FEATURE: S/PARK Museum

サイエンステーブル②「フレグランス」


「Science × Art」、「Life of Beauty」、「Innovations in Beauty」、そして「Future」の4つのゾーンから構成されるS/PARK Museum。各ゾーンではミュージアム全体のテーマである「美」にまつわるさまざまな問いを投げかけられ、ただ見て回るだけでなく、理科の実験のようなインタラクティブな体験ができるようになっている。今回は、なかでも一番の見所である「Science × Art」ゾーンに設置された6つのサイエンステーブルから、「Fragrance」をご紹介。


過去の記憶を鮮明に呼び起こす不思議な力を持っていたり、また体や衣服、住まいが香ると心が豊かになったり。そんなさまざまな働きを持つ「香り」の仕組みについて知ることができるのが、こちらの「Fragrance」のサイエンステーブル。

「見ることや触ることができない『香り』がどういうものなのか。香りの感じ方や、香りの『形』をわかりやすく説明しています」と、案内してくれたのは資生堂 香料開発グループ研究員の東栄美さん。


「例えば、オレンジの香りであれば『オレンジ』という香りがひとつあると思われているかもしれません。実際は、地球上には40万種類もの香り分子が存在すると言われていて、オレンジなどの果物や、バラなどの花の香りはそのうちの数百種類が組み合わさっています」と、東さん。

私たちが香りを感じるのは、呼吸した空気にのって鼻に入ってきた「香り分子」を嗅細胞がとらえ、その刺激が電気信号となって脳に伝わることで引き起こされると考えられている。香り分子の化学構造は多種多様で、構造が似ていても香りのタイプが異なるものもあれば、構造が異なっていても香りのタイプが似ているものもある。私たちの脳はこの複雑な香り分子をとらえ、多くの香り分子を嗅ぎ分けているのだ。


「この装置では、普段、親しんでいる食べ物や植物の香りがどういった分子で構成されているかが視覚的にわかるようになっています。まずはオレンジ、バラ、紅茶、ローズマリー、はちみつのなかから好きな香りを選んで嗅いでみてください。その香りは、16本の試験管のどの香り分子から構成されているでしょうか?『香り分子ボタン』を押すと、その香りを構成する分子の入った試験管が光るようになっています」と、東さん。それぞれの香りの「香り分子ボタン」を押していくと、共通している香りの分子を視覚的に知ることができるような仕組みになっている。「全然違うものだと認識している香り同士でも、分子で見ると実は同じものが入っていたりします」と、教えてくれた。


次の装置は、実際に化粧品などに使われている香りのつくり方と近い調香を体験できるもので、「基本的に化粧品に使用されている香りはトップノート、ミドルノート、ベースノートという揮発性の異なる香りのグループで構成されていて、その組み合わせ方次第でさわやかで軽い印象の香りになったり、重厚感のある香りになったりします」。そう言いながら東さんが装置のレバーを動かすと、ポンプから放出される香りが微妙に変化して、香りのブレンド作業を体験できる。


「こうしてレバーでバランスを調整しながら、『自分が好きな香りってどういうものだろう?』というのをぜひ体験していただきたいです」と笑顔を見せる東さん。もとは調香を担当していて、新人の頃に数百種類の香料原料のひとつひとつの香りを覚える訓練をしたそう。今では、それらの香りを嗅ぎ分けることができるとか。「自分がどういう香りを好きかということを試せる機会ってあまりないと思うので、このサイエンステーブルで香りについて知り、例えば『自分はシトラスがたくさん入っている香りが心地良い』などといったことを感じて帰っていただければ嬉しい」と、想いを語ってくれた。

1917年には日本人によってつくられた最初の本格的な香水を発売した資生堂。以来、香りの力、香りと心の関係などについてのさまざまな研究を重ね、フレグランスを中心に多くの商品に生かしてきた。さまざまな美しさに奥行きを与える香りの世界を、S/PARK Museumへ体験しにきて欲しい。