なぜフィルム型サプリが生まれたのか。資生堂の開発メンバーが語る「Lämmin」プロダクト開発ストーリー
2021.02.52020年12月、資生堂のオープンイノベーションプログラム「fibona」の活動のひとつ「SpeedyTrial」から一つのプロダクトが生まれました。パッとひとくちで顔色めざめるフィルム型サプリ「Lämmin(ランミン)」です。
前回の記事はこちらから。
1年で開発するの!? 顔色めざめるフィルム型サプリ「Lämmin」開発秘話|企画メンバーの挑戦
「SpeedyTrial」とは、研究発のテクノロジーを活用しプロダクトのβ版を開発、展示会やクラウドファンディングなどを通じて、すばやく市場に投入するプログラムのこと。プロダクトの熱狂的なファンを創出し、出会い、コミュニケーションすることで、開発の初期段階から研究開発の「価値」を高めていくことを目指します。
「Lämmin」は、クラウドファンディングサービス「Makuake」を活用してサポーターを募る資生堂でも珍しいものです。クラウドファンディングは、ローンチ3日目で目標金額を達成。多くの方々に応援していただいています。
今回は「Lämmin」を企画した資生堂グローバルイノベーションセンター(GIC)の佐伯と岡村が、素材開発や製造、品質保証のプロである資生堂の開発メンバーと対談しました。
化粧品ではないフィルム型サプリの開発
佐伯:
まず、みなさんの経歴と合わせて、「Lämmin」の開発に協力して欲しいと言われて率直にどう感じたか、教えてもらえますか。
豊田:
私は過去に食品メーカーでの処方開発、資生堂本社での商品開発などの経験があり、OEM選定を含めた中味開発の経験がありました。今は食品事業の戦略立案をしています。今回関わろうと思ったのは、「食品だったから」ということが非常に大きかったですね。食品メーカーの研究所から資生堂に転職して10年以上経つのですが、資生堂で食品事業が成長してほしいという想いがあったんです。
研究所から食品を扱う事業部へ異動した頃にも、何度も食品事業の価値について議論してきました。今回、佐伯さんや岡村さんに声をかけていただき、食品事業の発展に貢献できるならと参加することにしました。
島田:
私は研究所の食品関連の部門で、研究と製品開発に取り組んでいます。実は以前からフィルム状の剤形を試してみたかったんです。今回の企画を通じてそれにチャレンジできて、新しい経験ができるのではないかと思いました。そこで「Lämmin」に使用する素材や剤形について検討・サポートするところから関わることになりました。
河相:
私は他の会社で食品や電気製品などの品質管理、品質保証に幅広く関わり、2年半前に転職してきました。もともと新しいことにチャレンジするのが好きで、化粧品以外の新規事業に関する品質保証規定を作成したくて入社したんです。今回、クラウドファンディングを使って新しいことをする、しかも食品だっていうのでワクワクして参加しました。
部署や役割の垣根を越え、誰かの力になるカルチャー
佐伯:
あらためて、「Lämmin」の成分や剤形について、みなさんに相談した経緯を振り返っていきたいと思います。企画チームには最初から「顔印象をパッと明るくする」サプリメントをつくりたいというコンセプトはあったのですが、どうすれば実現できるのか全く見当もつかなくて。食品なのか化粧品なのか、もしくはアプリやデバイスで実現するのか。いろんな可能性と選択肢を考えていた頃、「食品はどうだろう」とふと思って、食品の開発チームに相談しに行ったんです。
そうしたら、いろいろな人が集まってきて「そういう成分なら、あのメンバーが扱っていたぞ」「いや、この話だったらやはり島田さんだろう」と、みなさんどんどんアイデアをくださって本当に心強かったんです。その結果、島田さんを深く巻き込んでしまいました。
河相:
そういう相談をすると、みんながすぐ助けてくれるのは、資生堂のカルチャーですよね。
佐伯:
ええ。部署や担当領域を超えて力を貸してくれるオープンマインドなカルチャーがなければ、ここまで短期間でMakuakeでのローンチにこぎつけることはできなかったと思います。「口に含んだときに効果を感じるような味を出したらどう?」というアイデアも、島田さんからいただいたものでした。
島田:
研究所で最初に声を掛けていただいたのは僕だったと思うんですけど、資生堂ではこれまでフィルム状のサプリメントを開発した実績はありませんでした。ですが興味があって調べていた成分があったので、「口の中ですぐ溶けるにはどうすればいいのか」と聞かれたときにご紹介することができました。
豊田さんにご相談したのは、どういうステップで開発を進めればよいかを考えるときでしたね。
岡村:
審査会を通過してMakuakeにローンチすることが決まったときに、弊社で製品を作るときのルールと一般的なやり方に詳しい豊田さんに「助けて下さい、1年以内に食品をつくりたいんです」って、ご相談したんでしたね。
「本当にフィルムでなければダメなのか」本質に迫る問い
豊田:
もともと資生堂の本業である化粧品開発なら、設備も整っているし役割分担も明確なのですぐお応えできるんです。だけど新しいものを作るときは、研究所内で効果・効能の検証はできても、製造するにはOEM先のご協力を得なければなりません。
「こういう効果・効能のある成分はなにか」を考えることはできても、その素材をフィルム状にしたいとき、どこで・どのようにつくるのか経験やノウハウがなくて。それで、事業部内で新しい製品開発の経験があった私が、OEM先の協力を得ながら進めていく方法についてご意見をお伝えしました。
佐伯:
最初に剤形のご相談をしたとき、「フィルムじゃなければ、そのコンセプトは叶えられませんか?」という問いかけをいただいたことが大きな気づきになりました。そこから顆粒、タブレット、グミ、キャンディとあらゆる剤形を全て検討できたのは、企画の本質を再確認するために重要なプロセスだったと思います。
豊田:
これから先、企画が進行していく段階で「なぜフィルムなのか」について絶対に問われるときがくると思ったんです。その問いに答えるためには、「グミや飴などあらゆる剤形を検討した結果、コスト面やお客さまの使用感からフィルムがベストである」というロジックが必要で。その上でOEM先の選定や工場設備、製造方法を具体的に詰めなければなりませんでした。
佐伯:
このプロジェクトは、企画から剤形選択、パッケージ、ネーミング、そして実際にお客さまの手元に届けるところまで一気通貫でやるというものだったので、最適な成分や剤形を考え抜くところも醍醐味の一つでした。
今回、最終的にはシベリア人参を主原料にしたのですが、その前に違う原料を主原料として検討していた時期があって。その原料をOEM先に送ってフィルムの成分に溶けるかどうか検討していただいたら、溶けないということがわかったんです。世の中にローンチするときは、こういう様々なことにも気を配らなければならないんだという発見がありましたね。
岡村:
その後、豊田さんに「河相さんに入ってもらわないと、資生堂の品質水準を守りながらプロダクトをつくりきることができない」と言われて、河相さんにご相談することになりました。
佐伯:
島田さんと豊田さんは同じ研究所のビルで働いているんですが、河相さんは本社勤務なので、私たちのチームにとっても初対面でしたよね。
岡村:
品質保証の方々とやり取りしたことがなかったので、同じ社内なのに「厳しいタイプの方だったらどうしよう」ってなんだか緊張しちゃって(笑)。でもフランクにノリよく相談に乗ってくださってホッとしました。
原材料表記をするときも助けていただきました。豊田さんから食品を作るときに必要な書類やフォーマット類は一通りもらっていたものの、フィルムならではの注意点については河相さんにチェックしていただきました。
河相:
フィルム自体は他の食品でも使われることはあるので、前職で経験したことがありました。私にとっては初めての剤形ではなかったんです。ただ、表面が薄いため透き通って見えますし、外観で世界観/価値観を低下させないために外装や中身のフィルムも含めて厳しくチェックしなければなりません。それからフィルムという剤形は、厚みのコントロールが非常に難しいので厳しく見ていきました。
岡村:
工場の環境を見学させていただく際も、とてもお世話になりました。ひと口サイズにカットされるまでどういう工程を踏んでいるのか、私たちにはまったく想像もつきませんでした。河相さんにご一緒いただいたことで、どうやってフィルムを作っているのかがわかり本当に勉強になりました。
大企業は変革にどう向き合うか
佐伯:
「Makuake」のクラウドファンディングで応援購入のサポーターを募ることが決まっていたので、見た目の新しさも重要でした。その結果、フィルムという剤形にこだわったのですが、ふり返って「Lämmin」の開発で難しかったのはどんなところですか?
島田:
次々と企画の方向性が変わっていったので、それにマッチする剤形や原料をその都度調べていくのは難しかったですね。企画メンバーのみなさんに寄り添いながら、臨機応変によい方向に持っていきたいなと思っていました。
豊田:
今回のプロジェクトは、企画メンバーのみなさんがOEMの委託先選定から売価、マーケティング費用まで全部自分たちで考えて、最後に決裁者に納得してもらわなければなりません。それらを全て、一から調べて組み立て上げるところが、本当に難しい部分だったんじゃないかと思います。
たとえばフィルム状の製品を、製品の特徴が書かれた冊子とセットで提供したいけれど、その梱包作業はどこでどのようにやるのか、協力先や物流システムはどうするのか。そういったところまで考えるのは並々ならない苦労だったと思います。しかもその作業を詳しい誰かに投げるのではなく、あくまで自分達の力で解決する姿勢が周囲の人間を巻き込めた理由だと思います。いくら他者の方が詳しいからといって作業を押し付けていては、協力は得られなかったと思います。
河相:
スケジュールがとてもタイトだったのは大変でしたよね。今回ポイントだったのは、小ロットで製造してくれる工場で、かつ絶対に外してはならないクリティカルなポイントを押さえることでした。それからお客さまに届ける上でなくてはならない安全と、当たり前の品質をコントロールする必要もありました。
私の担当する品質保証とはブレーキではなくナビゲートするものだと思うんです。開発やマーケティング、研究の方々が熱意を持って形にしようとしているものに対して、法律や製造工場の課題をクリアして、商品化というゴールまで伴走していくのが仕事。やっぱり、せっかく動いているプロジェクトにNGは出したくないんです。NGを出すのは簡単ですけど。
資生堂という大企業のなかでオープンイノベーションをやるといろいろなしがらみやジレンマがあって当然です。これから大企業にとって大切なのは、新規事業に取り組んでもがき苦しむことだと思っています。大企業が大企業としてどう変革していくのか。資生堂が向かい合っていかなければならないテーマだと思います。
佐伯:
みなさん、本当にありがとうございました。この協力を商品化に繋げたいと思っています。
Project
Speedy trial
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