うんだけど、だんだん期待もしてなかったのに魅力にどっぷりハマっていく。

思ってもいなかった価値をつくるから「イノベーション」なので、いまやユーザーのニーズを「当てに行く」だけではイノベーションは起こせないと思っています。

西村(勇):
それって、すごい研究者的ですね。「うまくいくかわからないけれど、それを明らかにするためにとりあえずやってみよう」という。研究者にはロジカルな人たちというイメージがあると思いますが、実は「わけわかんないこと」をやるのが好きな人たちなんですよ(笑)。アートであり、サイエンスでもあります。

(後編へ続く)

西村勇哉(にしむら・ゆうや)/NPO法人ミラツク代表理事
1981年大阪府池田市生まれ。大阪大学大学院にて人間科学(Human Science)の修士を取得。人材開発ベンチャー企業、公益財団法人日本生産性本部を経て、2008年より開始したダイアログBARの活動を前身に、2011年にNPO法人ミラツクを設立。セクター、職種、領域を超えたイノベーションプラットフォームの構築と、年間30社程度の大手企業の事業創出支援、研究開発プロジェクト立ち上げの支援、未来構想の設計、未来潮流の探索などに取り組む。 国立研究開発法人理化学研究所未来戦略室 イノベーションデザイナー(兼務)、大阪大学社会ソリューションイニシアティブ 特任准教授(兼務)。寄稿など多数。

西村真里子(にしむら・まりこ)/株式会社HEART CATCH代表取締役 プロデューサー / ポリネーター
国際基督教大学卒。日本アイ・ビー・エムでITエンジニアとしてキャリアをスタート。その後、アドビシステムズでフィールドマーケティングマネージャー、バスキュールでプロデューサーを経て2014年に株式会社HEART CATCH設立。ビジネス・クリエイティブ・テクノロジーをつなぐ“分野を越境するプロデューサー”として自社、スタートアップ、企業、官公庁プロジェクトを生み出している。 J-Startupサポート企業、Art Thinking Improbable Workshop Executive Producer 、内閣府第一回日本オープンイノベーション大賞専門委員会委員、経産省第4次産業革命クリエイティブ研究会委員、武蔵野美術大学 大学院 クリエイティブイノベーション学科研究室 非常勤講師

若宮和男(わかみや・かずお)/uni’que Inc. Founder・CEO
1976年青森県八戸市生まれ。建築士としてキャリアをスタートし、東京大学にてアート研究者となる。2006年モバイルインターネットに可能性を感じIT業界に転身 。NTTドコモ、DeNAにて複数の新規事業を立ち上げる。 2017年、女性主体の事業をつくるスタートアップ・uni’queを創業。 「全員複業」という新しい形で事業を成長させ、東洋経済「すごいベンチャー100」や「Work Story Award」イノベーション賞、 バンダイナムコアクセラレーター優秀賞に選出。ビジネス領域に限らず、アートや教育などでも女性の活躍をサポートする。新規事業の経験を活かし、 資生堂や楽天など大企業、スタートアップに新規事業やコアバリュー経営のアドバイスを行う他、ビジネスに限らず、アートや教育など領域を超えて幅広く活動中。 『ハウ・トゥ・アート・シンキング』(実業之日本社)著者。

※「ポリネーター」は、株式会社HEART CATCHの登録商標です。
(text: Kanako Ishikawa Edit: Kaori Sasagawa)

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