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“自然のゆらぎ”を体感する「香り」の新体験 「リトリートスティック」企画メンバーの挑戦

2022.07.21

資生堂研究所が主導するオープンイノベーションプログラム「fibona(フィボナ)」。その活動のひとつである「Speedy trial」では、クラウドファンディングなどのサービスを活用し、研究によって生まれたテクノロジーが活かされたプロダクトを、β版として市場にスピーディに導入する。

2020年にMakuakeにチャレンジしたLämmin(ランミン)に続き、第2弾のプロダクト「RETREAT STICK(リトリートスティック)」が7月21日、Makuakeでローンチした。

日常の中で、自然のゆらぎを体感する「リトリートスティック」とはどのようなプロダクトなのか。どのような新しい美の体験や価値を生み出す設計となっているのか。クリエイターと香りの研究者がタッグを組んで生まれた「リトリートスティック」。企画メンバーの4人に、製品の魅力と込めた想いを聞いた。

7/21にMakuakeでローンチした「リトリートスティック」

“自然のゆらぎ”を感じる「香り」の新体験


──みなさんの普段の業務と、fibonaの「リトリートスティック」プロジェクトに参加することになったきっかけを教えてください。

石井:
私は資生堂クリエイティブの所属で、アカウントディレクターをしています。2018年に庄司さん、芦澤さんと一緒に「香り」の可能性を探求するプロジェクトを立ち上げました。紆余曲折を経て、fibonaの取り組みとして進めることになり、「リトリートスティック」のコンセプトを定義するところからロードマップを作り上げてきました。

上村:
私も同じく資生堂クリエイティブ株式会社の所属で、お客さまとのコミュニケーション、店頭まわりなどのユーザーエクスペリエンスデザインを担当しています。fibonaへの参加は2020年から。この香りのプロジェクトにアサインされたのをきっかけに参加しています。

「RETREAT STICK」企画メンバー。(左)上村玲奈、(中央右)芦澤ゆりの、(右)石井美加

庄司:
私は研究所の香料開発に関わるグループで、グループマネージャーをしています。石井さんたちと「香りで何かお客に提案できるものを」という想いからプロジェクトが始まり、クリエイティブチームの皆さんと一緒に「リトリートスティック」の概念を作るところから関わってきました。
芦澤:
私も同じく香料開発に関わるグループで、香りの研究を担当しています。私も「香り」のプロジェクトから派生したアウトプットのひとつとして、新しいものを作れたらという思いから、fibonaへ参加させていただきました。

──もともと「香り」のプロジェクトを進められていたとのことですが、どのようなディスカッションを経て、「リトリートスティック」のコンセプトに辿り着いたのでしょうか。

石井:
最初は、「人が心地よくいられる状態とはどんなものか」というウェルビーイングの話から始めました。有識者の方と対話型のセッションなどを続けていくなかで、森や自然にネガティブな印象を抱く人はいないという話になり、自然のなかでの安らぎや心地よさを通じて本来の自分に戻れる体験が、いまの都市型の生活をする人には欠けているのではないかという話に至ったんですね。

庄司:
最初は、「香りをきっかけにウェルビーイングを考えていこう」という議論に集中していたのですが、香りは「この香りを嗅げば、すぐにリラックスできます」といった薬のようなものではないんですね。効果、つまり「サイエンス」の部分だけではなく、サイエンスと並んで資生堂のもうひとつのコアである「アート」の魅力もあるはずだ、と話し合っていくなかで「RETREAT STICK」の方向性が徐々に見えてきました。

例えば、雨が降ると土から雨の匂いが立ち森の香りが変わります。また、ユリは夜になると花の香りが強くなります。朝摘みのバラのように朝に香りが強い植物もあります。日内変動の要因によって同じ植物でも匂いが変わるんです。

様々な自然環境のなかで起きる「香り」を中心とした変化が、人の五感にどのように働きかけるのか。私たちのチームでは、この考えを「S/ENSE (エスエンス)」と名付けて、研究開発概念として設定しました。「S/ENSE」の感覚を、自然から離れた都市部でも再現できないだろうか、という発想が、「RETREAT STICK」の出発点になっています。

芦澤:
新型コロナウイルスが世界的に感染拡大し、外出や旅行の機会が減ったり、そもそも外出が怖くなったと感じたりした人も多いと思います。自然のなかに身を置いて、仕事や人間関係で疲れた心を癒やすことが難しくなりましたよね。そんな状況下でも、自然のゆらぎを感じられるリトリートを提供できたら、という思いがありました。

石井:
コロナ禍以降、家の中に癒やしを求めて楽しむアイテムが急増していることを芦澤さんが調べてくれたんですね。私たちの「S/ENSE」 を体現したアイテムもそれに加えられたら…という道筋が見えてきて、そこからは開発メンバーで千本ノックのようにして、アイデアを企画の形に変えていきました。

4種の香りが生み出す、自分をリトリートする時間


──「リトリートスティック」というプロダクトや世界観、他の香水との大きな違いについて教えてください。

芦澤:
「リトリートスティック」は、スティック型の香り製品です。先ほど庄司さんから「自然の中では香りも一定ではなくランダムにゆらいでいる」というお話がありましたが、4種類で1セットにしたのは、それぞれの香りを組み合わせることで、その時々に合わせたリトリートタイムを感じていただくことが目的です。

香水は他人に良い印象を与えたいときなどに用いられますが、「リトリートスティック」は自分自身をリトリートするためのアイテムです。自分のまわりの半径1メートル以内の空間だけに香る仕様になっているのも、一般的な香水とは異なる点です。

上村:
実は、最初にこのコンセプトを聞いたとき、私は理解するまですごく時間がかかったんです。「自分の好きな香りだからリラックスできるのでは?」「自然のゆらぎを通じてリラックスするってどういうことだろう?」と疑問があって、最初は説明を聞いても腑に落ちなくて。でも、実際に試作品を試してみたら、「こういうことなんだ」と体感できてすんなり入ってきたんです。言葉や理論だけでは乗り越えられなかった壁が、実際にアイテムを試してみたらスルッと乗り越えられた。開発の過程でそうした経験ができたことは、すごくプラスになりました。

庄司:
「リトリートスティック」の4種類の香りのうち、2種類は「ベース」の香りになります。朝に良い香りが強くなるローズを中心とした午前のベースが「モーニングブルーム」、夕方に香りが強くなるユリなどのホワイトフローラル系の午後のベースが「イブニングブルーム。この午前、午後の2つの時間軸をベースに、雨をコンセプトとした「リフレッシングレイン」と、風にゆらぐ木々をイメージした「ジェントルブリーズ」を、それぞれスポットでつけてベースの香りとブレンドします。4つの香りの構成を掛け合わせることで、自然のゆらぎを感じていただけたらと思っています。

上村:
先ほど、私が「腑に落ちた」と言ったのはまさにその部分です。午前のベースだけを朝につけるとローズが香る。そこまでは普通の香水と同じですが、そこに別のスティックをオンすると、自分を取り巻く空気がふわっと変化するんです。言葉でお伝えするのが難しいのですが、「私はいま、良い香りに包まれている」という実感が湧いてくる。さらに、そこに3本目をオンしてみても違う変化が生まれるんです。自分の好きな香りを新しく見つけにいくような面白さが感じられました。

芦澤:
4本は、香りだけではなくテクスチャーにも個性を出しています。「モーニングブルーム」は、太陽が昇ってどんどん暖かくなっていく朝のように、ほんのりと暖かくなるイメージ。「イブニングブルーム」は、日が沈んで少しひんやりとする夕方の情景、「ジェントルブリーズ」は風のようなサラサラした感触、「リフレッシングレイン」は雨の瑞々しさ。それぞれ使用性も変えていますので、その違いも楽しんでいただけるかと思っています。

未知なるコンセプトを、チームで共有し、伝える工夫


──プロジェクトを進めるにあたって、何か壁を感じることはありましたか。

石井:
「自然」をどこに設定するかは、「S/ENSE」開発にあたって大きな悩みのポイントでした。自然にはいろんなレベルがありますよね。屋久島や白神山地のような雄大な大自然もあれば、都心にある公園の緑や戸建ての庭、室内で育てる植物など、いろんな自然があります。チーム内で、その自然のレベルをどうすり合わせるか悩んでいたときに、最後の最後に1枚のイラストを見つけたんです。

あちこちに植物が置かれた風通しがよさそうな部屋で、窓の外を見ている女性の後ろ姿が描かれている、なんだか気持ちよさそうな日常の風景。私たちが届けたいリトリートの感覚はこれだ、と直感しました。そのビジュアルをチーム内のコミュニケーションで共有できたことは大きかった気がします。部門長へのプレゼンなどでも、このビジュアルを使って説明すると「ああ、いいね」という反応をいただけました。言葉だけではなく、視覚的な情報でプロダクトの良さを総合的に伝えていく工夫は大事なんだな、とあらためて感じました。

芦澤:
これまでにない商品の特性をどう伝えていくか、という難しさはユーザーテストでも実感しました。ユーザーテストでは「リトリートスティック」のコンセプトをお伝えした上で4本セットでお渡ししたのですが、「この香りが好きでこればかり使いました」「これは全然使いませんでした」というコメントも少数ながらあったんですね。コンセプトが伝わらないと、単なる4本セットの香りアイテムで終わってしまう。お客さまとコミュニケーションを取って、コンセプトをきちんとお伝えしていくことは今後の重要な課題です。

石井:
Makuakeでローンチするということは、手に取って選んでいただける商品ではないということ。PCの画面から香りを伝えることはできません。だからこそ、ビジュアルの力やコミュニケーションの工夫を重ねて、お客さまが納得した上で購入してくださるようなクラウドファンディングのページにしています。

上村:
私たちの意図をきちんと伝える一環として、Makuakeでご購入いただいた方を対象にしたイベントやコラボレーションも企画しています。資生堂が考えるリトリートを五感に響くようなかたちでお届けできたら嬉しいですね。

新しい香りの世界観を生み出す最初の一歩に


──最後に、「リトリートスティック」の購入を検討している方にメッセージと、今後の目標をお聞かせください。

庄司:
「リトリートスティック」は1本1本に物語性をもたせた商品です。好きな香りをただまとうときとは違う感覚で、自然とのつながりを感じてリトリートしていただく。その体験を通じて、それぞれの方がどんな感情を抱くのか、とても興味を持っています。Makuakeをきっかけに一般販売にまで繋げられたらと思いますし、新しい香りの世界観を生み出す最初の一歩になる商品になれたらと考えています。

芦澤:
「リトリートスティック」は自然と結びつくという新しい価値を持った、これまでにないアイテムです。フレグランスや香水を苦手としていた方でも使っていただきやすいように工夫をしていますので、ぜひ手に取っていただけたらうれしいです。

石井:
私たちの価値観に共感していただける方々とリアルとオンラインの両面でのコミュニケーションを楽しみにしています。私たちにとって、生活者の方々のリアルな意見を聞く機会は、とても貴重で大切な経験です。みなさんの表情や反応を、次のプロダクト開発につなげていけたらと思います。

上村:
「リトリートスティック」の開発をきっかけに、社内でのコラボレーションがすごく活性化しているんですね。この延長線上で、「リトリートスティック」を通じてお客さまと資生堂とのつながりもより深めていけたら嬉しいです。

ベンチャーではない私たちが、Makuakeでプロダクトをローンチする意味を考えると、資生堂の内部に眠っているたくさんの技術を世に送り出すことだと私は思います。まだ世に出ていない良い技術を今後もお届けしていけたらと思います。

「RETREAT STICK」の企画、開発チーム


(text: Hanae Abe edit: Kaori Sasagawai)

Project

Speedy trial

クラウドファンディングサービスの活用やβ版ローンチプラットフォームなどへの積極的な出展を行い、研究によって生まれたテクノロジーのβ版をスピード感を持って市場に導入 します。

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