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コーヒーの多様性と奥深さが導く、新たな扉 Around Beauty Meetup #14 開催

2023.02.17

美にまつわる社内外のさまざまなイノベーターが集い交流する「Around Beauty Meetup」。コロナ禍の影響からオンラインでの開催が続いていたが、14回目となる今回は2年ぶりのリアル開催が実現した。今回は「コーヒーのプロフェッショナルと考える、日常を彩るお客さま価値」というテーマで、京都のスペシャルティコーヒー専門店 「タイムズクラブ」 で代表を務める糸井優子さんに、多くの人を惹きつけるコーヒーの魅力について伺った。

最初に、fibonaの豊田智規によるオープニングスピーチが行われた。豊田はこのMeetupの趣旨を説明し、「価値観によってものの捉え方は人それぞれで、正解はありません。Meetupでのディスカッションを通じて業務のヒントを持ち帰り、明日からのチャレンジにつなげてください」と来場者に語りかけた。

アイスブレイクでは、自己紹介とともに各々の「日常を彩るもの」を共有した。参加者が近くの人同士で向かい合う光景も2年ぶり。初めは緊張感もあったが、挨拶をきっかけに場の空気は少しずつ和らいでいった。


「おいしいコーヒーとは?」業界を変えたスペシャルティコーヒーの登場



1985年に京都でカフェを創業した糸井さんは、現在焙煎士としてだけでなく、コーヒーの香りや風味を評価する品評会の審査員としても国際的に活躍している。アルバイトで勤めていた喫茶店の仕事が楽しく、自身でも店を構えることにしたのがはじまりで、当時注目を集めていた自家焙煎にも興味を持ち、小さな焙煎機で焙煎を始めた。やがて「行ってみないとわからない」と産地にも足を運ぶようになり、世界をめぐりながら知識と経験を積み重ねて現在に至る。

糸井さんのこだわるスペシャルティコーヒーが社会的にも認知を得るようになったのは2000年頃から。「おいしいコーヒーとは何だろう」ということが世界的に考えられるようになった。1990年代にスターバックスコーヒーのような新しいタイプのカフェが登場して業界が一変した背景も追い風となり、近年のスペシャルティコーヒーの人気に繋がった。

コーヒー豆の扱いも従来のようなコンテナ単位の大まかなランク分けではなく、米や日本酒のように細かく産地や農園ごとに客観的に評価するシステムが採用されるようになった。風味特性、トレーサビリティ、品質の観点から採点し、80点以上のものがスペシャルティコーヒーと認められ、それに満たないものはコモディティコーヒー、オフグレードと振り分けられる。純米大吟醸だけが日本酒ではないように、コモディティコーヒーにはコモディティコーヒーの良さがある。


一杯のコーヒーが注がれるまでに存在する、無数の選択肢



コーヒーの葉は寒さに弱いため、生産地は赤道を挟んで北緯・南緯23.5度までに集中する。標高の高い、爽やかな風が吹く山地が適しており、その条件が揃うブラジルは世界一のコーヒー生産量を誇る。ブラジルでは土の段階からオーガニックにこだわる農園も多い。また、インドでは国が立ち上げた大規模基金による社会活動の一つとして、オーガニックとバイオダイナミックを取り入れたコーヒーの生産に力を入れている。

コーヒーはコーヒーチェリーと呼ばれるさくらんぼのような果実から生豆(種子)を取り出して作られる。生豆を取り出す精製方法には、コーヒーチェリーを天日干しして乾燥・脱穀する「Natural」と、水に漬けて発酵させ洗い流す「Washed」という大きく分けて2つの方法があるが、最近それらを組み合わせた新しい処理方法がいくつも生産国で始まりほかの国にも拡がってきた。
―取り出された生豆は出荷され、世界各地で焙煎・抽出してコーヒーとして楽しまれる。

一口にコーヒーと言っても、さまざまな工程の違いで味や風味は大きく変わる。生産地や品種の違いはよく知られているが、農園や先述した生豆の加工法も要因の一つになる。ワインなどでよく「テロワール」という言葉が使われるが、コーヒーもまた、その土地の気候や地形によって同じ品種、同じ木でも味が変わるのが面白い。また、消費国に到着した後も、焙煎の度合いや粉砕の粒度、抽出の器具や方法によってさまざまな風味が加わるのもコーヒーの特徴になっている。



コーヒーを通じて見えてきた世界の最新事情



スペシャルティコーヒーを端的に示す言葉として「from Seed to Cup」というものがある。言葉の通り種の状態からコーヒーとしてカップに注がれるまでの全工程を管理することがスペシャルティコーヒーのポイントになる。携帯電話やインターネットの普及によって生産者と容易に繋がれるようになったり、産地を訪ねて直接話せるようになったりしたこともスペシャルティコーヒーに注目が集まった一因だろう。

今やマサイ族の生産者もアメリカのバイヤーもコーヒーの相場にすぐアクセスできる。「情報格差が大幅に縮まったことでフェアな世界になってきています」と糸井さんは解説する。生産地の一つ、ルワンダを例に挙げ、「虐殺のイメージが根強いかもしれませんが、政府は「アフリカのシンガポール」を目指し、経済成長・インフラ・観光・治安の安定に力を入れています。また、ルワンダでは月に1回、国民全員が外に出てゴミ拾いをするんです。今、東アフリカで一番治安が良い国かもしれません」と肌で感じた世界の変化を紹介した。

また、糸井さんはコーヒー生産に携わる女性の地位向上を目的とした組織・ IWCA の日本支部を立ち上げ、代表理事を務めている。世界経済フォーラム発表のジェンダーギャップ指数によれば日本は世界116位なのに対し、ルワンダは6位。大使や大臣などの要職に就く女性も多くいるという。「日本も今後改善されていくのでは」と期待を示しつつ、糸井さんは今後も世界中のコーヒーの現場を見てきた知見を活かして業界の進化を支えていく。


意外と近い!?「コーヒー」と「化粧品」の共通点と相違点



後半は、「大のコーヒー好き」と言うみらい開発研究所の岡﨑俊太郎、そしてfibonaメンバーで今回のMeetupを企画したブランド価値開発研究所の幸島柚里も加わって、糸井さんとともにパネルセッションを行った。

コーヒー好きの岡﨑と幸島は糸井さんの話に興味津々で、コーヒーにまつわる質問をいくつかした後、3名で「コーヒーと化粧品に共通する点」を議論した。化粧品の香料開発に携わる幸島は、「化粧品の香りは世界観やストーリーをゴールに設定し、そのイメージに合わせて創っていきます。一方、コーヒーは初めからゴールが決まっているわけではなく、素材を最大限に活かして良い香りや良い風味を見出していきます」と香りの作り方の違いを挙げた。

岡﨑は「化粧品には、肌に効果をもたらす機能的価値と気持ちを高める情緒的価値があります。コーヒーも同じで、カフェインには覚醒効果という機能的価値があると知られていますが、その香りには生活を豊かにする情緒的価値もあります」と共通点を挙げた。また覚醒効果だけでなくコーヒーが気持ちに訴えかける要素に注目し、「今後化粧品ももっと注力していかなくてはならない領域」と指摘した。

二人のコメントに糸井さんも同意。「コーヒーは不思議な飲み物で、私たちは『がんばるぞ』というときもホッとしたいときもコーヒーを飲みます。それは飲むことだけでなく、香りに求める要素も少なくありません。コーヒーから香りを取ったらそこまで飲まないと思います」とコメントした。

「コーヒーの香りは、多少強くても嫌な気分になることが少ない気がします。化粧品でも、誰もが共通して良い気分になれる香りが作れないものでしょうか」と岡﨑から幸島にリクエストすると、幸島は「香りはお客さまのコンディションによって感じ方が変わるもの。揺らぎのある毎日に対して、さらに誰もが100点と感じる香りを提供するのは難しい課題ですね」と頭を悩ませる。糸井さんは「肉が焼ける香りもみんな好きですよね。原始的な本能として、火を使う香ばしい香りに刺激を受けているのかもしれません」と示唆した。

コーヒーの味や香りはどのように作られているのか。糸井さんは「浅煎りにするとコーヒー豆本来の香りを引き出すことができます。一方、深煎りにすると『キャラメライズ』といって、甘みや油分が出てとろみのある味わいになります」と解説し、生み出したい風味によって焙煎を変えていることを明かした。


テイスティングで体感! コーヒーの味や香りが持つ多様性



百聞は一見にしかず。参加者は隣接するS/PARK Cafeへ移動し、糸井さんが厳選した産地や焙煎などの異なる4種のコーヒーのテイスティングに挑戦し、テーブルごとに感想や意見を交わした。一同は品評に使われるチャートを見て表現の多様さに驚きつつ、「ベリーの香りがする」「フルーティーでおいしい」などと思い思いに味や香りの違いを体感していた。

さらに、S/PARK Cafeの浅野雄哉店長がコーヒーに合う軽食として、このMeetupのためのメルバトーストと2種類のディップソース(スパイス香るチョコレートクリームと洋ナシのフレッシュジャム)を提供。参加者は、軽食によってさらに増幅する味と香りの広がりを堪能し、ディスカッションはさらに盛り上がった。

宴もたけなわとなり、fibonaプロジェクトリーダーの中西裕子からクロージングのコメントが寄せられた。実はコーヒーにあまり良い思い出がないという中西だが、「今日のコーヒーはとてもおいしくて、新たな扉を開いた感じがします」と感激。糸井さんの活動についても「大好きなコーヒーを通じ、地に足をつけてご自身の五感で世界を体感されているところが素敵で印象に残りました」と共感を寄せた。また、今回のリアル開催に触れ、「情熱を傾ける好きなもの・ことを本人の口から伺えること、さらにはそれを今回の糸井さんのコーヒーのように体感できること。さらにはそれをきっかけに自身のそれを人に語り、コミュニケーションを重ねることって改めで面白いんだな、とより一層実感しました」とMeetupの価値を改めて共有した。

嗜好品の一つにすぎないコーヒーだが、口にすることで人々を豊かな気持ちにさせる魅力を秘めている。また、その魅力を紐解くとさまざまな要素によって無限のバリエーションを秘めている奥深さがあり、化粧品と共通する要素を多く抱えていることは参加者にとっても新たな気付きだったのではないだろうか。

また、興味や好奇心を突き詰めていくと世界へと接続できることを教えてくださった糸井さんの人柄に感化された人も多いだろう。広さと深さを合わせ持つ今回のテーマをリアルの場で体感できたことに感謝しつつ、次回のMeetupにも期待が一層高まった。

Project

Cultivation

ビューティー分野に関連する異業種の方々と資生堂研究員とのミートアップを開催し、美に関する多様な知と人を融合し、イノベーションを生み出す研究員の熱意やアイディアを 刺激する風土を作ります。

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