DMM.make AKIBAとfibonaの担当者、大盛況オンラインイベントと“美のオープンイノベーション”を語る
2020.09.296月に開催された資生堂×DMM.make AKIBA×スタートアップのオンラインイベント。今回は、700人を超える視聴者が集まった同イベントについて振り返りながら、スタートアップとのオープンイノベーションの起こし方について、DMM.make AKIBAの上村遥子さん、fibonaメンバーの小田康太郎が対談。イベントの模様や、両社のオープンイノベーションに対する思いを聞いた。
イベントのレポートはこちらから:
資生堂×DMM.make AKIBA×スタートアップ|ポストコロナ時代の美容業界。【イベントレポ 前編】【イベントレポ 後編】
オープンイノベーションの現場にいる2人の役割は?
上村:
私はデジタル系の広告会社に務めた後、2016年にDMMへ転職しました。転職後はずっとDMM.make AKIBAのコミュニティマネージャーとして、スタートアップと大企業のブリッジ役を担っています。
もともとDMM.make AKIBAは、2014年にスタートアップのものづくりを支援する場として始まりました。ところが次第に、スタートアップとコラボレーションしたいと思う大企業を始めとする法人も集まってきたんです。最近では企業の抱える課題を解決するために、私たちのコミュニティにいるスタートアップと繋げることも増えています。
小田:
私は資生堂に入社以来、約4年間基礎研究を行ってきました。取り組んできたのは、化粧品の触感を中心とした感性の研究。脳科学や機械学習も経験しました。基礎研究に携わった経験を生かして、研究所をみなとみらいに移転するにあたり、プロジェクトの専任としてS/PARKのラボ・オフィスのワークスタイルデザインや実装を行いました。
2020年4月のS/PARKオープン後は、1、2階のカフェとスタジオの運営、イベントプロデュースを行っています。資生堂研究所のオープンイノベーションプログラム「fibona」では、主にプロモーションを担当しています。S/PARKは「多様な人と知の融合」をコンセプトにして立ち上げた場所です。出来上がった場所がしっかり機能するように、研究員と生活者をはじめとした社外との接点づくりを推進しています。
今回のイベント開催の経緯とプログラムについて教えてください。
上村:
「美とイノベーション」をテーマに、美容業界をテック領域から眺めてみようというコンセプトで開催されました。企画のきっかけはfibonaのリーダー、中西裕子さんからのお声かけです。もともと中西さんとは、フランスのオープンイノベーションカンファレンス「ビバ・テクノロジー」をご一緒する機会があり意気投合。fibonaの構想や考え方も熱くお話いただき、深く共感していたんです。
DMM.make AKIBAでは、2016年から美容メーカーとスポンサー契約を結び、2017年には協働でビューティーハッカソンを開催していました。そのとき、美とスタートアップのコラボレーションに大きな可能性があることにも気づいたのです。
そこでイベントの前半では、まず中西さんからポストコロナ時代における美容業界についてお話をがあり、その後、DMM.make AKIBAでプロトタイプ制作を行っているスタートアップのLOAD&ROAD(パーソナライズできるIoT型ティーポット「teplo(テプロ)」を開発)と、既にfibonaでも共同研究を始められていると伺っていたno new folk Studio(走行データを収集・分析するスマートシューズ「ORPHE(オルフェ)」シリーズを開発)をお呼びして、資生堂の研究員の方々とパネルディスカッションしました。
オンラインイベントの参加者や反響はいかがでしたか?
上村:
約700人もの参加者が集まり、オンラインイベントとしては異例のメガヒットとなりました。内訳はDMM.make AKIBAやfibonaのファン、資生堂の社員の皆さん、大手企業の事業開発担当者やスタートアップの方々など様々です。「資生堂が、スタートアップとのコラボレーションに興味があることを初めて知った」というコメントも相次ぎました。
小田:
イベント自体の注目度の高さにも驚きましたが、イベント後にはテック系・ものづくり系の企業を中心に「コラボレーションしたい」という、たくさんの問い合わせをいただきました。普段はやはりビューティーに関係する企業からの問い合わせが多いのですが、これまであまりビューティー業界と接点のなかった方々からも反響があったことは思わぬ収穫でした。
私たちはこれまで社外のテクノロジーとの出会いを求めて、スタートアップとの共創プログラムなど様々なことに取り組んできました。これはテーマを決めて社外に募集をかけ、選考させて頂き、共創をスタートする…というタイプの進め方です。しかし今回、異なるコミュニティとご一緒させて頂いたことや、オンラインで参加の裾野が広がったことで、新たな出会いが生まれた手ごたえがありました。
私個人としても、多様なスタートアップの新しいテクノロジーに触れたことで、研究者魂に火がつくようなワクワクを感じました。イベント中はチャット欄での質問も活発で、参加者と発表者とのインタラクティブなやり取りがあったことで、好奇心が刺激されました。
fibonaはDMM.make AKIBAとは異なるアプローチのオープンイノベーションです。どのようなユニークネスがあると思いますか?
上村:
これまで様々な企業のオープンイノベーションプログラムやアクセラレーションプログラムを見てきましたが、fibonaは本質を捉えた上で目標設定をしているところに強みがあると感じています。
オープンイノベーションの本質は、ただスタートアップと繋がることではありません。中小企業でも大手企業でも、「新しい何かが生まれる可能性」を持つ相手と、制約を設けず広い視野で、柔軟に手に取り合うこと。
fibonaの場合、アプリやハード系のプロダクトのみならず、シューズや栄養指導など一瞬「化粧品と関係ある?」と驚くほど幅広い領域のプレイヤーと手を組んでいるところがユニークネスのひとつ。プログラムも、多様な可能性を持つパートナーとの出会いを重視されて設計されています。こうした思いが、参加メンバーの一人ひとりによく伝わっていると感じます。
そしてfibonaの最もすごいところは、社内への啓蒙・浸透が行き届いていること。オープンイノベーションを支援していると、せっかくコラボレーションが実現しても、社内の体制が整っていないとつまずいてしまうことがよくあるんです。その結果、前向きに張り切っていたスタートアップの方が勢いを失い、しょんぼりしてしまったりするんですね。
ですが、fibonaは自分たちの取り組みをきちんと発信しているし、社内に受け入れられやすいように前もって様々な準備もしている。こんな風にビジョニングや実行性、下支えが考え抜かれて展開されれているので、私はfibonaの大ファンなんです。
小田:
基礎研究をしていた頃、研究したことがお客さままで届けられない経験も多くって。研究にしても、オープンイノベーションにしても、頑張った人が報われるようにしたいんです。関係者みんなが満足できる道を模索しよう、という意識は私だけでなく、fibonaの共通認識になっていると思います。
研究は途中で何をしているのかが周りには見えづらいこともあり、社内への発信は本当に大切にしています。自分と同じ立場の研究員が頑張っていると、周りも応援したくなりますよね。このオウンドメディアの記事ができあがったときも、社内全員にメールを送ってお知らせする地道な取り組みを続けています。
そして大切なのは発信と受信の両方を行い、対話をすることだと思います。活動内容をしっかり発信してアピールすることだけでなく、私たちの活動に興味を持ち、S/PARKやイベントに足を運んでくださった社内外方の話に耳を傾けることも同じように大事にしています。社内でイベントをした後に、研究員から「実はこういう事をしてみたいんだけど…」と問い合わせが来ることも増えてきました。様々な人の考えに向き合うことで次の取り組みが生まれると思っています。
DMM.make AKIBAさんとご一緒させていただいて感じたのは、様々な企業をつなぐハブになっている幅の広さとフットワークです。われわれは自社の戦略やビジネスの成果を見据えながら協業を考えるのですが、スタートアップや大企業、中小企業を自由につなげられる可能性の大きさはお話を伺うだけでもワクワクします。今回のイベントでもそのプラットフォームとしての魅力を感じていました。
実際にどんなコラボレーションが生まれていますか? 協働する上で心がけていることは?
上村:
代表的なプロダクトとして、家族型ロボット「LOVOT[らぼっと]」があります。コロナ禍で、人との心を癒やしたり、外で遊べなくなった子どもたちの遊び相手として大活躍中です。開発したGROOVE Xは、DMM.make AKIBAオープン時から施設でプロトタイプを製作していて、私たちも長く支援してきたスタートアップです。また、ロケット開発のインターステラテクノロジズも“AKIBA発”の成長企業です。
まだ世の中にどう役立つのかわからないテック系スタートアップを、テックスタッフが技術面から、コミュニケーション面でコミュニティマネージャーや広報がバックアップして、全方位的に支援していくことを心がけています。
最近では、DMM.make AKIBAで開発されたプロダクトに“里帰り”してもらって、プロダクト側から私たちにお返しをいただくような循環を生むことも大切にしています。
小田:
私たちはfibonaでの共同研究という形だけでなく、S/PARKの施設を活用してイベントを実施することがあります。例えばno new folk studioさんと行ったナイトランイベントには、近隣企業の方にお越しいただき、光るスマートフットウェア「ORPHE TRACK」を履いて海沿いを走るというイベントを実施しました。
実は今回のイベント後、パネルディスカッションに登壇されていた(「teplo」を手掛ける)LOAD&ROADの方からコンタクトがあり、S/PARK Cafeとのコラボレーションイベントを開催することになりました。LOAD&ROADさんは、fibonaのキックオフイベントにも登壇してくださっていたので、両社にとって良い形でご一緒できる機会に恵まれて嬉しいですね。(2020/10/1追記:10/25開催のteplo premium restaurant vol.2 S/PARK Cafeです。インタビュー記事もぜひご覧ください。)
fibonaの活動を通じてつながりの生まれた様々な企業と、すぐに共同研究をすることは難しくても、お互いにとって良い関係を維持できればと思っています。研究開発となると共創が実現するまでのハードルが高くなってしまいますが、Proof of Conceptのレベルであれば気軽に試すことができます。S/PARKに来館される生活者の方にも楽しんでいただけるイベントのような「ユーザー参加型」のPoCは施設の運営側としても喜ばしいことなので、これからも積極的に行いたいと考えています。
化粧品以外にも食やエクササイズなど、資生堂の既存ビジネスから広がったビューティーの可能性を試せるプラットフォームや実験場としてS/PARKを活用していきたいですね。
(プロフィール)
上村遥子(かみむら・ようこ)/ DMM.make AKIBA コミュニティマネージャー
主にデジタル広告業界をへて、DMMへ。2016年より現職。 スタートアップエコシステムとAKIBAコミュニティ活性をミッションとしたコミュニティマネージャー。コミュニティを活性化する活動とバランスをとりながら、大手企業の事業創出支援サービス提供をするセールス部門にも所属。 これらの情報やネットワーク集積でスタートアップエコシステム・イノベーション文脈での講演登壇・フランス語を活かしたフランス政府や大使館との連携にも取り組む。
小田康太郎(おだ・こうたろう)/株式会社資生堂 グローバルイノベーションセンター
入社以来約4年間、化粧品の触感、脳科学などの基礎研究に勤しむ。その後、新しい研究所の専任メンバーとしてラボ、オフィスのワークスタイルデザインと実装に従事。都市型オープンラボS/PARKの立ち上げ後、S/PARKの1-2Fパブリックエリアの運営、イベントプロデュースに携わる。
(text: Kanako Ishikawa edit: Kaori Sasagawa)
Project
Co-creation with startups
Activity
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