”知的な変わり者”が生み出すファンの熱狂「Around Beauty Meetup #8」開催
2021.08.5美にまつわる社内外のさまざまなイノベーターがS/PARKに集まり交流する「Around Beauty Meetup」。第8回目は「熱狂的なコアファンを生むブランド価値づくり」をテーマに開催された。『よなよなエール』を筆頭に、熱狂的なファンから厚く支持されるクラフトビールを製造・販売する株式会社ヤッホーブルーイングから仮屋光馬さんをゲストスピーカーに迎え、ユニークな商品を続々と生み出すヤッホーブルーイングの深く刺さるブランディングやファンの熱狂を生むコミュニケーション、尖った価値を創出するための組織体制の工夫などを伺った。
オンラインでの開催にもかかわらず、ブランディングやマーケティング、製品づくりに関わる方や研究者など様々な企業、学校、団体から合わせて100名超の申し込みが集まった。
Meetupは、fibonaのリーダーを務める中西裕子からのメッセージでスタート。「今回はファンやブランディングがテーマということで、信頼や共感、コミュニケーションのあり方に思いを馳せる回になると思います。気づきの多い時間をぜひ楽しんでください」と参加者を歓迎した。
「100人中1人に刺さる」ブランド開発 3つのポイント
オープニング後、オンラインでの共同編集を活用したアイスブレイクで参加者同士が自己紹介して打ち解け合った後に仮屋さんのプレゼンテーションがスタート。
ヤッホーブルーイングは「ビールに味を!人生に幸せを!」をミッションに、ビールの持つ多彩な味と香り、多種多様な楽しみ方のあるビール文化を日本に広めるべく、各種クラフトビールを製造販売している。
仮屋さんは、人気ブランド「水曜日のネコ」の開発プロセスを例に、「100人の中の1人に、狭く深く刺さるブランド開発」の3つのポイントを以下のように説明した。
1. ターゲットは具体的に描くこと
製品開発においてペルソナを描く手法は決して珍しいものではないが、ヤッホーブルーイングでは解像度に徹底的にこだわる。性別や年代だけではなく、行動や心理的側面も含め、ターゲット像のイメージを細部まで膨らませる。
2. 製品のあるシーンや提供しうる価値を具体的に描くこと
ターゲット像だけでなく、飲むまでのシチュエーションや行動、飲んだときに感じる価値なども具体的に想像する。「水曜日のネコ」の場合は、「仕事を頑張る30代の独身女性が、平日22時に自宅でこのビールを飲んで素に戻る」というシーンが根底にあるという。
3. ネーミングとデザイン選定のポイントは「賛否両論があるもの」
製品の命名にあたっては、コンセプトやターゲットのイメージをもとに100〜200個ものキーワードを列挙し、その中からコンセプトに合うキーワードを選んで組み合わせる。
そして、複数挙がったネーミング案やデザイン案の絞り込みには、想定するターゲットに近い人々へアンケートやインタビューを実施。ネーミングやデザインを選定する際、特に重要視しているのは「個性的で世の中にないもの」「賛否両論があるもの」「平均的に高評価なものより一部に超高評価なもの」。つまり、一定層からは否定的なコメントが挙がるほどエッジの効いたものを選んでいるという。
その結果、プロモーション活動をほとんど行っていないにも関わらず、「水曜日のネコ」はターゲット層に高い認知率を誇る人気製品となった。
熱狂的ファンを創出し熱狂が拡がる、伝説のファンイベント
仮屋さんのプレゼンは徐々にファンの熱狂の話へ。
「よなよなエール」愛飲者にインタビューしたところ、彼らはよなよなエールを飲むことを通して「理想像の実現」や「共感」など5つのベネフィットを感じていることがわかったという。これらのベネフィットを学び・交流・共創というサイクルで体感してもらうべく始めたのが、ファンイベント「宴」である。10年以上前に40人規模のパーティーから始まったものが500人規模のキャンプへと進化し、さらにファンがファンを呼び5000人規模の「よなよなエールの超宴」として開催するまでに至った。
コロナ禍においてはオンラインに場を移し、2020年は「よなよなエールの”おうち”超宴」として開催してのべ10000人ものファンが参加したが、仮屋さんはこれらのイベントについて「売上に直結するものではありませんが、参加者の方々が喜んでくれることで熱量の高いファンが増え、事業やブランドの成長につながっていると思います」と述べた。
「知的な変わり者」と「フラットな組織」がイノベーションを生む
そして、実はこれら一連のブランド価値づくりの基礎を担っているのが、独自の組織文化である。ヤッホーブルーイングでは、特に2つの考えを大切にしているという。
一つは、「知的な変わり者」であること。人は誰しも、強みがあれば弱みもある。弱みがあるとそれを克服することに力を費やしがちだが、ヤッホーブルーイングではそれを誰かの強みを活かすための余地として捉え、むしろ強みを伸ばすことにエネルギーを回す。強みを伸ばすことに努力し(知的)、他に類を見ない型破りな存在(変わり者)を目指す、そうして一人ひとりの凸凹が噛み合うことで強いチームになり、そこで生まれる化学反応がイノベーションを促すという考え方である。
ただし、弱みを埋めずにいたりそれをさらけ出すのは勇気のいることでもある。そこで重要なのがもう一つの考え方、「フラットな組織」であること。ヤッホーブルーイングではニックネーム制を導入し、立場や年齢に関係なくニックネームで呼び合っている。また、毎朝始業から30分間は雑談をシェアする「雑談朝礼」を実施している。
これらの施策が社内コミュニケーションの質と量を高め、お互いの凸凹を活かして働ける環境を生み出している。いわば「出る杭を伸ばす」組織文化が、尖ったブランディングと熱量の高いファンづくりというイノベーションを支えているのだ。
「みんなに好かれるのは誰にも好かれていないのと同じ」ヤッホーブルーイング流ニーズの捉え方
後半は株式会社エテュセでマーケティングを手掛ける山﨑賢、資生堂グローバルイノベーションセンターで香料開発に取り組む山田俊一が加わり、司会を務めるfibonaメンバー鈴木敬和の進行でパネルディスカッションが行われた。今回は仮屋さんの提案で、パネルディスカッションではお互いをニックネームで呼び合うこととなり、和気藹々とした雰囲気でセッションがスタートした。
いの一番に投げかけられた山田からの質問は、「深く刺さる製品を作りたい反面、ターゲットを絞り込んだコアなものづくりはビジネス的に広い市場を捉えられないため勇気が必要ではないでしょうか。どうやって折り合いをつけていますか?」というもの。それに対し仮屋さんは、「みんなに好かれるのは誰にも好かれていないのと同じ」とバッサリと言い切り、「我々はニッチなブランドを作ろうとしているわけではありません。深く刺さるターゲットは、言い換えるとニーズが強く露出している人たちで、周りの人も一定の共感があるはず。『狭いところに深く刺さる』ニーズ自体は、意外と多くの人が持っていると思います」と補った。
一方、山﨑からどのようにターゲットを発見しているかが尋ねられると、仮屋さんからは「行動は変わっているが面白い『知的な変わり者』を、マス調査より身の回りやSNSの中から見つけることが多い」と回答があった。
この「n=1(ひとりの顧客)を発見し、ピックアップして考える」というアプローチに山﨑は反応。「我々の場合は、『この市場を取りに行きたい』というクラスターを設定し彼らの特徴や共通インサイトをペルソナに落とし込むという流れで考えることが多いですが、順序がまったく逆ですね。」と驚きを見せた。
仮屋さんは「クラスターのインサイトから描き始めると、特定のセグメントにはリーチしますが、広がりにくくなります」と回答。30代女性をターゲットに開発された「水曜日のネコ」が、ビールを飲み始めた20代男性にヒットしている例などを挙げ、「n=1を深く絞って開発すると、思いも寄らないターゲットに刺さることがあります」と紹介した。
フラットな組織文化が、研究者目線とお客さま目線を噛み合わせる
一連の話を受け、「深く刺さるものづくりって、研究者目線に近いのかもしれないです。」と山田がポツリと述べ始めた。「研究者は独自の考えを持つことが大事です。ただ、独りよがりに終始するのではなく、お客さまがどういう生活をし何を好むのか、お客さま目線を忘れないことも重要だと思っています。」と自身の体験に寄せてコメントした。
この話に「ビジネスとして成り立つかの説得は難しい場面もありますが、熱意のあるメンバーとユニークな製品を作る挑戦はぜひやってみたいです。一人が『この人やこの考えは面白い』とプレゼンしたものが共感の連鎖を生み、やがて社内だけでなくお客さまを巻き込んだ共創に結びつく、ということも考えられそうですね」と山崎が返すと、山田も「『こんな人がいた』という情報交換やディスカッションを積極的に行いたいです」と賛同した。
事実、ヤッホーブルーイングではブルワー(醸造士)とマーケティングが一つのチームとして動いており、「こんなネット記事を見た」「このアイデアは可能性がある」など、立場を問わずチャットで情報共有をしているという。司会の鈴木も「フラットな組織だからこそ、エッジの効いた研究者とお客さま目線を持つマーケッターが補い合って、面白い製品を生み出すことができるんですね」とコメントした。
斬新で興味深いアイデアやエピソードの数々に参加者も前のめり気味でチャット欄には質問やコメントが溢れた。ここからは待ちに待った参加者同士のグループディスカッション。ぜひ打ち解け合って語りながら気づきを深めようということで乾杯タイムが設けられた。各グループ3~4名がオンライン上のルームに集い、金曜の夜クラフトビール片手に感想や業務の体験に寄せた考えを共有して大いに盛り上がっていたようだ。
ファンの熱量を醸成するための第一歩は作り手たちが熱量を交換すること
刺激的な時間はあっという間に過ぎ、fibonaオーナーの荒木秀文がクロージングのメッセージを述べた。「賛否両論を是とする、出る杭を伸ばすフラットな組織文化に感銘を受けた」という荒木は、「健全なコンフリクトなくしてイノベーションは生まれません。しかし、間違いは当然怖いものです。勇気と覚悟を持って一歩踏み出すことを、まずは私自身が示していきたいと考えます。」と晴れやかに宣言した。
また、資生堂のチーフブランドイノベーションオフィサーである岡部義昭からも「ファンの熱量を醸成するには作り手自身も熱量を持つことが重要だと思っています。尖ったものづくりができるように組織づくりも頑張っているので、ぜひ期待しながら関わってもらえると嬉しいです。今日はありがとうございました。」と参加者に感謝が述べられ、終演となった。
Meetupに参加した方も、この記事を読んだ方も、「それはヤッホーブルーイングだからできることなのでは?」「自社とは別世界の話」とついつい諦めそうにならなかっただろうか。賛否両論を是とする思い切った判断やユニークな組織体制は一朝一夕に真似できるものではないかもしれない。でも、ファンの心に深く刺さるモノ・ブランドづくりを目指して所属や立場を超えた情報交換を行い様々な目線を取り入れて話すことや、n=1(ひとりの顧客)から考えてみる発想への転換なら、どこかのきっかけで取り入れられそうな気もする。その「どこかのきっかけ」や「気もする」をまずはやってみることが、明日の尖った価値を生み出し、拡げていく大きな一歩なのかもしれないと感じさせてくれたMeetupだった。
<プロフィール>
株式会社ヤッホーブルーイング よなよな未来課 (ブランド戦略ユニット )ユニットディレクター 仮屋 光馬(かりやこうま)
2019年、ビール好きが高じて株式会社ヤッホーブルーイングに中途入社、長野県に移住。「 僕ビール君ビール 」リニューアル、SonyMusicコラボ「Craft Beer Music Project」などマーケティング・ブランド開発業務を中心に担当し、 2020年 12月より現職。日本にクラフトビール文化を定着させるべく挑戦中。 グロービス経営大学院経営研究科 (MBA)修了。 ニックネームは「カーリー」。
(株式会社ヤッホーブルーイング https://yohobrewing.com/)
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