旭啓之×望月重太朗×大月信彦 Z世代のコンシューマーと考える未来のビューティー
2019.12.9fibonaの活動のひとつである「Co-Creation with Consumers」は、S/PARKの施設やコンテンツを活用し、研究員とコンシューマーが直接コミュニケーションしながら、商品やソリューションを開発していく活動だ。
今回のプロジェクトが対象とするのは、Z世代のコンシューマー。これからの世の中を担っていく世代と研究員とが近い距離で関わり、“これから求められるビューティー”を探っていく。リードを担当するのは、当プロジェクトの発案者である資生堂の旭啓之。プロジェクト推進のために必要なコミュニケーションの場づくりをファシリテートするのが、REDD inc.代表の望月重太朗(もちづき・じゅうたろう)さんと、幅広い業界の企業・個人と事業コラボレーションを行うspodsプロジェクトの大月信彦(おおつき・のぶひこ)さんの二人だ。まったく新たな試みだという当プロジェクトについて、3人に話を聞いた。
今回はどのようなプロジェクトが開始したのでしょうか?
旭:
そもそもは、私自身が「未来のビューティーはどう変わっていくのか」ということに興味を持っていたことが始まりです。デジタル化が進んでいる今、モノの移り変わりやトレンドの変化がとても早く、今のビューティーのあり方も、今後大きく変化するように感じています。中でも、アプリでメイクアップした顔をシミュレーションできたり、顔自体を加工できたり、ということが手軽にできますよね。それをSNSなどにアップする人たちを見ているときに、コンシューマーたちが自ら次のビューティーの姿を生み出しているようにも感じました。そうした背景があり、未来のビューティーについてコンシューマーと一緒に考え、最終的にものづくりに繋げていきたいと思いました。今回、研究員とコンシューマーのコミュニケーションの場づくりがキーとなるため、その役割を担って頂くためにお二人に参画いただきました。
大月:
今回お声がけいただいてまず驚いたのが、企画の段階からコンシューマーを巻き込んだ開発を研究所がやるということ。多くの場合、コンシューマーを巻き込んだワークショップやリサーチというのは製品ができた後や市場投入前にマーケティングチームなどがやるもので、それを製品のアイデアづくりの段階から、しかも研究所がやるというのは、多くの人が「えっ?」となるようなことなんです。
旭:
実際のところ、私たちはプロダクトがほぼ出来上がってから「こういうものを作りましたが、いかがでしょうか」とコンシューマーに聞くことが多いです。しかし今回は、「そもそも何を作りましょうか」という企画の段階からコンシューマーとともに作っていきたい。こういったやり方は今までにほとんど前例がなく、研究員からすると到底理解できないことだと思います。今回、プロジェクトをスタートさせるにあたっても「これをやって、本当に良いものが作れるのか」と、社内でも疑問の声がたくさんありましたが、それでもこの取り組みをやりたいと何度も提案し、ようやくスタートを切ることができたんです。
大月:
企業が行うコンシューマーに向けた一般的なリサーチやワークショップは、例えるなら、大体出来上がった料理を試食してもらって「美味しいですか」と聞くこと。「これ、もうちょっと味が濃い方がいいんですよね」「甘い方がいいですよね」くらいは言えるかもしれないですが、「そもそもこの料理はいらなかった」とは言いにくいと思います。モノや情報があふれている世の中では、「これが美味しいでしょう」と言ったところで、お腹いっぱいで試食すらしてくれないかもしれません。そうなると、そもそも何が食べたいか、すなわちアイデアづくりから参画してもらわないとダメですよね。しかも価値の源を作っている研究員さんと直接行う、そこにすごく共感しました。
望月:
コンシューマーに向けたモノをつくるときに、その相手とちゃんと会話をして理解しながらつくられているケースというのは、実は少ないんです。自分たちの生活のなかで触れ合う人たちのことはわかるとしても、そうでない人たちのことは掴みにくい。特に日々使われるものをつくる上で、コンシューマーのことを把握せずに研究を重ねることはそもそも違和感があるのではないか?そういったことが今、いろいろなところで言われています。資生堂さんはそこに早い段階で気付かれていました。よくあるのは、リサーチ系の定量的な調査をするチームが「(コンシューマーは)こんなことをやっています」というデータを渡して、それを分析しながらモノをつくるということ。研究員が実験中のものを直接コンシューマーに見せ「これはどうですか?」という話を傍でするケースって少ない。実験や調査をする過程で、「欲しいかな。こっちは欲しくないかな」とコンシューマーとかなり近い距離でニーズを捉えモノをつくっていくというのが、これからのものづくりのスタンダードになるでしょう。それが今回のfibonaのプロジェクトの一番の根底にあると捉えています。
旭:
私自身もかつて研究員としてプロダクトを開発していましたが、プロダクトテストは基本的にはグループインタビュー形式でした。社員と壁一枚隔てたところにコンシューマーがいる特殊な環境下で、作り手側の考えや想いが伝わらぬまま機械的にインタビューが行われていたのです。プロダクトの良し悪しのフィードバックは得られるものの、本当にコンシューマーのニーズを捉えたものづくりができているのかな、ともやもやしていました。今回のプロジェクトでは、コンシューマーと研究員の距離をかなり詰めたものづくりをやっていく、というところが大きなポイントだと思っています。研究員とコンシューマーが隣同士に座り、一緒の空間で、想いや傍にいないと感じ取れないような微妙な感情の違いを捉えつつ「これはどうでしょう、違いますか」というやり取りができるようにしたいです。
望月:
コンシューマーと研究員が距離を詰めてものづくりをしていくということは、理想として語るのは簡単ですが、実際やるとしたら怖いんです。なぜなら普段そういうものづくりをしていないですし、研究所がそもそも開示しない情報を扱っているチームだということもあります。宣伝部や広報部であれば、いろいろなタレントさん、カメラマンさん、外部パートナーとお仕事をする機会がたくさんありますが、研究所はそういう機会が少ない環境です。そういったチームの中にまったく違う生態の人たちが突然入っていくので、違和感が生まれますよね。でも、そのような違和感も飲み込んだ上で、コンシューマーのリアルを見て感じることが重要です。例えばテレビで見て「あ、イタリアのこの地域に行ってみたいな」と思って実際に行ってみたら、美しい景色はあるけどその反面、スラムのような危ない地域があったりする。理想と現実のギャップをダイレクトに把握できるようなリアルに近い立ち位置でのものづくりを、いかに自分たちがやっていけるか。今後、5年後、10年後にはきっと当たり前になるけれど、誰かが一歩目を踏み出していかないと、事の起こりがありませんよね。
前例のないプロジェクトのスタートを切るにあたって、3人でどのようなお話をすることから始めたのでしょうか?
望月:
まず話したのは、「誰のためにコトを起こすか?」ということでした。自分たちがつくるものは、誰かが「まさにこれが欲しかった!」と言ってくれるようなものにしていきたい。一緒にものづくりをするコンシューマーは誰が良いかを考えたときに、旭さんから「Z世代」というワードが出てきました。
旭:
将来のビューティーが変わっていくと想像したとき、これからのビューティーをつくる世代の人たちと考えていきたいと思いました。
望月:
その次に話したのが、Z世代という対象を定めたときに、その対象のことを一番理解していて間に入ってくれるパートナーが必要ですよね、ということです。研究員とZ世代のコンシューマーが混ざるための触媒となるパートナーを2社、大月さんとディレクションしました。一社は、20年以上も日々若者と話をしながら、彼ら彼女らの声をそのままプリントシール機という製品に落とし込んできたフリュー株式会社。今を生きるZ世代の一般的な価値観を熟知している彼らが、「この人だったら良いんじゃないか」というZ世代のコンシューマーを僕らのワークショップに連れてきてくれます。もう一社のパートナーは「ヒト・コト・モノ」を知的財産ととらえ、エンターテイメントの新しい可能性を日々探っているコンテンツプロダクションの株式会社TWIN PLANET。彼らはZ世代の中で一番尖がっているトップインフルエンサーをワークショップに連れてきてくれます。
大月:
ワークショップでは、一般の視点とトップインフルエンサーの視点から「どんな未来を見据えながら、なにを今はじめると世の中に共鳴を起こせるのか」ということを探ります。SNSを通じてその影響を大きく及ぼす人と、その影響を受けながらも日々を生きる一般の人との二軸の目線を知ることが重要です。彼女・彼らには、ごく日常的な話から始めてもらい、自分たちのいまの価値観をシェアしてもらいます。そこに僕らが集めたワークショップのプロをはじめ様々な専門家をうまく混ぜることによって、ワークショップの時間やでてくるアウトプットを走りながら良いものにしていく、という努力をしていきます。
プロジェクトの輪郭が見えてきました。今後のスケジュールとしては、どんなことが予定されているのでしょうか?
旭:
今回のプロジェクトのアウトプットは年内にお披露目できる予定ですが、そのアウトプット次第では、さらなる研究や開発を数年単位で稼働させていきます。今回はあくまで「With Consumer」のひとつのケース。プロトタイプのようなものなので、この取り組みがいろいろな研究員への刺激となって、活動が広がっていくといいなと思っています。
今回のプロジェクトは鋭意進行中。あっと驚く未来のビューティーの姿は、fibonaサイトでもレポートしますので、お楽しみに!
Project
Co-creation with consumers
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