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「アイデアがスパークするオープンな場に」新メンバーが語り合うfibonaでの気づきと理想の形

2021.09.30

2019年7月にプロジェクトが始動した資生堂のオープンイノベーションプログラム「fibona」は、3年目を迎えたいま、社内および外部からの認知が着実に広がっている。

一方で、「敷居が高そう」「活動を把握しきれていない」という声も社内から届く。では、fibonaメンバーは、どのようなきっかけで参加し、どんな経験をしているのだろう。

資生堂に内定したときからfibonaに関心を寄せ、今年からfibonaメンバーになった鈴木敬和と、「Speedy Trial」への参加を経て運営を担うようになった佐伯百合子が、fibonaでの新たな経験や、これから達成したい理想について語り合った。

fibonaメンバーの鈴木敬和(左)、佐伯百合子(右)

入社前から知っていたfibonaの取り組み


──おふたりの普段の業務と、fibonaでの役割について教えてください。

鈴木:
私は2020年4月に資生堂に入社して、ブランド価値開発センターでグローバルブランド製品の外装開発をしております。fibonaの存在は、入社前の博士課程在学中にニュースで知ったのですが、「資生堂ってこんな革新的なオープンイノベーションプログラムをやっているんだ。面白そうだな」と思っていました。

入社後は、社内にイベントのお知らせが来るようになったので、毎回参加していました。普段の業務とはまったく違う気づきを得られることがとても楽しく刺激的でしたね。そうしたら、2021年の頭に「fibonaに入らないか」と声をかけていただき、4月からfibonaの柱のひとつであるCultivationの活動を推進するチームに所属することになりました。今は社内・社外の人たちとミートアップを通じて、新しい知見を導入しながら一緒に考える「Around Beauty Meetup」をはじめとしたイベント運営などを担当しています。

大学院ではずっとレーザーや光学を研究してきたのですが、意識しないと研究職はどうしても内向きの思考になりますよね。そうなると自然に視野も狭まってしまう。だからこそ、研究者は外の知識や視点を取り入れる機会を意識して持つことがとても大切だと思っています。そこから、自分の仕事にも活かせる新しい気付きも得られますから。

鈴木:
もともと人付き合いに積極的なタイプというわけではなく、大学生のときは「今じゃなくてもいいか」「チャンスはまた巡ってくるだろう」という気持ちのほうが大きかったですね。変わったのは大学院時代です。海外で研究発表するようになったら、各国の研究者たちがすごく積極的に動いたり、まわりを巻き込んだりしている姿を見て、とてもカルチャーショックを受けたんです。そこから少しずつ「一度きりのチャンスかもしれない、失敗してもいいからやってみよう」という方向に変わっていきました。

佐伯:
私は、心理学の基礎研究をする部門に所属しています。例えば、化粧品を使用したときにお客さまがどう感じるか、脳のどこが活動しているのかなどを測定機器やアンケートを使って明らかにするのが普段の業務です。

化粧品は、機能価値だけでなく感性価値にも重きが置かれている製品だと思います。もちろん機能は大事ですが、使ったときに気分がアガる、リラックスできる、自信が持てる、という要素も同じくらい大切だと考えていらっしゃる方が多い。化粧品が心や脳に与える影響を解き明かしていくことをミッションとしています。

私にとってfibonaとの最初の接点は、「Speedy Trial」に1期メンバーとして参加したことです。私がいる基礎研究の部門は、研究はするけれども実際に製品をつくる機会はありません。でもあるときから「一度は自分がつくった商品を世に出す経験をしてみたい」というモヤモヤがあったので、「コンセプトのアイデアから実際につくって市場に出すまでのプロジェクトが立ち上がる」と聞いて、「これは基礎研究の部門にいる私こそやらねば!」と手を挙げたのがきっかけでした。

「Speedy Trial」の後半では、クラウドファンディングのページ作りや製品のネーミング、外装デザインなど、クリエイティブ部門の人たちと一緒にやる業務も担当したのですが、もともとそういうことが好きだったのでとても楽しかったですね。そういう経緯から、今はfibonaの中でプロモーション関連のお仕事を担当させていただいています。

「SpeedyTrial」のプロジェクトから生まれた、顔印象に着目したフィルム型サプリ「Lämmin(ランミン)」

自分の研究や業務にも生かせるfibonaの経験


──実際にfibonaの事務局に入ったことで、鈴木さんはどんな経験や学びを得られましたか。

鈴木:
これまでに参加してきたfibonaのイベントを「楽しい」と思えたのは、事務局の方々が様々な調整や配慮をしていたからこそだったんだ、とまずわかりました。実際、自分も裏方にまわって調整してみると結構大変なんですよ。でもそれ以上に、自分にとっては、目の前の研究だけをしていたら接点がなかった外部の専門家の方々から学べる機会がとてもありがたいですね。

どんな仕事であっても人と人とのコミュニケーションは必要不可欠ですよね。研究者の中には人とのコミュニケーションに苦手意識をもってしまう方もいますが、自分がその部分を鍛えて、周囲にも方法論を伝えられるようになれたら、少しずつ環境も変わっていくんじゃないかな、と思っています。

鈴木が事務局を担当し、株式会社ヤッホーブルーイングの仮屋光馬さんをゲストスピーカーに招いた「Around Beauty Meetup #8」。オンライン開催にもかかわらず、企業、学校、団体から100名超の申し込みがあった。

──佐伯さんは、fibonaでのプロモーション業務でどんな経験を得られましたか。

佐伯:
視点が増えたことは、プロモーション業務を通じて得られた部分です。研究や活動の単体ではなくて、全体の計画の中でそれがどの位置にあるのか、社外からはどう見えているのか、社会は今どう動いているのか。プロモーション業務を通じてプロジェクト全体を把握し、調整していく過程で、そういったことを考える機会が格段に増えました。

大きな視点を持つことは、研究を続けていく上でも大切だと実感しています。自分の研究の立ち位置がどこにあって、これが成功したら社会にどういうインパクトを与えられるのか、という視点は研究の立案や推進にも役に立つと感じます。

「Speedy Trial」では、外装デザインやクラウドファンディングのページ作りなどをクリエイティブ部門との協働で担当。その経験は今のプロモーション活動にも生きている。

理想は、研究員のアイデアがスパークする場


──では、今のfibonaは社内や他の研究員からどのように見られていると感じていますか。

佐伯:
まだまだ「限られた人だけが参加している」という声も聞こえてきます。活動が多岐に渡っているがゆえに、実態が伝わりきっていないのかもしれません。そうした見え方を広げて、誰でもアイデアを持ち込める場に変えていけたらと思います。

そういう意味では、若手の人にこそfibonaをどんどん活用してほしいですね。何もないところからアイデアを育てていくプロジェクトにおいては、失敗したときのリスクやデメリットはほぼないといってもいい、と私は思っています。入社後数年であれば、ある程度は失敗しても周囲に与える影響や自分へのダメージもそこまで大きくないと考えることもできますし、自由に動きやすいうちに、様々な人と出会い、いろんなチャレンジができる場としてもfibonaは最適だと思っています。

鈴木:
「ふらっと気軽に参加できる」ことがfibonaの理想形かなと私も思っています。製品開発の部署にいると、どうしても日頃の業務に追われて目先のことに囚われてしまうため、fibonaからイベント案内が来ても「よくわからないからいいや」と流してしまいがちなんですね。だからこそ、「これなら参加してみようかな」と思わせるような、響くメッセージを伝えていくことが我々の役割だと思っています。

一度でも参加してみると、きっと認識が変わると思っています。「今の自分の業務にも活かせるヒントやこんなメリットがあるんだ」と体感してもらえれば、そこからいろんな出会いが生まれて、周囲にも波及していくはずですから。fibonaがきっかけとなって、S/PARKの名前の通りに色んなアイデアがスパークしていく。fibobaがそういう場になれたら嬉しいですね。

私がいる製品開発の現場も日々業務に追われてはいるのですが、自分がfibonaのメンバーとして居ることで「鈴木がいけるなら、自分もいけるのでは?」と思って気軽に参加してくれる人がひとりでも増えたらいいな、と思っています。

佐伯:
業務時間内とはいえ、fibonaは通常業務プラスアルファでやっていることですから、あえて時間を作ってでも参加してみようと思わせる魅力的な企画を発信していけたらいいですよね。

もしかしたら、参加へのハードルが高く思われているのかもしれません。「一度参加したら大量の業務が振られるかも」「全部ひとりでやらなければならないのではないか」と心配している人もいるかもしれませんが、実際はそんなことはまったくなく、やりたいアイデアを持って参加してくれたメンバーを事務局は全力でサポートしますし、熱意ある人の周囲には自然とメンバーが集まってくるので、通常業務では得難い体験もできるはず。

まずはプレッシャーなどあまり感じずに気楽に参加してもらいたいですね。アイデアをぱっと思いついたときや、自分ひとりの力じゃちょっとできないな、と感じたりしたときに、気軽に相談できる場所としてfibonaを使える枠組みをつくっていきたいです。

研究員が集まりスキルアップできる場所に


──最後に、fibonaを通じてこれから挑戦していきたいことを教えてください。

鈴木:
海外の名だたるグローバルカンパニーと比べると、資生堂の海外的な知名度は残念ながらまだまだです。だからこそ、現場にいる研究員たちがアイデアを持ち寄り具現化できるような場としてfibonaの役割をどんどん広げていきたいですね。

研究員の熱意、やる気、能力を持ち寄って、一緒にスキルアップしていけたら、世界のトップを目指すことだってできるはずです。その最先端の現場にいるのが自分たちなんだ、くらいの尖った気持ちで、今後もfibonaを通じて色んなことにチャレンジしていくつもりです。野望みたいになりますが、いずれは世界中の多種多様なすごい研究員たちが続々と資生堂とfibonaに集まってくる、そんな場所を目指したいと思っています。

佐伯:
鈴木さんの野望に比べると小さいかもしれませんが(笑)、私はまず社内のfibonaへの参加のハードルをもっと下げていきたいと思っています。まだまだ研究所の限られた人にしかアクセスできていませんが、希望者も増えていますし、今後はより多くの人にアクセスしてもらえるコミュニケーションを試行錯誤していきたいです。

もう少し大きなことをいうと、「fibonaブランド」をつくるのが私の野望です。現状ではfibonaで開発した製品アイデアや研究成果を自社の既存ブランドに落とし込む形で進めていますが、既存のブランドにフィットしなくてもfibonaブランドから製品化される仕組みもつくれたら嬉しいですね。

fibonaブランドが立ち上がれば、お客さまやスタートアップ企業の方々にもfibonaを知ってもらい、共創できる機会が増えると思います。何より研究員にとっても、これまで以上に大きなやりがいやモチベーションに繋がる場が増えることを願っています。


(text: Hanae Abe edit: Kaori Sasagawa)

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