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自分の“好き”を軸にパーパス・ドリブンに生きる「Around Beauty Meetup #11 」開催

2022.07.1

美にまつわる社内外のさまざまなイノベーターが集まり交流する「Around Beauty Meetup」。11回目となる今回は「グローカルな音楽家が描くクリエイティ”美”ティ」をテーマに、音楽、教育、コミュニティリーダーなど、国内外で多岐にわたり活躍するサルディ佐藤比奈子さんを迎えてお話を伺った。

まず、fibonaの豊田智規によるオープニングスピーチからイベントは始まった。これまでの回と違い、「ものづくりとチームスポーツが好きな豊田です」と所属や肩書よりも自分が好きなことに重点を置いた自己紹介をする豊田。今回のセッションでは人柄や自分の軸が重要な要素となるということで、「皆さんも自分の軸がどこにあるかを考えながらセッションを楽しんでください」と告げて参加者を迎え入れた。

「好き」を貫いた結果、可能性は無限に広がった


アイスブレイクで参加者自身の「好き」を思考し共有した後、Meetupはサルディさんのプレゼンテーションへ。サルディさんも、自身の好きなものの紹介からプレゼンテーションを切り出した。サルディさんの「好き」は芸術、コミュニケーション、コミュニティの3つ。しかしそれ以上に「好き」、つまり大切にしているのは既存のラベルや枠にとらわれず学び続けられる環境と柔軟な働き方・生き方だという。

音楽家としてだけでなく、フリーランサーとしても活動するサルディさん。日米の通訳・翻訳をしたり、日本の中高生向けにアメリカでの短期研修プログラム各種に長年携わったり、またパブリックスピーカーとしても活躍している。ボストン在住の仲間と共同で立ち上げた「ボストン女子会」は450人以上が参加するコミュニティへと成長し、日本でもリユニオンを定期的に開催しているという。音楽業界でのジェンダー平等を目指す団体「WOMEN IN MUSIC」では、ボストン支部の役員を務めるとともに、日本支部の立ち上げにも携わった。

「べき論」から解放され、「好き」を取り戻すまで


このように、彼女がいくつもの顔を持つ生き方を選んだきっかけは、高校卒業後に進学したポピュラー音楽界の名門、バークリー音楽大学での経験にあるという。

一見クリエイティブで自由に感じられる音楽家の世界だが、現実には、固定観念や枠にとらわれた「べき論」が多数存在する。「メジャーデビューしないと一人前とは言えない」「フロントパーソンこそが成功であり、裏方や音楽以外の仕事は音楽家として失敗」などはその一例である。

加えて、「バークリーの音大生たるものジャズを学んで当然」「教授や同僚に評価されてこそ本物」といったバークリー生独自の「べき論」も存在し、サルディさんは自らプレッシャーをかけるような環境に飛び込むことになってしまった。

そのような過酷な環境に飛び込むバークリー生は、才能もさることながら努力を欠かさない。プレッシャーに苛まれたサルディさんには、自分の存在がとても小さなもののように感じられたという。「自分には音楽以外のアイデンティティがあることも分かってはいましたが、それではいけない気がしたんです。成功の定義や方程式に当てはまらない自分は音大生失格なのかもしれない、と悩みました」とサルディさんは当時を振り返る。自分の「好き」を見失ったサルディさんは、毎日10時間の練習をする生活に意味を見出せなくなり、休学を決断した。

サルディさんは休学を機にスペインへ遊学。音楽を手放した3か月は歴史や語学、文化を学びながら大切なものを少しずつ取り戻す時間だった。「ジャムセッションをしている間は学位や学歴は関係なく、音楽と音楽で分かり合うことができます。コミュニティに溶け込んでおいしいものを食べて笑い合って、自分の好きな時間はそういうところにあると気付きました」とサルディさんは語る。

その後、サルディさんはピアノから音楽ビジネス経営へと専攻を切り替えて復学した。ジャズだけに絞らず、世界の伝統音楽に触れたり、美術史を副専攻にして美術館のボランティアスタッフを始めたりと活動の幅を広げた。道がなければ自分で作る、それでいいと吹っ切ることができた。

メンターとの出会いと対話で明確になったミッション


サルディさんには、もう一つの転機がある。30歳に差し掛かる頃に出会った、脳科学や言語学の知見を持つとある女性にメンターになってもらったことだ。スピーチスペシャリストでもあり、多言語を流暢に話し、自身のコンサルティング会社経営をしているというユニークなキャリアに興味を持ったサルディさんは、コーチングの機会をもらって数か月にわたり彼女と対話を繰り返したことで自分の軸がクリアになり、おかげでその後の活動に邁進できたという。

その後もさまざまなメンターとの出会いがサルディさんの進路を広げた。アーティストとして活動しながら子どもを育て、パネリストとしても活躍する音楽業界の女性たち。また、今は亡き美術史の恩師からは、教育者のあり方を含め、自分がどういう人生を送りたいかという指標へ彼女を導いた。

メンター達との出会いによって導き出されたサルディさんのこれまで数年間のミッションは、「音楽や芸術を通して人々がつながり、ともに学び合う機会や環境を創出すること」だった。サルディさんは「当時、自分のミッションが明確になったことで、これまでの『好き』がつながりました。『この軸で私は生きていく』という自信が生まれてからは、パーパス・ドリブンに楽しく生きられています」と笑顔で語る。

パーパス・ドリブンな生き方に重要なことは自分の中に存在する、ありとあらゆる仮説や前提を理解した上で崩したり、Re-thinkしたりすることである。これらを実践するためには会話や場、文面に含まれる認知バイアスをまず理解することが大切であるとサルディさんは語る。そのバイアスに気付くためにもメンターや仲間の存在は貴重であると補足し、プレゼンテーションを結んだ。

複数の軸の掛け算で自分だけの景色を見つける


後半は、枠にとらわれず新しいものを開発するというミッションを持つみらい開発研究所の大谷毅、スキンケア製品の開発を通じて人が「楽しい」と思うことを追求しているブランド価値開発研究所の広瀬友香を交えてパネルトークが展開された。

モデレーターのfibonaメンバー鈴木敬和が最初に提起したのは「0→1を生み出すのにどうやって枠を外せばよいか」という質問。大谷は「複数の軸を持つ」というアイデアを共有した。

研究開発において、自身の専門分野である化学から考えるのが最初の一手としては現実的だが、ユニークな研究をするためには専門領域に固執する必要はない。バイオ、コンピュータサイエンス、アートなど、複数の軸を掛け合わせることで可能性が広がる。「1000人に1人レベルの軸があるなら、それを3軸かけ合わせれば10億分の1。日本で1人、世界でも数人しか見出だせない景色が作れます」と解説した。

対照的に広瀬は、好奇心旺盛のあまり軸が絞れないことが悩みだと打ち明ける。それに対しサルディさんは「軸は流動的でもいいと思います。今週はこの3つ、というように入れ替わることで発見が得られたり、新しいアクションのきっかけが生まれたりして良いですよね」と共感を寄せる。

そのコメントを受けて広瀬も「軸が流動的だと、たくさん掛け算ができるとも考えられますね。恐れずに 『今これにハマっている』と言葉にすることも大事なのかもしれません」と前向きに同調した。

チャレンジを促す、建設的な意見交換ができる環境づくり


枠にとらわれない考え方が大切である一方、組織人にとって企業のミッション、ブランドのコアバリューは切り離せないものでもある。広瀬は「双方にとってハッピーなところをどうやって見出すのか悩んでいます」と相談する。2年前にフリーランスから会社員という新たな一歩を踏み出したサルディさんは、就職活動の段階から意識的に自分と近いパーパスを持つ組織を選んでいたと当時を振り返った。

自分の軸を知るためには頭で考えるだけでなく、体験をもとに「これが大切」「これが好きだ」と感じることが大切であるとサルディさんは付け加える。人と時間を共有し、対話や実験を重ねる中で腹落ちするミッションを見つけることが軸を知ることにつながるとコメントした。

体験の重要性には大谷も深く共感。「向上するために行動すること自体が第一歩として成功と言えると思います。それで何か得られるものがあれば大成功、と捉えてもよいのではないでしょうか」と提案した。

ここで鈴木は「パーパス・ドリブンで活動する中で、うまくいかなかったケースもあったのでは」と失敗を乗り越えるための解決のアイデアを尋ねた。問いに対し、サルディさんは「うまくいかなかったから失敗、というわけではありません」と答える。

「失敗と捉えるか、成長への学びと捉えるか。たとえ良いアイデアでも、環境によってうまく機能しない場合もあれば、時間がかかることもあります。建設的な意見交換ができる、挑戦しやすい環境を作ることも重要です」とアドバイスを送った。

イベントも佳境を迎え、参加者同士のオンライングループディスカッションでは活発に意見交換が行われた。あるグループではコミュニケーションそのものに話題が及び、「どうして人とコミュニケーションを取るのか」について議論が繰り広げられた。最終的に「相手のことを知るのが楽しい」というコミュニケーションの根源的な価値を再認識する着地となり、予想外の新鮮な体験ができたという感想が寄せられた。

「べき論」からの解放のヒントは、外の世界と関わりを持つこと


最後に、fibonaリーダーの中西裕子がクロージングとして今回のMeetupを振り返った。「『べき論』からの解放」というフレーズが印象に残ったという中西は、「会社として、個人として、いろいろな『べき論』にがんじがらめになっている自分に気付いていないケースは少なくありません」と指摘する。

そこから解放されるためのヒントは自分を掘り下げるよりも違う世界、違う考えを持つ人と関わることで見えてくるのではないかとし、「このfibonaのMeetupも、外の世界を知り、枠から解放されるきっかけになれば」と今後への期待を込めてMeetupを閉じた。

イノベーションを起こす姿勢として、私たちはできる限り所属や枠組みにとらわれず「自由な発想」であろうと努めるものの、その実践は決して容易なことではない。サルディさんの豊かな自由の根底には確かな「自分の軸」があった。クリエイティビティを生み出すために、信頼できるメンターや仲間から気付きを得つつ、自分の軸を見つけ育てることからまずは始めてみたい。


<プロフィール>
サルディ佐藤 比奈子(さるでぃ さとう ひなこ)

音楽家・教育家・コミュニティーリーダー。米国ボストンで16年を過ごしたのち、2020年秋に拠点を東京に移す。Ableton株式会社Head of Education APAC。8歳から「小さなジャズピアニスト」として日常的にステージに立つ。奨学金を受けて米バークリー音楽大学に留学、ピアノ演奏と音楽ビジネス経営を学び卒業。過去にカーネギーホールやケネディーセンター、ブルーノートNY、ギリシャアテネのヘロディス・アッティコス音楽堂などで演奏。Women of the WorldやMario Frangoulis, Zili Misikと主に活動の他、Amal Murukus, National Arab Orchestra, Greek National Orchestra, Angelique Kidjoなど多数アーティストと共演。教育分野では、芸術を通して考える力を養う独自カリキュラム開発や、日本の中高生達向け海外研修プログラムでの指導やゲストスピーカーとしての講演を積極的に行なっている。同時に、コミュニティづくりやNPO運営など多様な肩書きでグローバルに活動してきた経歴を持つ。2019年4月「Berklee Urban Service Award」受賞。
https://www.hinakosaldisato.com/

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ビューティー分野に関連する異業種の方々と資生堂研究員とのミートアップを開催し、美に関する多様な知と人を融合し、イノベーションを生み出す研究員の熱意やアイディアを 刺激する風土を作ります。

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