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花椿アンビエント×リトリートスティック 香りの先行体験&「UNKNOWN ME」ライブイベント開催

2022.11.2

資生堂の研究所が主導するオープンイノベーションプログラム「fibona(フィボナ)」。
その活動のひとつである「Speedy trial」の取り組みから生まれた第2弾となる製品「リトリートスティック」が、7月にMakuakeでローンチした。

Makuakeでのプロジェクト終了日を待たずして完売となった「リトリートスティック」。9月17日には、応援購入いただいたサポーターを対象にした先行体験イベント「音楽とサイエンスのリトリート」を、横浜みなとみらいにある資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)で開催した。

「リトリートスティック」は、資生堂の研究員とクリエイティブチームの協働で「S/ENSE(エスエンス)*」をコンセプトに開発された香りのアイテム。資生堂が発行する企業文化誌「花椿」Webの環境音楽企画「花椿アンビエント」とのコラボレーションにより、全4回の連載でオリジナルのアンビエント・ミュージックを公開している。
*S/ENSE:自然界のゆらぎやリズムに着目した空間を演出するコンセプト

週末に開かれた先行体験イベントでは、「リトリートスティック」4種の体験に加え、「花椿アンビエント」の連載でオリジナル楽曲を手がけるアンビエント・ユニット「UNKNOWN ME(アンノウン・ミー)」のライブや開発メンバーとのトークセッションが実施された。環境に着目した「音楽」と 「香り」が交差し、視覚や触覚、味覚までも刺激する体験を取り入れたイベントの様子を、写真とともにレポートする。

「リトリートスティック」を先行体験


14時半、「音楽とサイエンスのリトリート」のイベントが開場。先行体験ブースでは「リトリートスティック」のプロトタイプを手にした開発メンバーがお客さまを出迎えた。

「リトリートスティック」は、植物が放出する香りや気象条件によっても変化する“香りのゆらぎ”を表現した4種類のスティック状クリーム。手の甲や手首などの肌に軽くなじませてゆっくりと深呼吸ことで、都会や部屋にいながら、自然の中に身を置くようにリフレッシュ体験ができるアイテムだ。

まず時間帯にあわせて、「午前」であれば朝に強く香るローズを中心とした「Morning Bloom」、「午後」なら昼に香りが強くなるユリなどのホワイトフローラルの香り『Evening Bloom』をベースに塗布。次に、天候や気分に合わせて、雨を思わせる香り『Refreshing Rain』や、風にゆらぐ木々をイメージした『Gentle Breeze』をプラスオンする。

1本で使うのではなく、4つの香りの構成をかけ合わせることで、「朝のそよ風」「夜にしたたる雨」など、自然の“ゆらぎ”を楽しむことができる。

開発メンバーの一人ひとりが「リトリートスティック」をお客さまの手首に施し、香りの特性とテクスチャー、使い方、開発の経緯について丁寧に紹介。複数の香りを肌の上で調合して、その変化を感じる新鮮な体験に、驚きの表情を浮かべる人もいた。

「いい香り」「想像よりも自然を感じる」「デザインがすてき」などの声のほか、「香りごとに使用感が異なり、感動した」「ユニセックスで使えるのがいい」「本格的に製品化してほしい」など、お客さまからはポジティブな意見やアイデアが寄せられた。

S/PARKの2階では資生堂企業文化誌「花椿」創刊85周年の展示も同時に開催。

香り、音楽、映像…五感でリトリートされるライブ体験


15時、S/PARK1階のフロアの壁一面に広がる16K×4KサイズのクリスタルLEDディスプレイの前に、アンビエント・ユニット「UNKNOWN ME」のメンバー4人が登場。

迫力ある大画面に幾何学模様が映し出され、心地よい電子音が流れ出すーー。

台風の影響で、この日は湿り気のある曇天。「花椿アンビエント」とのコラボ連載で7月に発表された「A Rainbow in Meditative Air」は、まさに「リトリートスティック」の午後のベース「Evening Bloom」と、雨をコンセプトにした「Refreshing Rain」をミックスしたイメージと重なる。この日にぴったりのアンビエント・ミュージックだった。

続いて、UNKNOWN MEのファーストLP『BISHINTAI』の楽曲とともに、ディスプレイに映し出されたのは、光、宇宙、湖、鉱物……。海へ、街へ。そして開花するつぼみや虫の姿も。

みなとみらいの地で、都会らしい心地よい電子音のうねりに導かれながら、リアルタイムで音楽と融合したクリエイティブな映像を浴びる。偶然S/PARKに居合わせた多くのお客さまも、思わず足を止め、UNKNOWN MEのパフォーマンスに魅せられていた。

異空間にたゆたうような1時間のスペシャルライブは、音と光の粒に包みこまれるような没入感、そして解放感とともに終了した。

アンビエント・ミュージックのライブ体験


後半は、ライブを終えたUNKNOWN MEのメンバーとリトリートスティック開発メンバーによるトークセッション。

UNKNOWN MEで作曲を担当するやけのはらさん、P-RUFFさん、H.TAKAHASHIさん、そしてグラフィック・デザインおよび映像を担当する大澤悠大さんの4人。リトリートスティックの開発メンバーは、ブランド価値開発研究所で香料研究に携わる庄司健、資生堂クリエイティブのアカウントディレクター石井美加、デザイナーの上村玲奈と佐野りりこが登壇した。

司会は「花椿」の編集として「花椿アンビエント」を担当する戸田亜紀子が務めた

トークセッションは、スペシャルライブの感想のシェアからスタート。観客席の後ろにあるリトリートスティックの体験ブースでライブを体感した佐野は、「嗅覚と聴覚と視覚で楽しむ貴重な1時間でした。大自然の中にいるような、大都会の中にいるような気持ちを、一度に味わいました」と興奮気味に語った。

「不思議な体験でした」と目を見開いたのは、この日アンビエント・ミュージックを初めて聴いた庄司だ。
「空高く宇宙まで行ったような、地底深くまで潜ったような、はるか未来のような遠く古代のような、一瞬をものすごくゆっくり過ごしたような、ものすごく長い時間を一瞬で過ごしたような、未知の体験でした。全身マッサージを受けたようで、ストレスが吹き飛びました」 と、笑顔がこぼれた。

新鮮な驚きを口にした庄司に、「感覚を研ぎ澄ませて聴いていただいたんですね」とやけのはらさん。「正しい解釈なのかわからないのですが……」という庄司の言葉には、「アンビエント・ミュージックは、正しい聞き方のない音楽。先入観なく楽しんでいただけてうれしいです」と返した。

環境に着目した音楽と香りのコラボレーション


音楽家のブライアン・イーノが提唱したといわれる「アンビエント・ミュージック(環境音楽)」は、興味深く聴くことも、聴きき流すことも、無視することもできる音楽だと表現される。人々が生きる背景に流れる環境としての音楽とも定義されるジャンルだ。

対して、大自然における香りにヒントを得たのが「リトリートスティック」だ。庄司は、自然界でのゆらぎに着目した香りのコンセプトをこう説明する。

「大自然にあるさまざまな香りは、時間や気候によって多様に変化しています。例えば、バラの花は朝、爽やかな香りが強く香り、ユリなどホワイトフローラル系の花は夜に強く香ることがわかっています」

さらに開発エピソードとして、「今回、数多くの花の鉢を買ってきて、時間帯を変えて匂いを捕臭、分析したのですが、実際に確認してみて、ユリの花はこれほどまでに夜、強い香りを放つようになるのかとびっくりしたんですよ」 と、自身の体験にも触れた。

植物の香りだけでなく天候も香りの日内変動を左右するファクターだ。例えば、雨が降れば、アスファルトにカビのにおいが生じるように、自然の中では土の臭いなどが匂い立ってくる。自然環境の中では、時間帯や天候によって、そのときどきで異なる香りが立ち、入り交じり、消えていくのである。

「古代から人間が影響を受けてきた自然環境の香りの変化を再現することで、都市型の慌ただしい生活を送っている人たちにリトリートの時間を提供できないか。それが、『リトリートスティック』のコンセプトです」と述べた庄司に対し、他の開発メンバーからもうなずく姿が見られた。

自然の“ゆらぎ”を香りで感じるリトリート体験


コロナ禍の前から、開発メンバーは、様々な自然環境のなかで起きる「香り」を中心とした変化が、人の五感にどのように働きかけるのかを検討する研究開発概念「S/ENSE(エスエンス)」のもと議論を重ねていたという。

「リトリートスティック」の開発が始まったのは、まさにコロナ禍。社会やライフスタイルが大きく変化するなかで、開発メンバー自身もリトリートの必要性を実感したのが大きい。石井は、「一人ひとりが自分と向き合う時間が大事なのではないかという思いから、手元で調合し、半径1メートル以内の空間だけに香る仕様に行き着きました」とふり返った。

香りのプロトタイプができあがると、デザイナーの上村は、パソコンの回りにリトリートスティックを塗りつけた付箋を貼ったり、扇子に香りを付けてあおいでみたりと、どんな使い方がリトリートにつながるのか、そのUXデザインに試行錯誤したという。

(中央左から)リトリートスティック開発メンバーの石井と上村

こうして生まれた「リトリートスティック」の世界観は、パッケージなどのクリエイティブでも表現されている。

デザイナーの佐野は、「ピンクと紫、黄緑、水色が混じり合うパッケージデザインは、デジタルで描いたものではなく、色を付けた煙が空中でただよう様子を撮影したもの。4種類の香りが混じり合う様子を表現しました」と背景を語った。

「花椿アンビエント」とリトリートスティックのコラボ連載で楽曲を手がけるUNKNOWN MEは、『BISHINTAI』の制作のときに、資生堂の美や文化への矜持にインスパイアされたと明かす。

UNKNOWN MEのメンバーは、環境香「リトリートスティック」にどのような感想を抱いたのだろうか。
「僕にとってアンビエント・ミュージックは、ロックやクラブ・ミュージックのような『人と楽しむ』音楽とは違って、自分が心地よくなるためのもの。リトリートスティックも香水とは違い、自分自身を癒すためのアイテムで、そこが共通点ですね」と大澤さん。

司会からの「自然の中の香りと音楽は、ともに“ゆらぎ”の要素を持つのでは?」という問いかけに、H.Takahashiさんは「確かにそうですね。散歩中に聞こえる蝉の声や車の音も、グラデーションになってつながっていきます。そうした音の揺らぎと、リトリートスティックの香りが少しずつ変わる感覚は似ている気がします」と語った。

P-RUFFさんは、リトリートスティックの香りのよさに驚いたという。さらに「香りが持続するなかで少しずつ変化していくのも感じられて、それが面白いと感じました」とコメント。これに対して、香りの研究者である庄司は、「なだらかな香りの変化までしっかり感じていただけてうれしいです」と微笑んだ。

「国内外で、香りを使った音楽のライブイベントはあるのですか?」という石井の質問には、やけのはらさんが「香りと音楽で演出をするようなイベントはほとんどない」と回答。石井は「そんな機会も作れたらと考えています」と構想を明かした。

忙しい日常、環境香や環境音楽の楽しみ方


最後に、リトリートスティックのような環境に着目した香り、そして環境音楽の楽しみ方について、それぞれのメンバーが思いを語った。

P-RUFFさんは、「アンビエント・ミュージックも『リトリートスティック』も、忙しい日々のなかで、短い時間でも自分を落ち着かせ、リフレッシュできるもの。これを機に、ご自宅や移動中などでアンビエント・ミュージックを楽しんでいただければうれしいです。『リトリートスティック』と組み合わせれば、より豊かな体験になりますね」と語った。

普段、デザインの仕事に行き詰まるとお香を炊くという大澤さんは、『リトリートスティック』の商品化を希望。「お香は部屋に香りがついてしまったり、扱いが難しかったりするのが難点です。持ち運びやすく、より気軽にリフレッシュできそうなので、個人的には今すぐにでもほしいぐらいです」と熱を込めた。

開発メンバーの上村は、自身の体験と重ね合わせて、お客さまにメッセージを送る。
「私はずっと自分の好きな香りが一番リラックスできると思っていたんです。でも、試作品を使ったときに、香りを通して自然とつながることが、これほどに自分をリトリートさせてくれるんだという驚きと発見がありました。ぜひみなさんにも、その心地よさを感じてほしいです」

庄司は、「お手元に届いた際には、自然の日内変動や気候の変化にも思いをめぐらせながら使ってみてください。今日、アンビエント・ミュージックを通してさせていただいたすばらしいリフレッシュの体験を、香りによっても体感していただけたらと思います」と語った。

「リトリートスティック」は、自然の“ゆらぎ”を「嗅覚」と「触覚」で体感してもらうアイテムながら、これまではMakuakeや記事などオンラインでしか情報発信ができず、もどかしい思いをしていたという開発メンバーたち。リアルな場でお客さまに、香りやテクスチャーを試してもらい、ポジティブな反応をもらったことで確かな手応えを感じたようだ。

イベントを終え、石井はこんなふうに思いを語った。
「コンセプトをご理解いただきポジティブな意見を受け取ることができました。これからもサポーターのみなさまと一緒に『リトリートスティック』を育てていけたらと思っています」

「リトリートスティック」開発メンバーと「花椿アンビエント」担当メンバー



text: Yue Arima
photo: Umihiko Eto
edit: Kaori Sasagawa

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