Activity

研究者のアイデアから生まれた「Lämmin」を輝かせる資生堂のデザイナーとコピーライターの本気

2021.02.12

資生堂のオープンイノベーションプログラム「fibona」の活動のひとつ、「SpeedyTrial」からパッとひとくちで顔色めざめるフィルム型サプリ「Lämmin(ランミン)」が誕生しました。

「SpeedyTrial」とは、研究発のテクノロジーを活用しプロダクトのβ版を開発、展示会やクラウドファンディングなどを通じて、すばやく市場に投入するプログラムのこと。プロダクトの熱狂的なファンを創出し、出会い、コミュニケーションすることで、開発の初期段階から研究開発の「価値」を高めていくことを目指します。

その製品化には、研究員からなる企画チームのみならず、デザイナーや、コピーライターなどとの連携も不可欠でした。今回は、「Lämmin」企画メンバーの佐伯が、パッケージ開発・クリエイティブチームに直撃。どのような思いで製品開発に関わったのか、本音を聞きました。

折り紙や帯のように折りたたむパッケージを模索


佐伯:
みなさんには「Lämmin」のパッケージやコピーの開発に協力していただきました。まずは、それぞれこれまでのキャリアや業務内容をお教えいただけますか。

小橋:
医療機器や文房具の設計を経験し、資生堂に転職して4年になります。いまは主にプラスチックなどを主材とした化粧品の新しい機構(メカニズム)やパッケージを「0→1」で開発・設計しています。

パッケージ設計を担当した小橋

廣川:
私は資生堂のインハウスデザイナーとして主にプロダクトデザインを担当しています。プロダクトでいうと一つのブランドのなかでリップから美容液、パッケージされるセットなどまで色々デザインしています。

宮澤:
私はコピーライターとして新卒で入社しました。普段は担当ブランドのCM、店頭、Webなどの広告制作を中心に、さまざまな企画に携わっています。

「Lämmin」開発メンバー。右から宮澤、廣川

佐伯:
「Lämmin」はフィルム型サプリというこれまで資生堂になかったタイプの製品でしたよね。企画メンバーが考えていた利用シーンからどのようにアイデアを広げて、パッケージを設計していったのでしょうか?

小橋:
携帯ケースから考えていきました。働く女性が主なターゲットとのことだったので、ポーチに入れて持ち運んだり、サッと使えるスピーディーさが必要になったりすると思いました。こうしたミニマルな世界観を作るためにユーザビリティに着目し、まず僕の方で3Dのグラフィックをつくって、フィルムの形状を生かすデザインを廣川さんと設計していきました。

廣川:
私の方では、プロダクトの存在意義や、どのような利用シーンで使用時間はどのくらいか、ライフスタイルや好きなもの、どれくらい忙しいのかなどから目指す雰囲気を考え、クールかつ温かみの感じられる包装やパッケージに落とし込みました。

今回は社内の審査会の段階で、3チームのデザインビジュアルをスケッチ段階からお手伝いしたんですけど、企画メンバーのみなさんから作りたい方向を聞いて絵をつくり、次第に実現性のある形状へとブラッシュアップしていきました。

例えば、個包装はできる限り薄いほうが持ち歩きしやすいし、2、30代の女性のライフスタイルに合ったミニマムでスタイリッシュな感じがいいよね、とアイデアを膨らませていき、スマートフォンケースに挟まるような、薄くて邪魔にならない個包装にしようと、小橋さんと設計相談しながらデザインを進めました。日本には折り紙をはじめとして、紙や着物の帯を折りたたむ文化がありますよね。そういうところからイメージを膨らませていきました。

小橋:
こうした廣川さんのインスピレーションやプロダクトの剤形から、方向性が“封筒タイプ”と“挟むタイプ”に絞れたので、そこから私がプロトタイプをつくるなどして、泥臭く試作していきました。

プロトタイピングしていく上でヒントになったのは、飛び出す絵本やマネークリップなどでした。最終的には、封筒とマネークリップの中間のようなパッケージができましたね。

肌の温度やぬくもりをカラーリングで表現

佐伯:
パッケージの表面を彩るオレンジ、ピンク、淡いパープルの綺麗なグラデーションや小冊子の表紙になっているオレンジが、デザインの鍵になっていますよね。これはどのようなところから発想したんですか?

廣川:
サプリメントに含有されているシベリア人参にポカポカ身体があたたまるエキスが入っているということだったので、オレンジが一番イメージに近く温度を感じるようなグラフィックにすれば親和性がよくなるだろうと思いました。体温や気持ちをセルフコントロールするという観点から、スキンをイメージさせるカラーリングも考えました。紫、ピンク、オレンジ、黄色というグラデーションは、肌が「冷たい」から「温かい」へと移り変わっていくことを表現しています。

佐伯:
パッケージの制作段階ではエコという視点もありましたよね。エコ認証が取れる材質なのか、印刷したとききれいに発色するかも重要でした。エコの観点はどう意識しましたか。

廣川:
携帯ケースを生産するときに機械で一発打ち抜くだけで生産できるようにしていて、生産段階の負荷を下げるチャレンジに取り組みました。届いたらお客さま自身で組み立てる仕様です。箱についてはこのプロダクト一枚一枚が機能性の高いものであることから、環境に優しい素材を使いつつ高級に感じる仕様にしました。箱は芯入りでしっかりしているので、リユースが可能です。

新型コロナの影響を受け、コンセプトを変更


佐伯:
2020年2月の審査会のあと、新型コロナウイルスが流行り出しましたよね。それを踏まえてそれこそ緊急事態宣言が発令される間際に、コンセプトを大きく変えました。アイデアをまとめる上で影響しましたか。

廣川:
むしろはじめに決まっていたコンセプトを大きく変えて、製品化にたどり着いたのがすごいと思いましたね。

佐伯:
コンペのときは、「人前に立つときの自分に自信を持つ」というメインコンセプトでした。ところが急にリモートワークが増えて、人前に出る機会が少なくなってしまった。

そこで、ストレスが溜まりがちなときに気持ちを切り替えたり、外出が特別なものになってしまったからこそ、ここぞ!という場面で使ったり。あるいはオンライン会議で顔印象をよく見せたり、マスクで隠れていない部分だけでも顔印象の明るさをアピールしたりすることに使ってほしい、そんな風に「顔色がいい」ということのベネフィットを訴求しようと考えました。私たちも戸惑い、試行錯誤しながら急ピッチでアイデアをまとめていきました。

宮澤さんにコピーライティングについて相談したのは、パッケージデザインやビジュアルができあがってきてからでしたよね。

宮澤:
はい。2020年の夏頃だったと思います。最初は廣川さんからお声がけいただきました。しかも研究所の担当者が佐伯さんだと聞いて、すぐに参加を決めました。

佐伯:
宮澤さんとは以前、社内研修で面識があったんですよね。これまで私たち研究所の企画メンバーがパッケージデザイナーやコピーライターと関わることは全くなくて。ご一緒できると知ってうれしかったですね。

宮澤さんには主に、製品に同梱するオレンジ色の小冊子と、クラウドファンディング用のWebページの制作に関わっていただきました。小冊子はコンセプトなどあったのでしょうか?

宮澤:
「開発者が語るLämminのガイドブック」というコンセプトで、ストーリー仕立てにしようと考えました。もともと小冊子には、Makuakeのクラウドファンディングページに記載しきれなかった企画メンバーの話を載せたいと伺っていたので。さまざまなエピソードを、わかりやすく、楽しくお伝えできるよう意識しながら編集していきました。

「パッとひとくちで顔色めざめる」というコピーも、ユニークな製品特長が魅力的に伝わるよう検討を重ねたものです。また、法律上問題のない表現に着地させることも大きなハードルでした。社内の薬事担当者の宮原さんにもアドバイスをいただきながら、さまざまな案を考えましたね。

薬事を担当した宮原

佐伯:
普段のコピーライティングのお仕事と、今回のプロジェクトの違いはありましたか。
宮澤:
普段の広告の仕事では、ブリーフィング資料に基づいてコピーを開発することが多いですが、今回はブリーフィングがなく、企画チームの意志がすべてでした。なので、チームのみなさんがやりたいことをどんな言葉で包んだら、きちんと相手に届くのかということを常に考えながら、表現に落とし込んでいきました。

チームが一つにまとまり、製品化へうねりを起こす

「Lämmin」企画メンバー。左から2番目が佐伯

佐伯:
みなさん、通常業務がある中で研究員と新規事業に取り組むことについて、どこにやりがいに感じてくださったのですか?

小橋:
どうしても普段の仕事では、部署や役割が明確なので、場合によっては他の部署が何をしているのか正直よくわからないこともあったんですよ。だけど今回はプロダクト開発のすべてのプロセスや関わるメンバーが見えていることによる一体感がありました。だからいつも以上に「製品をつくっているんだ」という手応えが感じられたんです。

売れ筋ありきではなく、「こういうものがあったら面白そうだ」という純粋なアイデアがベースになっていることも面白かったですね。最終的には違う形状になりましたが、当初コンビニで売られているギフトカードのように店頭に吊るせたらいいよね、といったこれまで試したことのない案が出てきたのも非常に面白いと思いました。

廣川:
研究者の方々が開発しているだけあって無理な仕様がなかったのは凄かったですよね。中味アイデアの段階からリアリティを持って企画を練っていたのだなと思いました。

佐伯:
廣川さんは今回の話を聞いて、ぜひ力になりたいと上司にも言ってくださったそうですね。どうしてでしょう?

廣川:
「Lämmin」のMakuakeへのローンチが決まったと聞いて、通常の商品化とは別の、研究所のオープンイノベーションプログラム発という珍しいルートで企画が通ったことは新鮮でしたし、スタッフのみなさんの努力と気合を感じていましたし、当初気軽にお声がけされて始めたスケッチのお手伝いというレベルから、一歩踏み込んで発売に向けて協力したいと思いました。企画メンバーのみなさんは商品開発が初めての方もいるので、実務面で協力できることがあれば一助になればと。

宮澤:
私も普段の仕事で研究所のみなさんと関わることが少ないので、新しいことにチャレンジできそうな予感がしました。社内の提案を通してきただけあって、みなさんの熱量がすごかったんですよね。とにかくアクティブで、レスポンスも早かったですし、頻繁にキャッチボールしながら進められたのが印象的でした。それぞれの専門分野の強みをかけ合わせて、新しい化学反応が生まれるのは、とても刺激的な経験でした。

佐伯:
2020年12月にクラウドファンディングのページがオープンになり、うれしいことに無事に目標金額を達成しました。ホッとしました。購入してくださったみなさんの反応が気になります。みなさん本当にありがとうございました。

Project

Other Activity