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ビジュアルメイキングにまつわる変化のきざしを共有する「Around Beauty Meetup #6」開催

2020.11.20

美にまつわる社内外のさまざまなイノベーターがS/PARKに集まり交流する「Around Beauty Meetup」。 第6回目は新型コロナウイルス感染症の影響によってその在り方が今まさに変容しつつある「ビジュアルメイキング」がテーマに掲げられた。大企業に勤めながら「ラクガキ」という根源的な表現行動を用いたワークショップ等を推進し仲間と共に場や組織づくりを手掛けてきたTransformation Designerであり、一方では自分を伝えるファッションや身体づくりにも取り組むタムラカイさんをゲストスピーカーとして招き、ビジュアルメイキングを含めた化粧行為、そして化粧の意味の変化にまつわるディスカッションの様子をお届けする。

今回のAround Beauty Meetupは、オンラインとしては初めてとなる外部参加者の皆さんを招いた会でもある。開始時間になると資生堂グローバルイノベーションセンターの様々な部署の参加者はもちろん、多様な企業や団体などで活動している方々が続々とセッションにログイン。少しの緊張と大きなワクワクの詰まる空気が漂う中で進行がスタートした。

会の冒頭、fibonaのリーダーを務める中西裕子が今回のテーマと期待についてこのように語った。「新型コロナウイルス感染症が流行する前と今とではコミュニケーションの在り方がガラッと変わりました。変容したこれからの世界で何を信用して何に共感していくのか、化粧の意義や新たな化粧とは何かを考える会になればと思っています。タムラさんはいつも水玉のファッションで自己ブランディングを有言実行されている方の1人でもあるので、それにかかわるお話も楽しみにしています。」

視覚情報でコラボレーションするオンラインならではのアイスブレイク

オープニングの後は早速アイスブレイクだ。リアルに会場に集うイベントの場合、アイスブレイクは参加者が互いを知って打ち解けあい、期待感を共有できる時間だが、オンラインイベントではなかなかそれが難しい。そこで今回採用されたのがオンラインでの共同編集を通した自己紹介のビジュアライゼーション。進行役であるfibonaメンバーの古賀由希子が「ニックネーム、普段のおしごと、今の気分の3つを入力してくださいね。ではスタート!」と声をかけると続々と共同編集用のシート上でたくさんのカーソルがうごめく。その様子を見ながら、今回のゲストのタムラさんもマイクをON。「共同編集の画面で文字が入力されていく様子は、『皆がここにいるな』と感じることができますよね。これもある意味グラフィックであって、視覚情報として人の存在を感じることのできるもの。人がいる賑わい感をカメラ以外で感じられるっていいですよね。」と早速ビジュアルのパワーについての気づきが共有された。

私たちをコントロールしている要因を超意識的に感じ取ろう

アイスブレイクを通じて参加者のワクワクが共有された後、その空気を引き継ぎながらタムラさんのゲストプレゼンテーションが始まった。

タムラさんは現在、自分の肩書きを「Transformation Designer(トランスフォーメーションデザイナー)」と名乗っている。所属する富士通で現在担当している仕事が会社の変革に関わることであり、社外活動でもデザインの要素を活用しながら変革を仕掛けてきたからだ。そんなタムラさんのマイ・パーパス(目指す姿)は、「世界の創造性のレベルを1つあげる」。世の中はひとりのスーパーヒーローの登場により変わるのではなく、様々な人のいいところが少しずつ引き出されつながって変わるのではないかとタムラさんは考えている。

プレゼンの冒頭にまずタムラさんが触れたのは、「百聞は一見に如かず」ということわざや五感と意識に関わるデータを例とした、視覚情報の重要性。そしてその視覚情報を創り出すデザインのプロセスには様々な要素が絡み合っていることを説明した。色彩心理学や、環境自体が人や動物に意味を与えるアフォーダンスの概念、ある文化における常識・非常識の概念などの前提もその要素の一例だ。

すなわち、私たちがデザインに限らず視覚情報を通じて人の感じ方や行動をコントロールするためには、逆にコントロールに関わる要因を意識していなければそれは可能にはならないということでもある。だからこそ、効果的なビジュアルメイキングをするためには、まずは日常を超意識的に感じ、観察し、分析するのが重要だというのがタムラさんの見解だ。

感情を伝え合うためのビジュアルメイキング「エモグラフィ®️」

そんなタムラさんが無意識的に子どもの頃から続けていることがある。それは「ラクガキ」。言葉になる前のイメージを描くこともあるが、より意識的に絵を描いて想いを伝えあうことができるようにラクガキの講座を立ち上げ、本も出版している。その活動を通してタムラさんは『エモグラフィ®️』というメソッドも生み出した。

「みなさん、紙とペンを準備して一緒にやってみましょう」とタムラさん。『エモグラフィ®️』はエモーション(感情)とグラフィ(記法)を掛け合わせてタムラさんが作った造語だ。表情を捉えるときに本能的に見ている「くち(5種類)」「め(5種類)」「まゆ(4種類)」を掛け合わせて100通りの表情を描けるようにしている。

例えば、口を入れ替えただけでも表情、つまりは伝わる感情が変わる。さらに面白いのは、言葉の横にエモグラフィの表情をつけるだけで、その言葉の裏にある感情が追加されることだ。
タムラさんはこれをお子さんと苦手なニンジンを一緒に食べるためにも使っていたと話す。食べてもらえなくて困り顔のニンジンさんをニコニコにするにはカレーを作ろう、カレーを作るためにはスーパーにお肉を買いに行こうと感情起点でストーリーを構成し、行動をデザインしていくというわけだ。

また、エモグラフィは様々なイベントでタムラさんがグラフィックレコーディング(人々の対話や議論をグラフィックで可視化する活動)を行うときにも活用されている。

デモンストレーションは、参加者チャットも大盛り上がり。「使いやすそうですね!」「流行りそう!」「描きながら聞いています!」と感想が飛び交っていた。

ファッションや自分の身体を通して他人や自分と向き合う

話は次にファッションの話題へ。タムラさんはその水玉のファッションが知り合いの中では有名だそうだが、実は水玉の服を着続けるようになったきっかけがあった。それは、顔が覚えられない・表情が識別できないという特徴をもっている相貌失認の方に2度目に会ったときに初回同様に水玉の服を着ていたので覚えてもらえていたというエピソードだ。自分を印象づけ記憶に残るファッションの強さを実感し、ここ10年くらい水玉を着続けているというタムラさん。

そんなタムラさんも昨年40歳に。40歳になる直前にタムラさんは友人から、孔子の言葉「四十而不惑」とは「40歳は自分の限界を作らない歳である」という意味をもともとは持っているのだという話を聞き、限界を作らずに自分をコントロールしようと一念発起。「自分史上最高の状態で年を重ねる」というテーマを掲げ、その一環としてフィットネスジムでのトレーニングを開始した。やってみてわかったのは、かっこいい服を着るよりもどんな服も似合う身体になるほうが経済的だということと、加齢に抗うのではなく筋力など身体を整えてうまく付き合うことの重要性だ。

新たな生活でto Youからto Meに変化するビジュアルメイキング

そんな中、急に新型コロナウイルスの影響でオンラインを通じて仕事やイベントを行う状況がやってきた。当初タムラさんは「オンラインならではの感性品質が問われるに違いない」と考え、パソコン・マイク・一眼レフのカメラを揃えて人に届けるビジュアルや音声をよくすることを意識した。しかし、半年近くが過ぎた現状では、仲間との間ではカメラはオフだし、打合せではグラフィックレコーディングは行っていないと言う。その理由をタムラさんは「Stay homeでビデオ会議を続けていると、かつてないほど自分の話している姿や他の人の姿を意識して見てしまい、その結果とても疲れているのではないか」と分析している。

そんな気づきからタムラさんがまずひとつ現在気を遣ったほうがいいと感じているのが仕事のアプリやSNSで設定する自分のアイコンのビジュアルである。人は情報の足りない部分があると自分の都合のよい情報で埋めるという本能があるので、アイコンで少し情報を補わなければならないくらいでちょうどいいのではないか。また、グラフィックレコーディングはリアルな場だからこそ流れてしまう対話の可視化が重要であったが、オンラインでのコミュニケーションではチャットの文章や絵文字・スタンプで常に情報や感情が可視化され残されていくという形に変化した。つまり、新しい働き方においてある意味私たちは以前よりも更にビジュアルメイキングを重要視している状態になっているのではないかとタムラさんは考えている。

更にタムラさんはもうひとつ気づきがあるという。
私たちはリアルに会わずにカメラオフの日々が続く中で、「これまでは相手への理解を促すビジュアルメイキングをしていたが、現在では自分の無意識をコントロールするビジュアルメイキングを行い始めたのではないか。」というのがタムラさんの仮説だ。例えば最近タムラさんは、髪型も自然に前髪をおろすスタイルにし、シャツもボタンがついているものよりも着心地のいいボタンのないTシャツにしている。つまりこれは、人に見せる自分のために我慢や無理をするのではなく、自分の心や身体、環境を心地いい状態に整えることを無意識的にやっているということだ。これをタムラさんは「Me to Me」の世界になったと表現した。

「『自分らしさ』や、『こんなときにラクな自分でいられるな』というものをいかに作っていけるか?」「自分をよくするために何ができるのか?」をこれからのビジュアルメイキングにおいて考えてみたいとタムラさんは考えている。そして、このような問いを持つためにも、それに対する答えを見つけるためにも、日常を超意識的に感じることを大事にしようというコメントでタムラさんのプレゼンテーションは締めくくられた。

育てる、見せる場所で表現する、無意識にしていた我慢を開放する

続いてそのままパネルセッションへ。今回のパネリストは資生堂グローバルイノベーションセンターの高橋希佳(たかはしきよし)と鴛渕孝太(おしぶちこうた)の2名。高橋は普段アイシャドウなどのポイントメークやファンデーション・おしろいなどのベースメイク製品を開発している研究員だ。今回コロナ渦で変化した目の印象づくりの変化について気になっているという。一方の鴛渕はこれまでスキンケア、ヘア、メーキャップと幅広い化粧品の中味の開発や品質評価などに携わってきた研究員。2名に加えてfibonaメンバーの古賀も司会で会話に参加しながらのセッションがスタートした。

最初のトピックスで取り上げられたのは、「新型コロナウイルスで変化したニューノーマルな生活の中で必要とされるビジュアライゼーションとは?」。

タムラさんが、「リアルで人と会っていたときにはBBクリームを使っていたけれど、今では栄養を与えてくれるようなクリームを塗ってるんですよ」と話し出すと、鴛渕も「私も同じようなエピソードがあって、自粛期間中は身体づくりや家庭菜園をやっていたんですが、そんな経験を通じて思ったのは、今は『見せる意識』よりも『育てる意識』のほうが強くなっていて、それは自分の肌に向き合う時間が長くなっているのからかもしれない。そう考えるとこれまで以上にスキンケアの可能性が拡がっているのを感じます」とまさに無意識な自分の行動を見つめなおしての視点を共有した。

高橋はこの半年間ほどおしろいの開発に携わっていることもあり、顔を大きく覆うマスクの存在が気になっている。「マスクをつけるのが一般的になったので、そうすると目元がやはりいちばん印象が変わる場所ですよね」との発言にタムラさんが「チャットにも『アイシャドウへの課金が半端ないです』とか『まゆげが気になります』とのコメントが書き込まれていますが、普段メイクをされていた方にとっては、マスクによって人に見せる場所が変わってきたのが変化ですよね」と答えると参加者チャットも「まゆげを濃く描くようになりました」「さきほどのエモグラフィでも、眉の威力(感情を伝える)を感じました」と更なる意見が飛び交った。チャットには他にも「アクセサリーは大振りのものがいいですよ」など、見せる場所でいかに印象づけるかについての話が盛り上がった。

「ヘアセットに関してはどうですか?」と古賀が質問をすると、「ピシッとすることで自分のスイッチを入れる方もいると思うんですけど、僕の場合はしなくなったんですよね。不思議な感覚ですけど、僕にとっては自分のためではなかったんだなというのに気づきました。シャツも一緒で、これまで着ていたYシャツなんかも『着たいか』というと実はそうじゃなかった。在宅が多くなり、暑い中出かけるとかこれまではやらなければいけなかった我慢が減ったから他の我慢もしなくなったのかもしれないですね」とタムラさん。すると高橋も「実は僕にとっては髭がそうなんですよ。剃るとどうしても痛いし肌荒れするので緊急事態宣言中にのばし、今では整える程度になりました。」と自分のエピソードを共有。それぞれ皆、これまで実は「人に見せるために(見られるから)我慢していたこと」を抱えていたことが浮き彫りになった。“無意識にしていた我慢を開放する”ことこそがまさに前半のプレゼンテーションでタムラさんがふれた「Me to Me」ということなのかもしれない。

超意識的に人を見るからこそ研究の可能性も拡がる

話は次に、自分自身の変化の話から化粧品の研究アプローチの変化が焦点に。「化粧品を開発する研究員って(モノ・物質の)現象を見てそれを数値化していくのが得意なんですが、今日のお話を聞いてタムラさんは人の行動を見て解釈して自分の表現にも結び付けているのがとても印象深く、今後コロナ後の世界は僕ら研究員もこれまで以上に“超意識的に”人を見ていくのが大事じゃないかなと思いました。」という高橋のコメントに「いまはこれまでの前提がゴロっと変わったから様々な現象のきざしが同時に起こっている状態で、観測可能にこれからなっていく最前線なのかなとも思っています。つまりは海の中に頭を出しそうな氷山がたくさん隠れているのかもしれなくて、それを意識的に見ていって『もしかするとこういうことが起こっているよね?』とポロっと一言声にしてみた瞬間に自分もそうだったと賛同者が出てくるようなことが起こりそうな気がしますね」とタムラさん。鴛渕も「それを受けて色々なきざしを見ていくと、これまで化粧品って視覚以外に香りや触感にアプローチしていましたが、それ以外にも聴覚など他の五感にアプローチする形なども考えうるかもしれないし、それによって可能性も拡がるかもしれないと思っています」と視点を付け加えた。

その後も、今まで不可分で一方向に向かっていたものがこの環境変化をきっかけに多極化してきたのではないかという仮説や、ビデオ会議でレンズのボケ感を使うことでリアルな雰囲気の印象に見える話など、最近私たちの周りで無意識的に起こっている変化についてタムラさんを囲んだ会話が盛り上がった。

また、Q&Aセッションでは「超意識的になるためにどんなもの(心がけ)が必要でしょうか?」という質問などが寄せられて話が尽きず、そのまま参加者同士の小グループディスカッションでも和気藹々と対話が続いた。

仮説を持ち、それを周りに話してみて新しいアクションを一緒に考えよう

クロージングは、再びアイスブレイクで使用した共同編集シートに参加者がそれぞれ感想を書き込む形で行われた。進行役の古賀がオンライン会場の数名にマイクを回して口頭でも感想を聞くと、「自分の会社でもアフターコロナの議論はしているが、今日は化粧品や美の視点で語られてとても新鮮だった」といった声があがった。

パネリストの鴛渕は「こういう変化の大きい時代だからこそ、新たな選択肢が増えたと捉えて主体的にアクションを起こしていきたい」と述べ、それを受けて同じく高橋は「アクションを起こすためにも、人が変化している場所にもっと過敏になっていくのが大事だなと今回改めて思いました。無意識にアプローチするために超意識的に人を見ていき、それを開発のきっかけにしていければと思っています」と続けた。

今回はオンライン開催への環境変化後、久しぶりに外部の参加者の方々も招きながら異分野の多種多様な参加者で対話するMeetupであったが、実はパネルセッション中、ニューノーマルにおける人やビジュアルの変化について話しているときにこんなやり取りがあった。

「みんなそれぞれ見え始めているきざしが違うと思うので、それを伝えあうことが大事かもしれませんね。今日も遠方からの参加者の方がいらっしゃいますが、そのためのチャンスはいま、増えているようにも思います。」(タムラさん)

「とても共感しました。この環境になって、逆に世界が狭く、近くなったようにも感じます。世界の創造性のレベルをあげるには、色んな人のアイデアを色んなやり方で組み合わせることがひとつの方法だとタムラさんが仰っていましたが、まさにこういう時代だから組み合わせやすいということも起こっているのではないかなと思いました」(高橋)

激しく環境が変化し続ける中だからこそ、今回のMeetupのテーマに対してクリアな回答や定まった視点を持つのはまだ難しいのかもしれない。だからこそ超意識的に人の変化に目を向け、仮説を持ち、それを周りに話してみて新しいアクションを一緒に考えることが改めて重要なのではないだろうか。オンラインながらもその特徴を活かしながら、そんな話を心置きなくできる異分野の仲間との出会い、そして気づきやアクションがこの会を通じて今後も生まれていってほしい。

<プロフィール>
タムラカイ(たむら・かい)/ Transformation Designer

人と組織に寄り添い、変革の仕掛けと仕組みをデザインするTransformation Designer。「世界の創造性のレベルを1つあげる」がマイパーパス。会社員として働くかたわら、個人プロジェクトとして創造性を高めるラクガキ講座「ハッピーラクガキライフ」の開催、グラフィックを用いた場作りと新しい組織の実践チーム「グラフィックカタリスト・ビオトープ」の立ち上げ、教育系NPO法人SOMAの副代表理事など様々な活動に携わる。現在はこれらの経験を活かし、本業である富士通の全社DX推進をデザインという立場から支援している。

最近の趣味はサ道(サウナ)とフィットネスと料理、水玉の人。著書に「ラクガキノート術(エイ出版)」。

Project

Cultivation

ビューティー分野に関連する異業種の方々と資生堂研究員とのミートアップを開催し、美に関する多様な知と人を融合し、イノベーションを生み出す研究員の熱意やアイディアを 刺激する風土を作ります。

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