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肌環境と自然環境の共通項から見えてきたサステナビリティ Around Beauty Meetup #16 開催

2023.12.14

美にまつわる社内外のさまざまなイノベーターが集い交流する「Around Beauty Meetup(以下、ABM)」も今回で16回目。今回のMeetupは、資生堂有志研究員によるPodcastプログラム「美のひらめきと出会う場所 〜資生堂S/PARK〜(以下、S/PARK Radio)」の発起人である斎藤雅史が、「“ひらめきの種”を参加してない人たちにも届けたい」という想いをfibonaに相談したことがきっかけとなり、開催に至った。今回はこれまでと趣向を変え、S/PARK RadioとPodcastプログラム「百百(ヒャクヒャク)」の2つのPodcastプログラムによる、公開収録という形で開催された。ゲストスピーカーとして「百百」の立石従寛さんと陳暁夏代さん、そして資生堂からブランド価値開発研究所の高草木未紗子、みらい開発研究所の中島実莉が登壇し、「私たちはどのように『自然との共生』をしていくのか」というテーマに沿って、ざっくばらんなクロストークが行われた。

今回、社内からの持ち込みとして企画を実施することはABMとしても初の試みとなったが、fibonaの鈴木敬和は「fibonaを起点にしながら研究員のやりたいことを一緒に実現していきたい」と、その意図を共有し、斎藤による趣旨説明へとバトンを渡した。


S/PARK Radioと百百、2つの視点から「自然との共生」を考える


S/PARK Radioは、偶然にもこの日がちょうど2周年の記念日。S/PARK Radioでは資生堂の研究員とパーソナルビューティーパートナーがパーソナリティを務め、これまでに131人の研究員やゲストが出演し、多彩なトークを繰り広げてきた。

「美」と「ひらめき」というキーワードが掲げられたこのプログラムは、業務の一環ではなく有志の自主制作によって立ち上げられたもの。業務へのインスピレーションを誘発する内容も多いが、あくまでもハードルは低く、堅苦しさを抜きにした気軽さ、身近さがゆえのファンも多い。また、資生堂の社員も登場するため「業務内では知ることのできない一面に触れられる」と、社内コミュニケーションにも一役買っている。

彼らの目標は「ボトムアップからの価値創造」。課外活動ではあるものの、社員の創造性や個性を引き出すコンテンツとして組織にも影響を与えている。

一方、今回のコラボレーターとして迎えた「百百」は、約1年前にスタート。もともと友人だったという立石さんと陳暁さんによる、台本なしの軽快なトークが多くのファンを魅了する人気プログラムとなっている。

立石さんは現代アーティストとして活動しており、「境界を分解・合成する」ことをテーマに、AIや空間、映像などさまざまなメディアを使って表現を行っている。また、陳暁さんは中国出身で、中国と日本の市場に精通したプロデューサー兼クリエイティブディレクター。カルチャートレンドにおける橋渡し役としても活躍の場を広げている。異なるバックグラウンドと高い感度を持つ二人の関心事に、「百百」リスナーも毎週興味津々で耳を傾ける。

今回のクロストークには、資生堂からブランド価値開発研究所の高草木未紗子、みらい開発研究所の中島実莉が参加した。4人が関心を抱く共通のテーマ「自然との共生」を巡り、思いの向くままに言葉のキャッチボールが交わされた。


肌荒れはなぜ起こる? 善玉にも悪玉にもなる「日和見菌」とは?


陳暁さんは「小さい頃から肌荒れに悩んでいたんです」と最初のトークを切り出す。根本的な原因が分からず、あらゆる方法を試すが解決法がわからない日々が続いたそう。「皮膚には菌やダニが棲む」という断片的な情報も目にするが、私たちの肌では何が起きているのだろうか。

それに対し、中島は「皮膚は体内と体外の境界線」という表現を挙げ、最新の研究結果を紹介する。体内に生息する菌が皮膚に影響するだけでなく、田舎には自然由来の、都会にはヒト由来の菌があり、体外から影響する菌には地域差があることも明らかになっているという。

さらに、腸内菌で知られる善玉菌・悪玉菌は肌にも存在すること、善玉・悪玉両方の特性を持ち、環境によってもたらす作用が変わる日和見菌が菌の大多数を占めることを紹介すると、百百チームは興味津々。昨今は善玉菌を活性化させる「菌に良い化粧水」も開発されているそうで、陳暁さんは「(化粧水で)菌に餌をやっている感覚はなかった!」と驚いていた。

また、顔の細菌でも種類によって選ぶ環境は異なるという。皮膚に棲む菌は現在特定されているものだけで約1000種類あり、額には脂を好む菌、頬には水分を好む菌、毛穴の奥底に棲むものもいる。菌レベルの肌診断や菌に直接作用する化粧品などの研究開発も行われているが、中島は「まずは菌にとって良好な環境を作ることが大切です」と、清潔を保ち健康的な生活を心がけることを呼びかけた。


人の手による適切なメンテナンスが自然環境を持続させる


続いて高草木は、有名な昔話の一節「おじいさんは山へ柴刈りに」を例に挙げ、植生の豊かなバランスを生み出すのは人の手による適切なメンテナンスであると主張する。柴刈りとは、倒れた木を片付けたり小さな枝を剪定したりすること。実際に山の手入れを行っている立石さんも、山の豊かな環境を維持するのに大切な作業であると賛同した。

立石さんは人・人工・自然の新しい新陳代謝を模索する「TŌGE(トウゲ)」プロジェクトを行っている。戦後の拡大造林政策により一時は林業が盛んになったものの、輸入材の台頭により放置されている全国の山林のうち、活動している離山(長野県)も例にもれない。立石さんは友人らとともに、山に経済的価値を還元する活動として、木から抽出した成分を使った木食ドリンクの開発や野草園の育成に取り組んでいる。

「TŌGE」プロジェクトの話から、立石さんは「森を整えると生態系が復活する」という循環に着目し、柴刈りを行う一方で、あえて倒木を残し鳥の飛来を促している例を紹介。高草木も「人の目に見えないところでも関係し合うものがあるんですね」と、人間の視点だけでは多様性を生み出せないことを再認識していた。


肌に棲む菌に学ぶ、私たちと自然の共生のしかた


ここまでの話を受けて高草木は、自然界の多様性の話を再び菌の話と照らし合わせ、総括的に「あらゆる善・悪に絶対的なものはなく、良い面・悪い面を併せ持つのだと分かりました」と語る。それを受けて陳暁さんも「環世界や循環について、小さい頃から生活の中で学べると、大人になったあとも思考のプラクティスになりそうですね」と提案した。例えば、日和見菌のように量や濃度によって作用が変わるという考え方は、化粧品や薬品の安全性を理解するためにも重要な要素となる。「(量や濃度によってものごとを判断する考え方について)学校教育の中で教える意義は大きいと思います」と、高草木も同意した。

また、陳暁さんは、昨今取り沙汰される「サステナブル」というテーマについて、「自分の生活や体に直接影響が見えないから、自分ごと化しづらいのでは」と指摘。「“樹木を伐採するとニキビができる“というのは大げさですが、それくらい自分に跳ね返ってくることがあれば意欲的になれそう」と、冗談交じりにコメントする。立石さんは、それを肌環境と自然環境の対称性に重ね、「自分の中にある自然(肌環境)を観察することで、外の世界(自然環境)が見えるようになるかもしれません」と言い換えた。

話題は菌の一生や繁殖の仕方にも及び、菌にまつわる関心は高まる一方だったが、トークは終盤へ。肌に棲む無数の菌や生態系の多様性の話に触れ、「このイベントを通じて物事の見方が変わりました」と陳暁さんは清々しく微笑んだ。立石さんは多様性をベクトルに例え、「人間は善悪など一つのベクトルで物事を見てしまいがちですが、対極ではなく1度、0.1度の違いかもしれない。それが重なっていくと、均衡の状態が生まれる。イチゼロで分けないことが大事ですね」と、サステナビリティと多様性の均衡に対する気づきを表現した。


専門的知見と好奇心の応酬がインスピレーションを刺激するMeetupに


最後に、クロージングとしてfibonaリーダーの中西裕子がメッセージを寄せた。地方出身である中西は、父が他界したのを境に手入れをする者のいなくなった山が、姿を変えていくのを目の当たりにした経験があるという。今回のクロストークも自身の経験と重ね合わせつつ、「見えない境界線の中で対立や共生を繰り広げる菌の世界を想像して楽しむことができました」と、登壇者に感謝を伝えてMeetupを締めくくった。

終演後も参加者たちは知的好奇心が冷めやらぬ様子で、交流会では近くの人と感想を語り合う様子が各所で見られた。既存のリスナーだけでなく、このイベントをきっかけにPodcastにも興味を持つ参加者もあり、新たなコミュニティが生まれていた。

「サステナブルとは多様性の均衡」という一つの結論に到達した4名。普段聞かれることのない質問の数々、そして普段聞くことのできない専門的な回答に、登壇した4名を含め会場の参加者全員がインスピレーションを掻き立てられる刺激的なイベントとなった。収録された音声はS/PARK Radio、そして4名によるアフタートークも「百百」にて公開されているので、白熱するトークをぜひ音声で聞いていただきたい。

- 当日の公開収録(S/PARK Radio|Note)こちら
- アフタートーク(百百|Podcast on Spotify)こちら

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ビューティー分野に関連する異業種の方々と資生堂研究員とのミートアップを開催し、美に関する多様な知と人を融合し、イノベーションを生み出す研究員の熱意やアイディアを 刺激する風土を作ります。

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