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リトリートスティック×花椿アンビエント、資生堂だから生まれた“香り“と”音楽“のコラボレーション

2022.08.30

資生堂の研究所が主導するオープンイノベーションプログラム「fibona(フィボナ)」。その活動のひとつである「Speedy trial」から生まれたの第2弾のプロダクト「RETREAT STICK(リトリートスティック)」が、7月にMakuakeでローンチした。

日常の中にありながら、香りによって“自然のゆらぎ”を体感できる――。

研究員とクリエイティブチームの協働で生まれた「S/ENSE(エスエンス)*」をコンセプトに開発された「リトリートスティック」は、資生堂が発行する企業文化誌「花椿」Webの環境音楽企画「花椿アンビエント」とのコラボレーションも展開。全4回の連載を通じてオリジナルのアンビエント・ミュージックを公開している。

*S/ENCE:様々な自然環境のなかで起きる「香り」を中心とした変化が、人の五感にどのように働きかけるのかを検討する研究開発概念。



9月17日の先行体験イベントを前に、「リトリートスティック」開発チームのメンバーで資生堂クリエイティブのデザイナー佐野りりこ、「花椿」の編集として「花椿アンビエント」の企画を担当する戸田亜紀子、そしてオリジナルの楽曲制作を手がけるアンビエント・ユニット「UNKNOWN ME(アンノウン・ミー)」のメンバー4人が語り合った。

「花椿アンビエント」がつなぐ“香り”と“音楽”


──まずは、みなさんの所属や普段の活動について教えていただけますか。

佐野:
資生堂クリエイティブ株式会社の佐野りりこと申します。普段はアートディレクター兼デザイナーとして、ブランドの広告や、fibona関連プロジェクトなどを担当しています。今回の「リトリートスティック」では、開発チームの一人として、アートディレクションやグラフィックデザインを手がけています。

戸田:
戸田亜紀子と申します。資生堂のアート活動や歴史資料などのヘリテージ資産を管理、キュレーションして社内外への発信を行っているアート&ヘリテージマネジメント部に所属し、主に企業文化誌「花椿」の編集と、歴史資料を活用した社内発信企画などを担当しています。

H.TAKAHASHI:
僕たち4人は、UNKNOWN MEというアンビエント・ユニットとして活動しています。僕とP-RUFFくん、やけのはらくんは作曲担当で、大澤悠大くんはライブの映像制作やグラフィックデザインを担当しています。

──fibonaの「リトリートスティック」と「花椿アンビエント」は、どんな経緯でコラボレーションすることになったのでしょうか。

佐野:
コロナ禍の生活の変化を背景に生まれた「リトリートスティック」は、自然界にある香りのゆらぎに着想を得て、リトリートの時間を提供するというコンセプトです。そのリリースにあたり、プロジェクト内で「香りだけでなく、詩や音楽などと組み合わせて癒しの体験を提供できないか」という声が上がりました。

何ができるだろうと考えているときに出合ったのが、「花椿アンビエント」の音楽コンテンツです。環境音楽とも呼ばれるアンビエント・ミュージックは「リトリートスティック」のコンセプトと親和性が高く、コラボレーションしてはどうかと考えるに至りました。

戸田:
そもそも「花椿アンビエント」は、『花椿』2021年秋冬号と連動したWebの企画としてスタートしました。もともとのアイデアを得たのは、2017~2018年頃。もう一つの音楽企画「花椿アワー」を担当するなかで、日本の環境音楽の草分けともいわれる音楽家の吉村弘さんと資生堂がコラボレーションした「A・I・R (Air In Resort)」(1984年)というアルバムの存在を知ったことがきっかけです。

資生堂にそのような系譜があることがとても素敵なことに思いました。多忙な現代の人々にこそアンビエント・ミュージックが必要なのではないか。この気づきが、コロナ禍で現実になりました。心がざわめくことの多い日常の中で、一瞬でも自分に立ち戻る時間を提供できないか、と「花椿アンビエント」の企画が立ち上がったのです。 

コロナ禍、人の生活に寄り添った環境音楽


──そもそもアンビエント・ミュージック(環境音楽)とはどんな音楽なのでしょう。

やけのはら:
1970年代に初めてそのコンセプトを打ち立てたブライアン・イーノは、アンビエント・ミュージックとは、興味深く聞くことも、聞き流すことも、無視することもできる音楽だと表現しています。フランス近代音楽の作曲家エリック・サティの「家具の音楽」がイーノのインスパイア元で、個人的にはそのさらに源流にはバロック時代のサロン・ミュージックがあるのではないかと思っているのですが、基本的には作曲者、演奏者をクローズアップしない、歌詞のないインストゥルメンタル音楽です。

戸田:
資生堂の初代社長、福原信三もサティを好んで聴いていたそうです。信三は資生堂のシンボルマークである花椿マークの原案を考案した人物でもあるのですが、資生堂の美意識とアンビエント・ミュージックは親和性が高いのかもしれません。私はコロナ禍の自粛期間、自分の中に潜り込むためによくアンビエント・ミュージックを聴いていました。一度、入浴中に流していたら、自分の身体から自分が抜け出ていくような感覚を味わいまして、アンビエント・ミュージックの力に驚いたことがあります。

佐野:
私も、コロナ禍に家で閉じ込もっていたときに、アンビエント・ミュージックをセレクトすることが多かったです。外出することも人と会うことも限定されるなかで、自分の気持ちを高めたいなと感じると、能動的に選んでいた覚えがあります。UNKNOWN MEさんの曲もよく聴いていました。

──リトリートスティックとコラボした「花椿アンビエント」連載企画、なぜUNKNOWN MEに楽曲の制作を依頼したのでしょうか?

戸田:
「都市生活者の方のための音楽」をコンセプトにしていたこと、そして自然の要素をデザインしたような曲の世界観に、資生堂のDNAのひとつであるアート&サイエンスに通じる科学の香りを感じたこと。そしてそのような要素がS/PARKのイメージにピッタリだと感じたからです。

佐野:
戸田さんのご提案で、「リトリートスティック」のクリエイティブチーム全員でUNKNOWN MEさんの音源を聴いたときも、満場一致で「この方々にお願いしたい!」と意見がまとまったんです。「リトリートスティック」のイメージをよりよく膨らませてくれるはず、という直感が働きました。

──UNKNOWN MEのみなさんは、「リトリートスティック」のコンセプトやプロダクトにどんな印象を抱きましたか?

大澤:
「リトリートスティック」は、自分自身をリトリートさせるためにつける香りのアイテムです。僕は人と会うときに香水をつけたりはしますが、一人で自分のためにつけるというのは新しい発想だと感じました。

「自分を心地よくするため」というのが、僕らにとってはアンビント・ミュージックと近いんです。ロックやダンス・ミュージックは「人と楽しむ」要素が強いですが、アンビエント・ミュージックは個人で楽しむ感覚なんですよね。

H.TAKAHASHI:
僕は音楽を聴く環境作りとして演出的に香りを使うことがあるので、「S/ENCE」のコンセプトに納得しつつ、とても興味を惹かれました。「リトリートスティック」は、自分の周り半径1メートルにだけふわっと香りが漂っている。そこがアンビエント的だなと感じます。

UNKNOWN MEと資生堂、「美」に対する共通点


──「花椿アンビエント」の連載は、どんな内容になるのでしょうか。

戸田:
毎回、Speedy trialの商品と絡めてアンビエント・ミュージックを作る構想ですが、「リトリートスティック」とのコラボでは「環境」をめぐる「香り」と「音楽」のシリーズとして全4本を公開していきます。昨年の「花椿アンビエント」と異なるのは、アート&サイエンスの視点によりフォーカスしていること。音や香りがどのように人間に作用するかを提案できたらと考えています。

「リトリートスティック」は、朝夕の自然の変化を感じられる2種類の花の香りと、風や雨という気候の変化を感じられる2種類の香りを掛け合わせて使う商品。今回は、それぞれを掛け合わせた香りから想起されるシチュエーションをテーマに、UNKNOWN MEさんに楽曲制作をお願いしました。

7月末に公開されたのは、夕立のあとの虹をイメージした「A Rainbow in Meditative Air」。今後は狐の嫁入りや、枯れ葉舞う夕方の並木道などをテーマとした曲を制作していく予定です。

──UNKNOWN MEのみなさんは、楽曲作りではどんな点をこだわっていますか?

P-RUFF:
それぞれのテーマに対して、ド直球の音をなるべく入れないようにしようと考えています。雨の曲であっても、雨の音を入れずにいかに雨の雰囲気を出すのか。僕たちの試行錯誤がうまくハマッて、設定されたテーマのシチュエーションを感じられるような楽曲に落とし込めていたらいいなと思っています。

やけのはら:
僕たちの音楽によって「リトリートスティック」の世界観を膨らますことができたらいいし、「リトリートスティック」が僕たちの音楽の聴こえ方を変えるかもしれない。相乗効果でいいものができたらと感じています。

戸田:
連載のお話を始めた当初から、みなさんが資生堂に対してリサーチや考察を重ねてくださっていたことに一同感激しているんです。

やけのはら:
実は、僕は個人的に昔から資生堂のことが好きなんですよ。商品をたくさん買っているわけではないのですが、本も読んでいますし、工場見学にも行ったことがあります。先ほど戸田さんが挙げていた吉村弘とのコラボアルバム「A・I・R (Air In Resort)」も、以前から持っていました。

戸田:
それはそれは、ありがとうございます。

やけのはら:
最新アルバムの『BISHINTAI』では、テーマが「美」だったこともあり、数多くの“資生堂的なもの”を参照していたんです。アルバムジャケットのアートワークやフォントだけでなく、内容的にも粋で文化的な資生堂の美のありかたやその歴史に強く影響を受けています。音作りをしているときも「シュッとした明朝のあの感じだよね」なんて話していました。だから正直、今回の「花椿アンビエント」の話をいただいたときは、「ついに来た!」という感じでした。

戸田:
そうだったんですね。実は楽曲制作を依頼する方を探していたときに『BISHINTAI』のジャケットを一目見て、「この方々だ!」と感じたんですよ。うれしいです。

左がUNKNOWN MEの最新アルバムの『BISHINTAI』

香り×音楽がつくりだす新たな時間


──「花椿アンビエント」連載の楽曲、リスナーにはどのように楽しんでもらいたいですか?

やけのはら:
普段、アンビエント・ミュージックを聴かない人もいると思いますが、難しいものでもないので、お試しで部屋に流してみて何かを感じてもらえるとうれしいです。

H.TAKAHASHI:
「環境」をめぐる「香り」と「音楽」という個人的にとても興味があるコラボレーションなので、我々も今までにない試行錯誤をしています。音楽だけでも、香りと組み合わせてでも、新しい感覚みたいなものを感じていただけたらと思います。

戸田:
一度だけでなく二度三度と聞いていただいて、花椿アンビエントが毎日、リスナーのみなさんの生活に、気持ちの切り替わる時間を提供できたらうれしいですね。そして、日々を少しでもゆったり過ごせるようになったらと願っています。

佐野:
音楽と「リトリートスティック」を組み合わせることで、音に対しても、香りに対しても「こんな楽しみ方があるんだ」という気づきを得ていただけたらいいですよね。

──9月17日の「リトリートスティック」先行体験イベントは花椿アンビエントとのコラボ企画で、UNKNOWN MEのライブがリアルの場で楽しめるそうですね。

戸田:
はい。「リトリートスティック」の香りでリトリートする体験ができるだけでなく、UNKNOWN MEのみなさんによるライブ、S/ENCEとアンビエント・ミュージックに関するUNKNOWN MEの皆さんと開発チームとの対談も行われる予定です。

P-RUFF:
週末に開かれるイベントなので、普段、慌ただしい生活を送っている方々にゆったりした時間を過ごしていただいて、「また来週からがんばろう」と思って帰ってもらえたらすごくいいですよね。

やけのはら:
UNKNOWN MEのライブ活動としても、天井が高くて広い空間のなかで、空間の一要素として音楽が鳴っているような音楽体験は、ライブハウスのような場所よりも自分たちの音楽性に合っていて、とても楽しみです。今回は「環境」にスポットを当てたイベントなので、普通のライブにない広がりを持たせられたらと思っています。ライブとはいえ、僕たちを注視するのではなく、好きなように過ごしてもらいながら香りと音楽を体感してもらえたらと思います。

大澤:
ライブでは、GICの1階にある壁一面のクリスタルLEDディスプレイで映像を流します。こんなに大きなモニターは初めてなので、みなさんがどんな反応をするのか楽しみです。いい香りといい音楽で、一時的にでも社会的な不安から離れ、豊かな生活を送っていただけたら。

戸田:
まさに「豊かな生活」ですね。資生堂は化粧品の会社ではありますが、同時に『花椿』やアートなど、商品以外の文化活動などを通して、豊かで美しい生活文化を作ることに取り組んできました。今回はそれが体現されたイベントだと感じています。頭を使うことの多い現実からいっときでも切り離され、眠っていた体の感覚が目覚めだすーー。香り、音楽、映像という「環境」によって、来てくださった方にそんな体験を提供できればと思います。

【Makuakeの応援リターン イベント概要】
●日時:2022年9月17日(土) 15:00-16:30(会場14:30)
●会場:神奈川県横浜市西区高島一丁目2番11号 資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)1F
●コンテンツ:
・リトリートスティック開発チームによる香りのおもてなし
・UNKOWN MEによる音と映像のライブ
・開発チームとUNKOWN MEによるトーク
●応援購入ページ
肌に塗って、自然を感じる4つの香り。資生堂の香料研究が生んだリトリートスティック

<プロフィール>
UNKNOWN ME(アンノウン・ミー)
やけのはら、P-RUFF、H.TAKAHASHIの作曲担当3人と、グラフィック・デザインおよび映像担当の大澤悠大によって構成される4人組アンビエント・ユニット。”誰でもない誰かの心象風景を建築する”をコンセプトに、イマジネーションを使って時間や場所を自在に行き来しながら、アンビエント、ニューエイジ、バレアリックといった音楽性で様々な感情や情景を描き出す。2016年7月にデビュー・カセット「SUNDAY VOID」をリリース。2016年11月には、7インチ「AWA EP」を、2017年2月には米LAの老舗インディー・レーベル「Not Not Fun」より亜熱帯をテーマにした「subtropics」を、2018年12月には同じく「Not Not Fun」より20世紀の宇宙事業をテーマにした「ASTRONAUTS」をリリース。「subtropics」は、英国「FACT Magazine」の注目作に選ばれ、アンビエント・リバイバルのキー・パーソン「ジジ・マシン」の来日公演や、電子音楽×デジタルアートの世界的な祭典「MUTEK」などでライブを行った。2021年4月、都市生活者のための環境音楽であり、心と体の未知の美しさをテーマにした待望の1st LP「BISHINTAI」をリリース。
https://unknownme.bandcamp.com/



(text: Yue Arima edit: Kaori Sasagawa)

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