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マリアージュを通じて五感の体験価値を探る「Around Beauty Meetup #4」開催 

2020.03.6

美にまつわる社内外のさまざまなイノベーターがS/PARKに集まり交流する「Around Beauty Meetup」。時代とともに変容する「ビューティー」について、さまざまな視点から考えるべく、第4回目は人間が持つ「五感」を通じた体験にフォーカス。パティシエのキャリアに始まりソムリエ、ティーテイスター/ティーブレンダーなど幅広く活躍する塚越慎之介さんをゲストスピーカーとして招き、五感の掛け合わせによって生み出される「マリアージュ」について理解を深める。味と香り、食感、さらには視覚や聴覚、そして気持ちの面にアプローチし、それらをマリアージュさせる塚越さんによる食体験とは。

複数の業界からたくさんの人が集まったこの日、まずは参加者全員が3、4人のグループになり、師走の開催らしいこの日のお題「あなたの2019年を表す漢字一文字」を使いながら自己紹介を行った。
「2019年は新しい業種やチームの方とコラボレーションすることが多かったので『新』という漢字を思いつきました。それから、結婚もして『新』生活が始まりました!」といった内容をシェアしてくれる参加者の方もいて、毎回同様に盛り上がっていた。

続いてはfibonaのリーダーである中西がマイクを握る。「私たちが取り扱っているビューティーは、時代とともにいろいろと変わっていくものだと思っていますが、未来のビューティーについてどう考えていけば良いのか?と考えた時に、『五感』というものがひとつフォーカスに挙がりました。そんな折、食事をしに行ったレストランでソムリエとして働く塚越さんにお会いしました。提供してくださった食事とドリンクのペアリングが、その解説も含めて驚くほど素晴らしかったんです。塚越さんのお話は、化粧品の処方開発をしていた頃に感じていた自分の感覚にとても近いものを感じました」と、今回のゲストトーク依頼に至った背景を紹介した。

「こんにちは。普段は代々木上原にあるミシュラン一つ星レストランsioでソムリエとしてワインの提供をしているのですが、食事だけではなく、お客さまと空間にも合わせたドリンクのペアリングを行うということを大事にしています」と、塚越さん。ソムリエに加え、ティーテイスターとしてお茶の販売やコンサルティング、ボトルに詰める「ボトリングティー」というお茶の開発なども行っている。

ソムリエとして行っているペアリングでは、アルコールであればワイン、そしてノンアルコールであればフルーツやハーブ、そしてスパイスを合わせたお茶やその他ソフトドリンクの提案をしており、その際に重要となってくるのが「マリアージュ」だと言う。

「マリアージュとは、『結婚』という意味を持つフランス語なのですが、相性の良い2種類以上のものを掛け合わせた時に、より味わい深いものになっていくということを意味します。飲食業界の中では食べ物と飲み物を合わせることとされていますが、個人的には空間、人、音楽と、なんでもマリアージュは起こると思っています」。

マリアージュさせる際に重要なのは「調和」、「中和」、「補完」という3つの要素が同時に行われていることだと説明する塚越さん。

「『調和』というのが、同じような要素を持つものを合わせて、お互いを高め合うもの。例えば、フルーツタルトにベリーフレーバーのソースを合わせたりすることです。一方で、よく生牡蠣にはレモンやライムを絞ると思いますが、ワインを合わせる場合、爽やかなシャープな酸味と海の要素であるミネラル感のあるものを合わせることによって牡蠣の旨味を引き出すことができます。これにより牡蠣にない 酸味の要素を足すことで 補完が行われます。これが『補完』するということです。そして3つ目ですが、例えば『肉には赤』と言われるのは、味の強い肉料理には同じく味の強い赤ワインが良く合うから。またワインの渋みが肉の油を抑えるということもあり、そのまま飲むとあまり美味しく感じなかったワインを、肉を食べた後に飲むと『飲みやすい』と感じる。これが『中和』にフォーカスしたペアリングです」。

マリアージュさせる際の重要な要素として、さらに「テイスト」、「フレーバー」、「テクスチャー」があると、テンポ良く解説していく塚越さん。

「日本では甘味、旨味、酸味、苦味、塩味という『五味』を基本としている『テイスト』の相性を理解するというのも美味しさの秘訣となっています。『甘みと苦味は相性が良い』、または『苦味と旨味は相性が良い』といったようなことがあります」。

「フレーバー」は、言葉通り食材やドリンクが持っている香りを読み解くことなのだとか。「例えばイチゴ牛乳を食べたことがあれば、イチゴと牛乳の相性の良さというのは理解できますよね。ミルクのようなニュアンスがあれば『イチゴとは相性が良いはず』という風に考え、連鎖で読み解くことができます」と、塚越さん。

最後に、食感や温度といったいろいろなものがあるのが「テクスチャー」だ。温度の面では一般的には同じくらいのものを合わせるのが良いとされているが、「お風呂に浸かりながらアイスを食べたことはありませんか?温かいところで冷たいものを食べるとすごく美味しいですよね」と、塚越さん。教科書に書いてあることよりも、普段の生活のなかで感じることの方が正解である場合がすごく多いと教えてくれた。

塚越さんの丁寧なレクチャーに聞き入っていると美味しそうな香りが漂ってきて、2品の料理とともに2種類のお茶が手渡された。

「今日は皆さんにも実際にペアリング体験をしていただきたく、S/PARK Cafeに協力してもらいました。鴨肉には黒い柄のカップのお茶を、小豆のギモーヴには白い柄のカップのお茶をペアリングしています。鴨肉は口に含んでいただくとまず鴨の味わい、その後キノコとチーズから感じる旨味がじわじわと広がってきます。そしてディルという香草を噛んでいただくとハーブの香りに変わってくるはず。この一連の流れに合うよう、スリランカのお茶をご用意しました。小豆のギモーヴに合わせたお茶は、香ばしい香りがするかと思います。3年熟成の熟茶というもので、フレーバーのなかに熟成からくるミルキーなニュアンスと生キャラメルを連想するような香りがあり、味わいの方向性がこのギモーヴとすごく似ています。こちらはあえてキンキンに冷やしてサーブさせていただきました」。

「わぁ、味わいが深まった!」「更においしく感じます!」などと感嘆の声があがり、そのおいしさから、会場はたくさんの笑顔に包まれた。
料理とお茶を堪能し、次は塚越さんが働くレストランsioの料理以外の面でのこだわりについての話に。

「お客さまが来店されて最初に触るものはおしぼりです。漂白剤の香りがするのはもっての外、一般的な白いものではなく今治のタオルを使っていて、サービススタッフが毎日洗濯・管理をして、愛情を持って育てています」と、塚越さん。また、暗いところで食べると人間は味覚に集中するという理由から、店内の証明は暗めに設定されているそう。音楽に関しても徹底しており、ゲストの入店から退店までを約3時間とし、その間に同じ音楽が流れることがないよう、D Jと契約をして制作している。「2時間から2時間半ほどになっているコース構成に合わせた音楽を流しており、それをひとつのレールとして接客もコントロールしています」と、空間と音とサービスとの掛け合わせについても教えてくれた。

続いて行われたのは、資生堂グローバルイノベーションセンターの東と倉島が交わってのパネルセッション。東は化粧品用の香料の開発、倉島はシャンプーやコンディショナーなどの製品の開発を担当している研究員である。まず、「それぞれの専門のなかで最適な組み合わせや掛け合わせというのを研究したりサービスしていくに当たって、大切にしているポイントはなんですか?」とfibonaメンバーの豊田から質問が挙がった。

「例えばカクテルのような飲み物を食事に合わせるときに、近すぎるものは使わないという方法があります。例えば柚子のフレーバーというのは結構残りやすく、レモンを合わせるとレモンのフレーバーが消えてしまう。このように、近すぎると複雑味が出ないので、ただ似ているものを使っているというのはマリアージュではなく、少しずつずらしながら掛け合わせて、複雑な要素を出していくというのをいつも考えています」と、塚越さん。

東は、「私たちは心理的に緊張やストレスを感じた時に、特有の硫黄化合物系のにおいである「ストレス臭」が出ています。私たちの製品で、そのストレス臭を包み込んで嫌なにおいを目立たなくする香料を使用しているものがあります。このように、お客さまが解決したいと思っているようなことにも合わせた香りづくりをするという視点を持って、研究開発に取り組んでいます」と回答。

また倉島は、「シャンプーとコンディショナーの掛け合わせで大切なのは、土台を整えるシャンプーを洗い流した後の髪の状態がどのようになっていて、さらにそのあとコンディショナーを使った際に、髪の上にどのような成分がどれだけ残っているかいうこと。実はすごく複雑なことが髪の上で起きているんですよ。コンディショナーの成分がより髪に残りやすくするために、あえてシャンプー単体ではなめらかになりすぎないように設計することもあります。その場合、究極の仕上がりを達成するのはコンディショナー後になるんです」と発言し、3人からそれぞれの専門分野で行われている「マリアージュ」についての紹介がされた。

倉島から、「髪を洗って、洗顔をして、ボディを洗って、入浴して、というお風呂場でのルーティーンのなかでの総合的な香りについて、あまり考えたことがなかったなというのが本日の気付きとしてあります。そこで、sioの空間全体での香りに対するこだわりなどがあれば教えていただきたいです」とリクエストがあると、塚越さんは「店内は無臭ですが、お手洗いは香りにこだわっています。なので、お手洗いに入ったお客さまは笑顔で出ていらっしゃることが多いですね(笑)。ここでは、対比的な空間演出がされています。それから、コースのなかですべてが香りの強いお皿だと疲れてしまいますので、その点でもフレーバーにはすごく気を使っています。温度が上がると香りも同時に上がるので、温度差で緩急をつけることも。香りは、コースのなかで抑揚をつけるひとつの要素と捉えています」と回答した。

「今うかがったお店の話のように、お風呂場での総合的な香りの提案というのも、今後考えていきたいですね」と倉島がコメントすると、東も「確かにお風呂の空間って結構狭いので、香りが混ざり合うということを考えると、同じような香りばかりではなく、それぞれ異なる香りだけれど組み合わさった時にはトータルとして心地よい香りになるというのは、面白そう。ただ、シャンプーからボディソープまですべて揃えて使っていただかなくてはならないというのは結構ハードルが高そうで、そういった意味でもやりがいがあるかもしれませんね(笑)」と、笑顔で語った。

その後は質疑応答や、参加者同士での感想や発想をグループでディスカッションする時間が設けられ、最後はお待ちかねのネットワーキングタイムに。今回もS/PARK Cafeによるケータリングが振る舞われ、塚越さんや登壇者も含め参加者全員での歓談のひとときを満喫した。

こうして和気藹々とした雰囲気で幕を閉じた第4回目の「Around Beauty Meetup」。実際に食のマリアージュを豊かに実感しながら、「五感」の組み合わせによる新たなビューティー体験について思いを馳せるインスピレーションとなったのではないだろうか。

また、後日談となるが、この第4回Around Beauty Meetupでの出会いをきっかけに、株式会社ユーハイムさんと株式会社 博報堂アイ・スタジオさんとがコラボレーションし、実験的な新たな取り組みがスタートしたとの共有をいただいた。
これからもAround Beauty Meetupを通じて、参加者のアイデアを刺激しながら、今回のような新たなコラボレーションがうまれるきっかけとなるような場、ムーブメントを加速させていきたい。

Project

Cultivation

ビューティー分野に関連する異業種の方々と資生堂研究員とのミートアップを開催し、美に関する多様な知と人を融合し、イノベーションを生み出す研究員の熱意やアイディアを 刺激する風土を作ります。

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