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トップクリエイターと研究員が探求、「セカンドスキンメイク™」が拡張する未来のビューティー:fibona Open Lab 2023【Day2トークセッション&WS】

2024.03.13

“多様な知と人の融合”をキーワードに、資生堂研究所が主導するオープンイノベーションプログラム「fibona(フィボナ)」。

2023年12月15日、16日の2日間にわたり、未来の「Beauty」を一緒に考えるイベント「fibona Open Lab 2023」が、資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)で開催された。

今回は、以前紹介した「セカンドスキンメイク™」にフォーカスし、Day2に実施されたトップクリエイターと研究員によるトークセッションと、参加者が体験したワークショップの様子をレポートする。

メイク、ファッション、そしてエンターテインメントが「セカンドスキンメイク™」によって有機的につながり拡張していく――そんな未来の姿がリアルに垣間見えるような時間となった。

世界で活躍するクリエイターと資生堂の最新テクノロジー研究者が登壇


16日の午後に開催されたトークセッション「セカンドスキンメイク™が拡張するBEAUTY ~テクノロジー×エンターテインメントの可能性~」。

登壇したのは、第一線で活躍するデザイナー/スタイリストの三田真一さん、クリエイティブディレクター/特殊メイクアップアーティストのAmazing JIROさんと、「Second Skin」技術の開発に携わるみらい開発研究所の研究員・久保田俊。同じく研究員でfibonaメンバーの柳原茜がモデレーターを務め、エンターテインメントの切り口から、セカンドスキンメイク™や未来のメイクアップの可能性を探った。

サカナクションのスタイリングや、Perfumeの衣装デザインを担当するなど音楽、映画、広告、雑誌をはじめ世界で活躍する三田さん。2022年には資生堂が150周年を記念して展開したビジュアルの衣装制作を手がけるなど、独創性を生かしてファッションを通じたさまざまな表現を試みている。

三田さんと同じ作品を手がけることも多いというAmazing JIROさんは、代表を務める特殊メイク・造形工房『自由廊』で、映画『進撃の巨人』の劇中に登場する巨人などを制作。Netflixオリジナル映画『浅草キッド』では俳優の柳楽優弥さんをビートたけしさんに変身させるなど、日本の特殊メイク業界を牽引するひとり。個人の活動では、アートやビューティーメイクとコラボレーションし、新たなメイクの世界を開拓している。

研究員の久保田は現在、「セカンドスキンメイク™」のプロジェクトリーダーを務める。これまでに「Second Skin」をはじめ、食品技術からヒントを得た新カテゴリー「ジェリーファンデーション」などの開発に携わった。既存の化粧品のカテゴリーにとらわれず、別ジャンルや異業種を組み合わせてイノベーションを生み出すこと。それが今の久保田の開発スタイルになっている。

アナログとテクノロジーが「融合」する世界


CGや合成技術など、エンターテインメントの世界とテクノロジーは、もはや切っても切れない関係だ。ファッションと特殊メイクという“人間の手”を使って表現をしてきた二人は、テクノロジーの介入をどのように捉えているのだろうか。

柳原:
エンターテインメントの世界で活躍されてきたお二人ですが、テクノロジーで表現の幅を広げてきた経験はありますか。

三田:
例えば、Perfumeはテクノロジーと音楽とファッションをかけ合わせてパフォーマンスをすることが多いのですが、リアルタイムのダンス映像と背景をCG合成させたりしています。エンターテインメントを拡張させるものとして、テクノロジーはこれからの時代に必要だと考えています。

また、工芸ではBrightorbTM(ブライトーブ)というガラスとも陶器とも違う新しい素材が生まれています。これは陶器のように焼いたとき、縮んだり歪んだりすることがありません。何百年もの歴史と技術が蓄積された工芸の世界にも、新しいテクノロジーを取り入れることで、今まで出来なかったことが出来るようになる。そんなふうに人間の手で作られたものをさらに進化させることで、エンターテイメントの新たな可能性が広がるのかなと思っています。

Amazing JIRO:
僕の業界のテクノロジーといえばCGといったデジタル技術になります。それがどんどん進化していて、このままいくとアナログ技法がなくなっていくのではないかと特殊メイク業界ではいわれています。ただ、僕自身はそうは思っていません。アナログとテクノロジーを融合し、デジタル技術もうまくツールとして使っていくことが新常識になると感じています。昔は手作業でやっていたことが、いまはパソコン上でできるようになり、そのおかげで作業スピードも早くなっている。データなのでサイズがいくらでも変えられるという利点もある。だからこれからも新しいテクノジーを積極的にうまく取り入れていきたいと思います。

「アナログとテクノロジーを融合していきたい」と話すAmazing JIROさん。その一例としてAmazing JIROさんの作品がスクリーンに映し出された。女性の顔に目がいくつも転写されているものや、顔が紙のように破かれているものなど、デジタル処理された作品のように見える。だが驚くことに、これらはすべてアナログで作られたものだという。

Amazing JIRO:
デジタル技術やCGでできるものを、あえて筆と塗料によるペイントだけでやる。人の顔が中心から破れていて、何層にもなっているこの作品も加工を一切していません。どういうことかというと、同じポーズの写真を何枚も撮り、そのあと破きます。そのうしろにモデルを立たせて、実際の顔の部分のみペイントする。つまり外側はプリント用紙で、内側はペイントなんです。このようにデジタル技術でいろんな表現ができるようになったからこそ、アナログでおもしろい作品を作れると思っています。


Amazing JIROさんによる「セカンドスキンメイク™」を実演


テクノロジーだけでも、アナログだけでもなく、ふたつをさまざまな方法で「融合」することで新たな表現が見えてくる。その共有認識のもと、次のテーマに挙がったのは、「Second Skin」技術の魅力と可能性だ。

まず久保田が、改めて「Second Skin」技術を説明する。「Second Skin」技術とは、資生堂が誇る最先端技術のひとつで、「ステップ1」の美容液の上に「ステップ2」の美容液を重ねて塗ることで、肌の上に透明で柔軟なフィルム(第二の皮膚)ができる。伸縮性があり生体の肌に近い性質をもっている。

久保田:
この肌上に形成されたフィルムは、肌の乾燥を防ぐスキンケア効果、毛穴を目立たなくして肌をきれいに見せるメーキャップ効果のほか、乾燥時の収縮がもたらす張力で肌を変形させ、目袋などのたるみを目立たなくする効果が期待できます。

この技術をメイクに活用して生まれたのが「セカンドスキンメイク™」です。
従来にはない、①油絵や特殊メイクのような立体的な表現ができる、②様々なものを膜に 取り込ませることができる、③簡単に落とせる、という画期的な特徴を持っています。

久保田:「セカンドスキンメイク™」のテーマは「新しい“変身”」です。なりたい自分になれることで、新たな自分を見つけてもらえたらと思っています。

ここで研究員がモデルとなり、Amazing JIROさんによる「セカンドスキンメイク™」の実演パフォーマンスがスタート。まず目元のあたりに「ステップ1」を塗り、エアブラシで塗料を施したAmazing JIROさん。その上から開発中のスプレータイプの「ステップ2」を重ねていく。

次に出てきたのは、なんとテーブルクロス。パターンが施された金箔のモチーフを使うという。Amazing JIROさんならではのオリジナリティ溢れるアイデアだ。

Amazing JIRO:
今、モチーフを肌に当てながら本人に合う形を模索しているんですけど、接着剤を使うとつけ直しができない。でも「ステップ2」を使う前なら、固まってないので、貼って剥がしてと試せるのは良い点ですね。

この後、さらに「ステップ1」と「ステップ2」をうまく組み合わせて、塗料、大きさが異なる3種類のグリッターとラインストーンを重ねていく。

Amazing JIRO:
セカンドスキンをスポンジで薄くたたくと強度があがるし、完全に皮膚と同化して見えなくなるのもいいですね。色を重ねて行く際、通常だと下の色が溶け出したり混ざってしまったりすることがありますが、その心配がないです。セカンドスキン自体は透明ですが、何層にも重ねていくと少し曇りがかってくる。そこに彩度の高い新しい塗料を入れてあげれば、色相に幅が出てきます。すごく使いやすいですね。

久保田:
そうですね。色が固定されるので、これまで出来なかった立体的なグラデーションなど表現の幅が広がると思います。

柳原:
セカンドスキンを使うことで、特殊メイクと普通のメイクとの境界線がシームレスになっていくような、そんな新しい可能性を感じますね。

メイクもファッションも「なりたい自分」を拡張させるもの


メイクは約15分で完成。繊細でありながら華やかさも感じられ、短時間で施されたものとは思えないクオリティだ。メイクに使われた素材の一つひとつが生き生きと鮮やかに存在感を示し、見る者の目を惹きつける。

久保田:
今回の実演だけでも、セカンドスキンを下の色が落ちないようにフィクサーとして使う、上から色を重ねて立体感をつけるなど、技法の部分だけでも色々なものを生み出せそうです。

Amazing JIRO:
僕は特殊メイクで、シリコンなどの素材を肌に貼り付けるのですが、その接着剤はプロフェッショナル用なので、なかなか一般の人は入手できないんです。僕の希望としては、このセカンドスキンが広がって、みなさんが気軽に特殊メイク的なことにトライできればいいなと思います。

三田:
ファッションもメイクも、自分の気分を拡張させるもの。ワクワクしながら「こうしよう、ああしよう」って楽しめたらいいですよね。さらに一般的なメイクの業界からだけじゃなく、特殊メイクができるAmazing JIROさんが提案していることにも意味があると思います。

エンターテインメントの第一線で活躍するふたりによって、新しいテクノロジーとの向き合い方や「セカンドスキンメイク™」のさらなる広がりと可能性を発見できたトークセッションとなった。


自己表現を拡張する「セカンドスキンメイク™」体験


トークセッション後には、一般の方が実際に「セカンドスキンメイク™」を体験できるワークショップが開催された。

会場に訪れた参加者を、「セカンドスキンメイク™」を施した4人の研究員がご案内。研究員から渡された白衣を着た参加者はテーブルに着席し、目の前に準備されたアイテムを興味津々な面持ちで見つめている。

机の上に並ぶのは、セカンドスキンメイク™の「ステップ1」「ステップ2」とさまざまなメイク道具。顔料、ラメ、ラインストーンだけでなく、ドライフラワーなど普段のメイクでは使わないようなアイテムが目を引く。

最初に、研究員の林田啓佑からセカンドスキンメイク™の使い方や特徴について説明があり、いよいよ参加者によるセカンドスキンメイク™がスタート。

おそるおそるメイクを始める人、最初から大胆に顔にペイントをする人などさまざまだが、鏡を覗き込みメイクを楽しむ瞳は一同に輝いている。

最初は知らない者同士だった参加者も、お互いのメイクを参考にしていくうちに自然と会話が生まれ、にぎやかな空間にどんどん変わっていく。

一人ひとりのクリエイティブを刺激する「セカンドスキンメイク™」


ここからは、実際に体験した参加者の感想をピックアップして紹介していこう。

友人とおそろいでドライフラワーを目元に装飾した参加者は、「『セカンドスキンメイク™』の体験をずっとしたくて楽しみでした」と声をはずませ、「実際に使ってみて、塗りやすく、肌がつっぱる感じがないのがいいですね。花を肌にのせても違和感がほとんどないです」と教えてくれた。

「青が好きだから、せっかくならがっつりメイクをしようと思って笑」と鼻筋から目元にかけて大胆に筆を入れていた女性は、「『セカンドスキンメイク™』が広がれば、イベントでのメイクの幅が広がるなと思いました」と期待を込めた。

一緒に参加していた男性は、メイク自体が初めての体験だという。難しいと言いながらも、「簡単に変身できるので、非日常を楽しめておもしろいです」と話してくれた。

顔以外にセカンドスキンメイク™を耳に施しピアスのように、指に使って指輪のようにと、工夫をしながら楽しむ参加者の姿も。一人ひとりのアイデア次第で、使い道や可能性がどんどん広がっていくのを実感した。

また、今回はトークセッションでAmazing JIROさんが使用していた開発中のスプレータイプの「ステップ2」も用意された。研究員から教わりながら試してみた参加者も多く、「使いやすい」との声が挙がっていた。



あっという間にワークショップ終了の時間に。それでもメイクをする手が止まる気配は一切なく、夢中になっている様子が印象的だった。

「今日はみなさんに楽しんでもらえて良かったです。これからもこうしたワークショップを開催していきたいですし、「Second Skin」技術で何ができるのか、その可能性を広げていきたいと思います」と林田。

fibona Open Lab2023のセカンドスキンメイク™のブースでは、チームメンバーの研究員がお客さまに使用方法を教えながらメイクを体験できるコンテンツを提供。終日、子どもから大人まで性別を問わず人が絶えない人気コンテンツになっていた。

今回のトークセッションとワークショップを通じて見えてきたもの。それは新たなテクノロジーがもたらす心の豊かさだ。メイクを拡張するセカンドスキンメイク™が、人々の好奇心やクリエイティブな力も引き出していく。クリエイター、お客さま、研究員が一緒になって創造的な未来を思い描き、創り上げた一日となった。

text: Ikumi Tsubone
photo: Kaori Nishida, Umihiko Eto
graphic recording: Marin Matsuda
edit: Kaori Sasagawa

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