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行政、ファッション業界、美容業界――垣根を超えて共創し、未来をつくる:fibona Open Lab 2023【Day1トークセッション】

2024.02.15

“多様な知と人の融合”をキーワードに、資生堂研究所が主導するオープンイノベーションプログラム「fibona(フィボナ)」。

fibonaでは12月15日と16日の2日間に渡り、より多くの方とともに未来のBeauty を考えるイベント「fibona Open Lab 2023」を、みなとみらいの資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)で開催した。

多様なゲストを迎えたトークセッションのほか、fibona発のプロジェクトから生まれたプロトタイプの展示やワークショップなどを実施。fibonaの共創パートナーや関係者、一般来場者など約700名がS/PARKに集った。

オープンイノベーションの未来形とは? その中で生まれる新たな価値とは――?
本記事では、「fibona Open Lab 2023」Day1のトークセッションの様子をレポートする。



外部と協業して挑戦者を応援、東京都のスタートアップ戦略


最初のセッションに登壇したのは、東京都スタートアップ・国際金融都市戦略室長の吉村恵一さん。「大きなエコシステムプラットフォームをつくる取組」と題し、民間企業と協働しながら歩みを進める東京都のスタートアップ戦略について語った。

東京都は、2022年11月から「Toward Tokyo where challengers are born, grow, and meet their potential.(挑戦者が生まれ、世界から集まり、挑戦者を応援する東京へ)」を掲げ、スタートアップ戦略をスタート。2023年4月にはスタートアップ・国際金融都市戦略室を発足。多様なプレイヤーとワンチームで世界を視野に協業することを目指して数多くの取り組みを行い、とりわけ2つの大きなプロジェクトを進めてきたという。

東京都スタートアップ・国際金融都市戦略室長の吉村恵一さん

その1つが、2023年11月にキックオフしたばかりの 「Tokyo Innovation Base(以下、TIB)」 だ。TIBは、人と人とをつなげるプラットフォームを目指しており、行政や大企業、大学などさまざまなプレイヤーとスタートアップとの協働を推進。グローバルに活躍するスタートアップ企業を生むことを目標としている。

スタートアップ等に重点的な支援を提供する一大拠点を作る。そんな東京都の構想は、スタートアップ戦略が始まったときから進められていた。進め方として、スタートアップ支援の関係者がコミュニケーションを深め、フィードバックを通じて施策をバージョンアップするサイクルを目指したという。

「2023年1月には、インキュベーション施設を運営する20社と交流する場を設け、みなさんの意見を聞くとともに、ともにスタートアップ市場の裾野を広げたいという意思を伝えました。みなさんの情熱に刺激を受けました」

民間企業と協働する姿勢は、TIBの施設作りのプロセスにも生かされている。

2023年8月にはスタートアップ市場のエコシステムに関わるプレイヤーを招いて、説明とディスカッションの機会を設定。相互理解を深めた上で、スターティングメンバーを募ると資生堂を含めた27社が集まったという。

またTIBは、日本全国のスタートアップ支援拠点、地方自治体、国内の大学などとの連携を進めているほか、国内外の大学をつなぐ研究拠点を作る内閣府の「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想」との連携も視野に入れている。

「海外のスタートアップ支援拠点や、国内外のスタートアップ向けイベントにも視察に行っております。特にフランス・パリでは、大企業がスタートアップを育てる仕組みができあがっており、勉強になりました。東京都でも、資生堂fibonaのような大企業のオープンイノベーションとスタートアップのコラボレーションを後押ししていきたいです」

TIBは2024年5月、グランドオープンを控える。同時期には、アジア最大規模のスタートアップ向けイベント 「SusHi Tech Tokyo(=Sustainable High City Tech Tokyo ) 2024 Global Startup Program」の開催も予定。国内外から出展者を募集し、参加者4万人、スタートアップ400ブース、一般市民向けのプログラムを含めると期間中の来場者は50万人になる見込みだという。

民間企業や大学と有機的に連携、共創することで、挑戦者を応援し、東京都からグローバルで活躍するスタートアップを――。新しい都政の挑戦は、そんな明るい未来を予感させた。



新進気鋭のファッションデザイナーと研究員が描く「テクノロジー×ビューティーの未来」


続いて、「スペキュラティブに問う次世代のBEAUTY ~新進気鋭のファッションデザイナーと資生堂研究員が描く未来~」をテーマに、 Synflux株式会社 代表取締役CEOでスペキュラティブ・ファッションデザイナーの川崎和也さんと、資生堂みらい開発研究所の向江志朗が、テクノロジー×ビューティーのあり方について語った。

環境負荷が高いといわれるファッション業界。デザイナーの川崎さんは、3D技術やアルゴリズムなどのデジタル技術を活用し、ファッションにおけるサステナビリティの実現に挑んでいる。

Synflux株式会社 代表取締役CEOでスペキュラティブ・ファッションデザイナーの川崎和也さん

その一例が、デザインシステム「アルゴリズミック・クチュール」だ。無駄の少ない服の設計図を自動生成できる仕組みで、従来と比較して製造段階での生地の廃棄量をおよそ3分の1にし、洋服一着あたりの布の量を大幅に削減することができる。2022年には、アウトドアブランド「ザ・ノース・フェイス」などを販売するゴールドウインとのコラボーションを発表した。

向江は、銀河の観測研究で博士号を取得後、資生堂に入社した。肌計測の基礎研究をしながら、宇宙と肌にビジュアル面での類似性を感じ、仕事の傍らでマクロな宇宙とミクロな人間の関係について探究を続けてきた。

両者がつながり、形になったのが、クリエイティブチーム「めぐりあいJAXA」とfibonaによるS/PARKイベント「宇宙×肌から美しいを考える めぐりあいJAXAー地の肌理ー」だ。肌のきめとJAXA観測衛星が撮影した地球の表面との類似性や美しさを、S/PARK大型高精細ディスプレイで体感するイベントには、天文学者や現代美術家などさまざまな分野の専門家が観客として集まった。

左から川崎さん、向江、モデレーターでfibonaメンバーの幸島柚里

後半では、ともに「アート」と「科学技術」というふたつの視点を持つふたりが、ビューティーの未来について対話しながら思索を深めていった。

モデレーターに「これから描きたい未来は?」と問われ、まず向江は「人の肌に宇宙をみる」と答え、「人々が自身の肌に、その人なりの『宇宙』を感じられるような未来を描きたい」と語った。

川崎さんは、「生成する未来 再生する未来」として、「今後はデジタル技術とともに、物づくりのなかに“循環のループ”を実現したい」と想いを語った。そのうえで、普段から宇宙というスケールで循環と向き合う向江に、「人間の世界で物づくりの循環を回すことはどう映るのか」という問いを投げかける。

向江はこう答えた。

「以前、ヴァイオリニストの方が『美は自然のなかにある。一方で、人間は極めて不自然な存在だ』という印象的なお話をしていました。不自然で小さな私たちが、大きな時間スケールから見た一瞬とどう向き合うか。または広大な自然の一部に溶け込んでどう生きるか、ということかもしれません」

それを受け、川崎さんは「物づくりやアート、サイエンスは、そもそも不自然なものなのかもしれません」と応えた。

さらに川崎さんは「人間の身体からすれば不自然なアイテムであるハイヒールは、馬の蹄鉄への憧れから生まれたともいわれます。常識にとらわれず、馬が足に着けるアイテムを人間の足に着けてみる。そうした観点が、イノベーションにつながっていくように思えます」と、常識にとらわれないイノベーションから生まれるファッションの未来について語った。

類似性を見つけ、そこから境界を越えて未来を描く。ふたりの想像力の翼が、私たちの視座を大いに高めてくれるセッションとなった。



「資生堂fibona」×「POLA ORBIS HD MIRC」研究所の外と内をつなげ、美の価値観を更新する


Day1を締めくくる最後のセッションのテーマは、「資生堂fibona×POLA ORBIS HOLDINGS MIRC 研究所の外と中を繋げるインタラクション」。

登壇したのは、ポーラオルビスホールディングス マルチプルインテリジェンスリサーチセンター(MIRC)のチームリーダー近藤千尋さんと、資生堂fibonaプロジェクトリーダーの中西裕子。ともに研究所に所属しながら外部とのインタラクションに取り組んできたふたりが、外と中をつなげる意義や、大切にしている視点について語り合った。

近藤さんは大学院を卒業後、研究員としてポーラに入社。現在は研究開発部門で「ぶらぶら研究員」として活躍しながら、京都の大学院に通い人文領域も学んでいる。

近藤さんがリーダーを務めるMIRCのキュレーションチームは、国内外から美に関する情報を集め、次世代ニーズを探求する役割を担う。収集した情報をカードやレポート、ウェビナーなどのツールで社内に共有したり構造化したりして、美に関するフレームワークを開発。また、社内メンバーの感性を磨くため、歴史のなかの美から未来の美を考えるグループ横断プログラム「美を紡ぐ」も主催している。

同じく大学院を卒業後、研究員として資生堂に入社した中西は現在、R&D戦略部に所属し、研究所主導のオープンイノベーションプログラム「fibona」ではリーダーを務めている。
fibonaは、2019年に始動。資生堂の研究員が、お客さまや国内外のスタートアップ、外部の研究機関などと共創する機会を持つこと、またそうした文化を醸成することで、新しい価値やイノベーションを生み出してきた。

経歴や立場、関心に共通点の多いふたり。後半のトークでは、さらに相通じる点が浮かび上がり、お互いに「似ていますね」と笑みを交わす場面も見られた。

例えば、中と外をつなげて共創を生み出す際に大切にしているスタンスについて、中西が「リスペクトと感謝」と表現して、「相手を尊重しながら関わること」と挙げると、近藤さんは「6割」と回答。「相手を信頼して4割を委ねてともに作り上げること」とその理由を語った。お互いにチームリーダーとしても、中のメンバーそれぞれが個性や得意を発揮しやすい環境を作ろうとする姿勢も共通していた。

最後に、2024年から、MIRCとfibonaはコラボレートし、美容業界から考えるウェルビーイングについて研究開発していくことが発表された。

同じ業界による垣根を越えた共創について、近藤さんは「せっかく同じ美容業界の研究所が一緒に活動するのだから、結果だけでなく試行錯誤のプロセスから見ていただけるようにできたら。今までの美に対するカウンターになるような活動もしてみたいです」と話した。
中西は、「ウェルビーイングという社会課題に何ができるのか。“競合”ではなく同じ美容業界で長い歴史を持つ国内企業として一緒に考えていきたいですね。ともに作ったものが世界でどんな反響を得られるのか。そんなところまで一緒に旅をしたいです」と抱負を語った。

左から近藤さん、fibonaリーダーの中西、モデレーターでfibonaメンバーの豊田智規



東京都、ファッション業界、美容業界、クリエイターから研究員まで......。

異なる多様な立場の人が集い、繋がり、対話したときに未来のビジョンが浮かび上がる。「fibona Open Lab 2023」Day1のトークセッションは、オープンイノベーションを生み出す意義と可能性をさまざまな角度から見つめ直すひとときとなった。



text: Yue Arima
photo: Umihiko Eto
graphic recording: Marin Matsuda
edit: Kaori Sasagawa

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