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王道ならではの技術と経験を携えて挑む新規プロジェクト Around Beauty Meetup #15 開催

2023.08.31

美にまつわる社内外のさまざまなイノベーターが集い交流する「Around Beauty Meetup」も今回で15回目を数える。今回のMeetupは、サントリーのメンバーがfibonaの活動を外部イベントで目にし、研究開発から考えられる価値づくりについてディスカッションを深めたいという熱意を、fibona webサイトに直接届けていただいたことがきっかけとなり開催に至った。メインテーマを「伝統を生かした脱・王道という新しい価値(コト)づくり」と定め、新たなブランドを生み育てるにあたっての着眼点や意義について参加者と議論を深めた。ゲストスピーカーは、サントリー食品インターナショナル株式会社で 「TAG COFFEE」 の開発に携わった高橋大樹さん。そして株式会社資生堂ブランド価値開発研究所で S/PARK フレグランス プロジェクトに携わっている松浦恵衣子、幸島柚里だ。

オープニングスピーチでfibonaの鈴木敬和は、このMeetupの趣旨を「共創やコラボレーション、新たな研究テーマやビジネスシーズのきっかけを生み出す場」と参加者へ説明した。「Meetupやその後の懇親会を通じて参加者の皆さまが新たな気づきを得られれば嬉しいです」と期待を込めて会の幕開けを宣言した。

アイスブレイクでは今回のテーマにあわせて、各々の「脱・ルーティン」、つまり最近取り組んだ新たな挑戦を共有した。参加者からは「グリーンスムージーを作るようになった」「16時間ファスティングを始めた」など、健康を意識した脱・ルーティンが多く紹介され、交流のきっかけにもなったようだ。アイスブレイク後はゲストプレゼンへ。今回のABMでは、サントリーと資生堂からそれぞれ事例が共有された。


予想外のユーザー層との出会いが「TAG COFFEE」を進化させる


まずサントリーの髙橋さんからTAG COFFEEの事例が紹介された。高橋さんが手掛けた「TAG COFFEE」の「TAG」は、「TOUCH-AND-GO」に由来する。飲料の配合とラベルのデザインをユーザー自身が選び、モバイルオーダーと専用ロッカーによって非接触のまま待ち時間なしで受け取ることができる、ユニークな飲料提供サービスである。

2016年、プロジェクト開始時に設定された命題は「これまで培った技術を使い、既存チャネルの枠を超えた新たなライフスタイルを創造する」ことだった。サントリーはこれまで、工場で製造した飲料をスーパーやコンビニエンスストアといった小売を通じてお客さまに届けるという商売を生業としてきた。その「王道」を脱し、カフェという新たな場での挑戦が求められた。

髙橋さんは「サントリーが培ってきた技術や強みを活かし、いかに新しいサービスへ転換できるかを軸に考えました」とTOUCH-AND-GO COFFEEの着眼点を振り返る。また飲料のクオリティ、商品のバラエティ、提供スピードといったサントリーだからこそ提供できるものであることは脱・王道とはいえ常に意識したという。
そこでプロジェクトチームが着目したのは、朝のコーヒースタンドに並ぶ長蛇の列だった。本当は好きなものをゆっくり選びたい、しかし後ろで待つ人がいる。注文したら1秒でも早く商品を受け取りたい。通勤前の限られた時間の中でも嗜好品を楽しみたい人たちのためのサービスとして考えられたのが「TOUCH-AND-GO COFFEE」だった。ターゲットが求めるものを最優先し、「今までの常識をすべてひっくり返す」つもりで大胆にサービスをデザインすることは、脱・王道の挑戦だからこそ踏み込めた領域だろう。

かくして2019年、日本橋にオープンした第1号店は連日完売の大盛況となった。しかし、この第1号店はプロジェクトの方針の変化に伴い閉店された。大団円を迎えたかのように見えた日本橋の店舗を閉めたのはなぜだろうか。それは、ラベルのカスタマイズを楽しむ若い利用者が急増したためである。もともとお客さまのメインターゲットは徒歩10分圏内のオフィスワーカーとしていたが、店頭には推し活の一環で遠方からはるばる訪れる10代の利用者も珍しくなかった。

そこでターゲットを見直し、ラベルカスタマイズを強化。コロナ禍を経てサービスを一新、「TAG COFFEE STAN(D)」としてリスタートを図った。2023年現在は映画館に併設する形で全国に7店舗を展開、年内にはさらに3店舗がオープンする見込みだという。高橋さんは「想定していなかったユーザーの方々が価値を見出し、TAG COFFEEを単なるコーヒーに留まらない存在にしてくれました。お客さまの期待に応えられるよう進化させていきたい」と笑顔で語った。

企画から販売まで「自分たちでやっちゃおう」研究者の挑戦

次に資生堂研究所(S/PARK)の松浦、幸島からS/PARK フレグランスプロジェクトの事例が紹介された。2023年4月28日に発売された「S/PARK フレグランス」はS/PARKで生まれ、S/PARKでしか販売されていないフレグランスだ。「研究者じゃなかったら生まれてこなかった香り」をテーマに、商品開発から店舗デザイン、お客さまとのコミュニケーションまで、S/PARKの研究員が中心となって手掛けている。

通常の商品は、マーケティング部からの依頼を受けて研究所で開発が行われ、工場で量産し、全国の小売店で販売される。S/PARKは企画、研究、製造、販売、すべての機能を持つ施設だが、実は看板商品である化粧品が売られていなかった。S/PARKでのブランド立ち上げから携わる松浦は「『全部自分たちでやっちゃおうよ』と誰ともなく呼びかけた声にS/PARKのメンバーが賛同してくれました。そこから研究所の化粧品の企画~販売を一貫して行うという自発的なプロジェクトが始動しました。」とS/PARKフレグランスの始まりを語った。

普段の業務や部署によってのみならず、個人個人でも考えや意見は異なったが、ベテランも若手も部門を超えて意見を交わし合った。 商品の企画から、充填を効率よく行うための器具製作、売り場準備に至るまで、あらゆることに研究員が 手弁当で取り組んだ。その姿勢をうけてクリエイティブ部門もパッケージデザイン、コピーライティングなどに協力した。

香りの開発を担当した幸島は「資生堂の技術の歴史を受け継いだ我々が”今”、お客さまに届けたいものは何か考えました」と振り返った。香りのコンセプトは「資生堂の香り創りのDNAの一つである“高級感とナチュラル感のあるシングルフローラル“と”現代のトレンド“の融合」。培ってきた生花の香り分析などの香料開発の知見を活かし、開発を進めた。安心感を覚える懐かしさがあり、かつ初めて嗅いだような新しさも感じるみずみずしい香りを「Bayside Camellia」とS/PARKの建つみなとみらいになぞらえて名づけた。

また、都市型オープンラボというS/PARKの大きな特徴を活かし、実験イベントやワークショップを通じて共創にも取り組んだ。S/PARKフレグランスのプロトタイプを用いて香りが与える印象をユーザーにヒアリングしたり、ミライスト(外部研究員)とともに商品コンセプトを議論したりという活動は普段の業務にないチャレンジだった。

発売直後のゴールデンウイーク連休には、S/PARKでポップアップショップや資生堂のフレグランスの歴史などの展示を実施。白衣を着た研究員たちが店頭に立ち、お客さまと対話しながら販売できたことは貴重な体験となった。

S/PARKのものづくりへの挑戦はこれで終わりではない。購入者やその他の声をウェブアンケートで集め、次につなげていくという。松浦は「お客さまとの共創やプロトタイプの検証で生まれた価値を、資生堂のものづくりにつなげたい」と今後の意気込みを語った。


考えを実行に移す「やってみなはれ」の先に学びがある


後半は、fibonaの星野拓馬の進行のもとスピーカーが揃ってのクロストークが行われ、各セッションの内容を深掘りする質問が飛び交った。まずは高橋さんに質問が投げかけられる。脱・王道を実践していくにあたり、大切にしたこととは何だろうか。高橋さんは「ただ新しいものを作っても、誰にでもできるものでは意味がありません。アセット、技術、ブランドがどう生きるかということを一番に考えました」と答え、サントリーだからできることを突き詰めて考えたと当時を回想した。

では、資生堂の場合はどうだろう。培ってきた「王道」の要素をどのように活かすことができたか幸島に尋ねると、「開発のプロセスは同じなので、タイムスケジュールや品質管理を含め開発ノウハウは活かせました」と答えた。一方で、普段の商品開発では明確な世界観やゴール設定があるが、白紙状態の中から「何を伝えたいか」「既存のブランドに創れない香りとは何か」を考えることが難しかったと付け加えた。

続いて幸島は高橋さんへ「『TAG COFFEE STAN(D)』がリニューアルオープン後、映画館を中心に展開するようになったのはなぜですか」と質問した。高橋さんは、オフィスワーカーを意識した当初の価格設定が結果として赤字を生んでいたことを明かし、ターゲットとともに販売場所と価格の見直しを行ったと答えた。まったく新しいビジネスモデルゆえに事前調査を省略したことを反省する高橋さんだが、幸島はサントリー創業者・鳥井信治郎の言葉を引用し「『やってみなはれ』精神を感じます」と興味深くうなずいた。

松浦には今回のS/PARKフレグランスによって得られた価値と、今後第2弾、第3弾でチャレンジしたいことを尋ねた。松浦は「まだ振り返りのフェーズではない」としつつも、研究員の技術や知識にお客さまが価値を感じていること、この活動が研究員自身のモチベーションにつながっていることを挙げた。特に後者については「初めてづくしで大変なことばかりでしたが、自らアイデアをだしてそれを乗り越える過程、また、普段なかなか接することがないお客さまとのコミュニケーションを研究員たちは楽しんでいるようでした。今後はお客さまからのフィードバックを得るところまで取り組みたい」とコメントした。

松浦のコメントを受けて高橋さんも「考えていたことを実行に移すことがまず素晴らしいです。これからも課題にぶつかると思いますが、いろいろなことをやってみるのが大事だと思います。そこに学びがあるはずです」と賛同。またターゲットを一新してますます好調な「TAG COFFEE STAN(D)」の話に立ち返り、「お客さまに感じていただいている価値をスケールさせて、数字の面でも脱・王道から王道に貢献できるようにしていきたい」と展望を語った。

脱・王道とは、基礎ができた上で型やしがらみを打ち破る「型破り」

最後は4、5名の小グループに分かれてディスカッションを行った。ここまでスピーカーの話を興味深く聞いていた参加者に意見の共有を促し、テーマの「新しい価値づくり」になぞらえて「どのような価値を創り、どのように育てていきたいか」を話し合った。また、参加者にはAround Beauty Meetupオリジナルラベルの「TAG COFFEE」が配布され、そのユニークさと確かな価値を実感したようだった。

自身も新規事業に取り組んでいるという参加者は「新たなチャレンジをお客さまに発表し、声を聞いてブラッシュアップするという良いサイクルを作っていきたい」と話した。また、サントリーの社員の方は「資生堂は消費者と研究部門の距離が近いのが良い。サントリーも見習いたい」「両社とも歴史が長く、似たような風土がある」と2社に通じる気づきを共有した。

イベントの総括として、fibonaのリーダーである中西裕子がメッセージを送った。中西は教育者・無着成恭の語った「型破り・形無し」論を引用し、「王道を知った上でその先を目指すことこそ『型破り』と言えるのでは」と指摘した。加えて、今回紹介された2つの事例を「一人では絶対にできなかったこと」と分析。「やってみたいことがある人はぜひ『こういうことをしたい』と積極的に話してみてください。懇親会がそのきっかけの場になれば」とさらなる交流を促した。

新規事業に取り組む場合、まったく新しいものを求めるあまり既存の価値を放棄してしまうケースは珍しくない。しかし、むしろその価値をフル活用することが「らしさ」であり、自社が取り組む意義につながると学んだ。脱・王道は王道を正しく理解することから始まる。その上で既存の価値を棚卸することで新規事業のヒントが得られるかもしれない。王道、脱・王道ともに認め合うことの重要性を感じられ、普段の業務の向き合い方など気づきの多いミートアップとなった。

Project

Cultivation

ビューティー分野に関連する異業種の方々と資生堂研究員とのミートアップを開催し、美に関する多様な知と人を融合し、イノベーションを生み出す研究員の熱意やアイディアを 刺激する風土を作ります。

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