Activity

サウナ・温泉愛好家が集合、「蘇湯」が導くこれからのウェルネス: fibona Open Lab 2023【Day2トークセッション&薬草湯WS】

2024.03.21

“多様な知と人の融合”をキーワードに、資生堂研究所が主導するオープンイノベーションプログラム「fibona(フィボナ)」。

fibonaでは12月15日と16日の2日間に渡り、より多くの方とともに未来のBeauty について考えるため、イベント「fibona Open Lab 2023」を、みなとみらいの資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)で開催。

多様なゲストを迎えたトークセッションのほか、fibona発のプロジェクトから生まれたプロトタイプの展示やワークショップなどを実施。fibonaの共創パートナーや関係者、一般来場者など約700名がS/PARKに集まった。

本記事では、「fibona Open Lab 2023」Day2から、伊吹山の薬草を活かした入浴用ボタニカル「蘇湯(そゆ)」にまつわるトークセッションと薬草湯ワークショップの様子をレポートする。

サウナや温泉、入浴といった体験は、私たちのウェルネスにどのように寄与するのだろうか――?



愛好家たちと考えるサウナ・温泉の魅力


fibonaや松田医薬品株式会社 、米原市伊吹薬草の里文化センターなどとの協働プロジェクトによって、滋賀県・伊吹山の恵みである未利用素材の薬草を使った入浴用ボタニカル「蘇湯(そゆ)」 「蘇湯(そゆ)」が誕生した。

「蘇湯」のリリースをきっかけに、「fibona Open Lab 2023」Day2のトークセッション「サウナ・温泉が導くウェルネス文化」では、サウナや温泉を愛する3人のパネリストが、サウナや温泉の魅力とこれからのウェルネスについて語り合った。

濱田織人さんは、ベーシスト、音楽プロデューサー、クリエイティブディレクター、茶道家など、数多くの肩書きを持つ。サウナ・スパプロフェッショナルの資格も持ち、雑誌「ブルータス」のサウナ特集号の編集に関わり、2週間でオランダ、ドイツ、ノルウェー、フィンランド、エストニアの約30カ所ものサウナを訪問、取材している。

タレントの秦瑞穂さんは、『秘湯ロマン』(テレビ朝日系)にレギュラー出演するようになったことで温泉に魅了され、温泉ソムリエの資格を取得。同番組では4泊5日のロケで1日に4~5回は湯船に入るそうで、過去に訪れた温泉は数え切れないほどだという。

資生堂みらい開発研究所で、肌と心と身体のつながりや関係性について研究する今村周平もまた、サウナや温泉をこよなく愛するひとり。温泉保養士、サウナスパ健康アドバイザー、温泉ソムリエの資格を持ち、秦さんが出演する『秘湯ロマン』の大ファンでもある。

初対面にも関わらず控え室からサウナ・温泉トークで盛り上がったという3人。トークセッションではまず、それぞれがサウナ・温泉の魅力を語ってくれた。

濱田:
サウナの魅力は、チル(chill)、心身ともに安らかになっているところにあると感じます。海外ではサウナは完全に生活に溶け込んでいて、内省したり、お互いの内面について話したりと、日常で疲れた自分を下ろす場所になっているんです。

北欧では毎日通う人も多く、街中のビル1階にあるサウナの前では、道路に面したベンチでタオル一枚だけ巻いて、ビールをちびちび飲みながら、だらだらおしゃべりをしていますね。

秦:
私が考える温泉の魅力は、歴史に触れられること。温泉地で宿の方にお話を聞くようになって、宿や温泉、温泉街の歴史を知るとより楽しめることに気がついたんです。

「文豪が湯治に来た」「○○藩が傷を癒やした」といったエピソードを聞くと、景色が変わって見えますよね。温泉に入るときは、歴史上の人物になりきったり、時代に思いを馳せたりして楽しんでいます。

今村:
僕は、“財産”というキーワードが浮かびました。温泉もサウナも自分の体をリフレッシュ、リラックスさせていい影響を与える“財産”ですし、そこへ行った記憶もまた自分の“財産”になる。また、自然の恵みである温泉は地球の“財産”でもあります。

僕の好きな長野県の中房温泉は、飛騨山脈近くの山深い場所にある江戸時代から続く秘湯。30カ所近くから温泉が湧き、湯船が14カ所あります。温泉の蒸気サウナもあって、まさに地球の財産だなと感じます。



身体性、ストレスからの解放…サウナ・温泉がもたらすもの


ディープな温泉・サウナトークに花が咲くなか、セッションの中盤でパネリストたちの足元に姿を現したのは、なんと薬草湯が楽しめる足湯マシン。

ヨモギやドクダミなど数種類の伊吹山産の薬草が配合された薬草湯に足を浸した3人は、「いい香りですね」「あったまりますね」とより打ち解けて温かい雰囲気に。続いて、サウナ・温泉ブームの要因やこれからのウェルネスについて深掘りした。

秦:
これだけブームになったのは、サウナや温泉が、人との新しい付き合い方になったからではないでしょうか。サウナや温泉で話をすると、その人との距離が近くなりますよね。周囲を見ていると、お酒が好きで「遊びといえば飲み」だった友人たちが、最近はサウナやスーパー銭湯に遊びにいくようになっています。サウナや銭湯だと一杯飲んで早く帰るような健全な遊び方になるので、それもいいのかもしれませんね。

足湯しながらトークする登壇者のみなさん

濱田:
僕はサウナブームの要因のひとつに、サウナがお風呂よりも身体感覚に強く訴えかける部分があったからではないかと考えています。また、コロナ禍を経て、自分の心身の状態に関心を持つ人が増えたのも要因ではないでしょうか。僕自身もそうなのですが、身体と心のメンテナンスやケアのために、サウナや温泉に親しむようになった人が多いのでは、と。

今村:
わかります。僕も、サウナ・温泉がストレスを減らす手段として身近になったことがブームの要因なのではと思っています。近年、心が身体とつながっていることが周知されはじめ、昔に比べて現代では多くの人がストレスをため込まないようにしようという意識を持つようになりました。特にコロナ禍以降は、精神的ストレスを受けることが多かったので、それをケアする必要性も高まったのでしょう。

資生堂みらい開発研究所の今村周平、モデレーターでfibonaメンバーの牧野佑亮

濱田:
最近は、どこを旅しても必ずサウナがあるといえるほど、日本でもサウナ施設の数や種類が増えています。かつての温泉ツーリズムのように、各地のサウナをめぐるサウナツーリズムも流行っていますよね。これからは、スチームサウナなど日本人の生活に根付いたサウナが増えてくるのではないでしょうか。尖った特徴を持つサウナよりも、何度も行きたくなるような、その土地にあったサウナが残っていくんじゃないかと思いますね。

今村:
日本のお風呂文化は、もともと蒸気浴から始まったといわれます。またかつての大衆浴場はコミュニケーションの場でした。その意味で、スチームサウナが増えているのは納得です。今後は、サウナも温泉ももっと身近になるといいですね。いろいろな場所に行くのもいいですが、自分に合った場所に通う文化もできるといいなと思います。温泉なら、肌の調子や体調が良くなったりする、自分の体質に合った湯にくり返し訪れるような楽しみ方も広まってほしいです。

秦:
温泉は宿泊旅行で行くところというイメージがありますが、探せば近場に見つかることもよくあります。日帰りで行くのもいいし、数百円の共同浴場なら1日に何カ所か湯めぐりするのもおすすめ。温泉が、もっと気負わず気軽に出かけられるレジャーになったらいいなと思います。

私たちの歴史や文化に根づいた温泉・サウナ。コロナ禍を経て、コミュニケーションと内省のきっかけとしても大きく広がった。週末のS/PARKでくり広げられた和やかなトークは、自分の心と身体をととのえ、これからのウェルネスを探求するひとときとなった。



好みの香りや配合をつくる薬草湯ワークショップ体験


入浴用ボタニカル「蘇湯(そゆ)」は、付属するオリジナル巾着にユーザー自らが薬草を入れ、入浴剤を作るプロセスも大きな特徴だ。

そこで「fibona Open Lab 2023」では、伊吹山「蘇湯」プロジェクトチームの松田医薬品株式会社のみなさんによる「薬草湯手作り体験ワークショップ」も開催。参加者は初めての薬草の配合を楽しんだ。

ワークショップでは、伊吹薬草の里文化センターの谷口康さんによるミニレクチャーも。

高知県高知市にある松田医薬品は、「自然のあらゆる恵みを紡ぎ、人と社会を温める」をコンセプトに、創業当時から40年以上に渡って生薬の入浴剤を作り続ける“生薬のプロフェッショナル”。

今回のワークショップは、参加者が好みに合わせて合計10グラムになるよう生薬を配合し、スタッフが専用の機械で入浴剤に仕上げるというもの。参加者が囲んだテーブルには、伊吹山産の「イブキヨモギ」をはじめ、寒い季節におすすめの生薬が並べられた。

薬草湯にセレクトできる生薬は、鎮痛・止血作用があり、冷え性改善につながるとされるヨモギ、血行促進作用があるといわれるチンピ、抗炎症作用、リラックス効果が期待されるカミツレ、冷え性防止、発汗作用があるとされるショウキョウ、植物の力を引き出すといわれるカンゾウ、美肌効果や筋肉痛の改善が期待されるユズの6種類だ。

松田医薬品の取締役・松田憲明さんは、「材料は、必ずしも全部入れなくて大丈夫。まんべんなく入れるよりも、香りを嗅いで自分の好みに合うもの、体調に合うものをお好みで入れてください」とアドバイス。自分の感覚に合わせて配合することで、より薬草の効果が高まり、リラックスもできるという。

生薬の入ったびんを手に取り、真剣な顔で香りを確かめる参加者のみなさん。配合にかける時間は人それぞれで、直感的に生薬をピックアップする人もいれば、神経を集中させて自分好みの香りと向き合う人、スタッフに効果・効能をじっくり相談する人などさまざま。

参加者のみなさんが「驚いた」と語ったのは、初めて嗅ぐ生薬の豊かな香りだ。例えば、カミツレはカモミールとも呼ばれ、ハーブティーやアロマオイルとしても知られるが、参加者の一人はそれらと生薬の香りが異なることが興味深かったという。「名前だけ知っていたカンゾウの香りが好みで、たくさん入れてみました」と話す方も。

同じ生薬を使いながらも、筋肉痛対策でヨモギとカミツレを多めにしたり、冷え性改善でショウガとチンピをメインにしたり、冬らしい気分を味わえるようショウガとユズを重点的に配合したり......配合にもそれぞれの個性が表れる。

自分好みの配合で作った入浴剤を手に、みなさんが「薬草を入れたお風呂に入るのが楽しみです」と心弾む様子で語ってくれた。

サウナや温泉の魅力を語り合うトークセッション、そして薬草湯のワークショップ。このふたつを通して、サウナや温泉、また入浴という体験が、私たちの身体だけでなく心にも大きな影響を及ぼすことが浮かび上がった。

慌ただしい毎日から心身を解放し、より大きな喜びで満たす――。私たちの日常にある入浴という時間を大切にすることもまた、ウェルネスへの第一歩なのだと再確認できる機会となった。



text: Yue Arima
photo: Kaori Nishida, Umihiko Eto
graphic recording: Marin Matsuda
edit: Kaori Sasagawa

展示コーナーには足湯コーナーも。週末にはたくさんの親子連れも訪れた。



text: Yue Arima
photo: Kaori Nishida, Umihiko Eto
graphic recording: Marin Matsuda
edit: Kaori Sasagawa

Project

Other Activity