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「Co-Creation with Consumers」と「美活ジム」は、コロナ禍で生活者とどう向き合い、対話したのか

2021.06.9

fibonaの取り組みの中の一つであり、研究員と生活者が直接コミュニケーションを取りながらプロダクトを開発していく「Co-Creation with Consumers」と、「お客さまへの体験サービスを提供したい」というコンセプトのもと、肌と表情のためのレッスンプログラムとして2020年に研究員が立ち上げた「美活ジム」の2つは、COVID-19の影響を強く受けたプログラムだった。

2020年、リアルな「対話」の場が激減するなかで、両プログラムのメンバーたちは、どのような形で生活者との対話の機会を創出してきたのでしょうか?

「Co-Creation with Consumers」を推進するfibonaメンバーの旭と豊田、研究員として「美活ジム」を立ち上げた樋口の3名が、プロダクトやサービスの届け方、生活者との対話がもたらすイノベーションの気づきについて語り合いました。

左から豊田智規、旭啓之、樋口淑江

オンライン開催だからこそ生まれた「対話」の場


──COVID-19の影響により、生活者と企業が直接交流する場の多くが失われました。fibonaの取り組みでは、どのような変化がありましたか。

豊田:
私が担当しているfibonaの活動のひとつが、「Co-Creation with Consumers」(以下、「with Consumers」)という取り組みです。試作中の製品やサービスの原型を、学生や若い世代の方々に体験していただき、出てきたリアルな意見を参考にブラッシュアップしていく、というコンセプトなのですが、この一番の醍醐味はやはりモノに触れたときの生活者のリアルな声や態度、反応を間近で見聞きできることだったんですね。

ところが、コロナ禍においては、実際にモノに触ってもらえる場を用意すること自体が困難になってしまった。来てもらえないのならば、こちらから届けるしかありません。そんな思いから始めたのが、「with Consumers」に参加いただく方に試作品を直接お届けした後、オンラインワークショップでそれを使ってもらう試みです。

――その取り組みは、いつ頃実施されたのでしょうか。

豊田:
2020年の夏です。実験的なプロダクトなので詳細は明かせませんが、4種類の試作品にメッセージと参加者全員がfibonaチームの一員であるというチームワーク醸成の意味も込めたfibonaオリジナルのステッカーを添えて、宅配便でそれぞれのご自宅にお送りして。その後にオンラインのワークショップで送った試作品の使い方をレクチャーしながら、使い心地や感想を研究員にフィードバックしてもらうワークショップを設計しました。

結果、オンラインという形ではあっても、私たちがやりたかったことはブレることなくできたという手応えがありました。

旭:
当初は、オンラインでものを触りながらのワークショップは不自由な面が多いだろうと予想していたんです。オフラインでは伝わるものがオンラインでは伝わらない、そのようなもどかしさがあるんじゃないかなと。

ところが、実際やってみるとそんなことはまったくなかった。参加者の方々との会話も弾みましたし、コミュニケーションもスムーズにできました。生活者の方々のリアルな声をしっかり拾うことができたと思っています。

豊田:
もし「化粧品を使う」ということをオンラインかオフラインかで表現するのであれば、完全にオフラインの体験で、五感を通じて使ってもらうものだと捉えています。だからこそオンライン開催には不安もあったのですが、実際に開催してみて、不安以上に「参加者の幅が広がる」というオンライン開催ならではのメリットも大きかったです。

普段のワークショップでは、横浜の資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)が会場になることが多いため、必然的に参加者が東京や神奈川の方に偏っていたんですね。ところが、オンライン開催にしたところ、愛知や三重などの地方在住の方々やシドニーに留学中の学生さんも参加してくださったんです。居住地域が異なると、同世代であっても経験している事柄や、マインド、同一のプロダクトへの反応もまったく違ってくる。それが非常に面白かったです。

旭:
得るものが多い試みでしたが、唯一、オフラインの場面に比べて不便さを感じたのは、実際にプロダクトを試してもらって「ちょっと違うな」という反応が参加者から出たときです。同じ空間にいるなら「では、こちらならどうでしょう」と別の試作品をすぐに試して頂けるのですが、オンラインではそれができない。そのあたりをどうカバーしていくかは今後の課題です。

豊田:
昨年の取り組みでは、夏にオンラインワークショップを実施し、そこからブラッシュアップしたうえで、冬にオフラインでのワークショップを実施しました。一連の取り組みの中で、同じ要素技術をオンライン・オフラインそれぞれで、同じ人に、同じ研究員から紹介したんです。そうしますと面白いことに、参加者が反応する部分がオンラインとオフラインとで違ったんです。

オンラインだからこその生っぽい驚きが出た場面があった一方で、オフラインだからこそ伝わりやすかったこともあった。担当した研究員は、「両方を体験できたことは大きな収穫でした」と話してくれました。どちらがいい悪いではなく、それぞれのよい部分を上手く組み合わせていく。ここは私たちの仕事だと思っています。

セルフケア方式の少人数レッスンプログラム


――2020年に始動したレッスンプログラム「美活ジム」はいかがでしたか。

樋口:
「美活ジム」はお客さまと対面で接するサービスですから、やはり影響は受けました。ただし、幸いにもリアルでの体験機会がゼロになったわけではありません。

「美活ジム」は、社内の提案制度から生まれたプログラムで、そもそも「一生役立つお肌・お顔のお手入れを自分でできるようになろう」というコンセプトから始まったものなんです。つまり、セルフで完結できるスタンスが基本にあるので、そのために対面レッスンは少人数制にしてお一人ずつのスペースを確保し、安全な距離を取った上でレクチャーするなどの工夫を行うことで実行できました。

――とはいえ、スキンケアやメイクは肌に直接触れる行為です。コロナに配慮して行うなかでの難しさはありましたか?

それは独自で開発した、タブレット端末のアプリが役立ちました。これはコロナ禍とは関係なく開発を進めていたものなのですが、笑顔の左右バランスを測定したり、今の肌の状態を数値でチェックできる機能を備えています。接触を伴うカウンセリングができない状況下でも、このアプリを通じてお客さまにリアルな体験サービスを提供することが可能になりました。

(美活ジムイメージ画像)

――コロナ禍においても「対話」の機会は確保できていたのですね。「美活ジム」を通じた生活者とのコミュニケーションで、研究員としてはどんな気づきがありましたか?

樋口:
私たち研究員にとって、お客さまとの対話を通じて得られる気づきは非常に大きいです。喜んでいただけたり、「もっとこうだったらいいのに」という声をいただいたりすることで、「自分たちは何のために研究をしているのか」という初心を思い出させてくれます。それがひとつめの利点です。

もうひとつは、お客さまとの対話が「生活者の悩みを見つける入り口になりうる」ということです。アンケートに記入される言葉や、口から出てくる悩みではなく、お客さまご自身の中でもまだ言葉になっていないことや、微妙な表情の変化などを通じて、はっと「もしかしてこういう悩みもあるのでは?」と気づかされる場面が多々あるんですね。

例えば、お客さまがセルフ測定される様子を見ていると、「そういうところに驚くの?」「そこに目をつけるんだ!」という驚きがあるんです。ご自身が気づいてない魅力や悩みの種のようなものを発見し、研究に活かしていく。研究員としてのセンスや洞察力が問われるところでもあると思っています。

「美活ジム」はまだ2年目ですが、メンバーがすごい勢いで成長していると思います。毎回、メンバーですごくディスカッションをするんですね。お客さまとのコミュニケーションを通じて得た生活者の視点に立つことの大切さが、(研究者としての)視点の広がりをもたらしてくれたし、「どんな言葉なら伝わるのか」を深く考えられるようになっています。

生活者の声を聞き、プロダクトの魅力を伝えられる


――資生堂の研究員にとって大切なスキルは何でしょうか。

旭:
樋口の話とも重なりますが、私は研究員にとって大切な資質は「専門性」と「観察力」だと考えています。

専門性は、自分の得意とする技術を深め、新しい知見を見出し、それが世の中にどう貢献していくかまで考察すること。観察力は、自分たちが生み出したものが生活者の心をどう動かしているのか、それを見極める力。「with Consumers」という取り組みを通じて、研究員の方々にはぜひこの「観察力」を磨いてもらえたらという思いはずっとありますね。

自分が考えたものに対して直接的にフィードバックをもらう行為は、研究者にとってはインパクトが大きいですよね。自信満々で出したプロダクトが、「ふーん」で終わらされたときの衝撃は大きい(苦笑)。

豊田:
一昨年、「with Consumers」の取り組みで、サンケア製品開発担当の研究員とランニングを日常的に行う一般女性らがコミュニケーションを取りながらプロダクトを作るワークショップを開催したのですが、みなさんはっきり意見を出してくれるんですよ。「この匂い、イヤです」「汗とまじってぬめっとした」とか。でもそういう反応こそが、研究員にとっては新鮮だし、ためになります。

メーカーの研究員である以上は、プロダクトの魅力や価値をお客さまに伝える力も絶対に必要です。どんなに素晴らしい研究をしても、理解してもらえなかったら意味がない。世相の変化や生活者を観察して、いろんなことをキャッチする。そこから自分たちで表現・発信していく。それが今の時代の企業の研究員に求められるスキルではないでしょうか。

コロナ禍、ビューティーとの向き合い方


――コロナ禍では、「メイクをする機会が減った」という声もよく聞きます。研究員のみなさんは、生活様式の変化がメイクに与えた影響をどう見ていますか。

樋口:
私自身もそうですが、マスクが汚れるからリップを使わなくなった、という声は非常によく聞きます。ファンデーションも鼻から上しか塗らないとか。その反面、アイシャドウや目のまわりのメイクにより意識が向くようになりましたね。

旭:
電車に乗って周囲を見ても、ほぼ全員がマスクをしている状況ですからね。見えないのであればメイクをしない、という気持ちになるのは自然なことだと思います。

ただ、私の知人には「メイクは人に見せるためじゃなくて、自分のためにやるもの。だからコロナの前後で何もメイクを変えていない」という人もいました。そのあたりの意識の差が浮き彫りになってきたように思います。メイクには、自分の気持ちを上げる作用もありますよね。その価値について改めて考えさせられました。

豊田:
資生堂も含め、化粧品業界全体の売上金額だけを見るならば、COVID-19の影響を大きく受けている状況だと思います。ただその中でも生活者の方々の化粧品に対する新しいニーズが生まれていると感じています。最近私がお話をうかがった男性の行動変容の例をあげると、人と会う機会が減ったからヘアスタイリング剤をあまり使わなくなった反面、マスクで肌が荒れてきたり、リラックスしたい気持ちも高まってきたので、スキンケアはちょっといいものを使うようになったり時間をかけたりするようになったそうです。コロナ禍になってから自分を魅せるという意識よりも自分をケアするという意識の方が高まったとおっしゃっていました。このような数字には出ない部分のお客さまの軸足の変化も、感知していかないといけないと感じています。

生活者と研究員が生みだす、美のイノベーション


――最後に、みなさんの今後の抱負についてお聞かせください。

樋口:
研究員にとって、「美活ジム」が“新たな気づきを得られるモノづくりの場”になることを目指していきたいと思っています。研究員側の視点だけに寄るのではなく、生活者の方々との対話や事業部とのディスカッションから生まれる気づきを通して、新しいものがどんどん生まれるサイクルを回していけたら。「美活ジム」がそのツールになれたらいいですね。

旭:
私も「with consumers」というタイトルをわざわざ掲げなくとも、研究員と生活者の方々がごく自然にコミュニケーションを取りながら開発をしていく。そんな状態を当たり前化したいですね。

「ビューティーイノベーションをおこそう」と企業側だけで盛り上がっても、本当の意味で社会を動かすイノベーションは起こせないと考えています。生活者の方々との距離を縮め、その声を拾いながら新しい広がり方を一緒に考え、総合的な価値を作っていかなければならない。S/PARKとfibonaを上手く活用しながら、その理想を目指していけたらと思います。

豊田:
fibonaがスタートして3年目になります。コロナ禍だからこその不利もたくさんありましたが、ネガティブなことばかりではなかった。オンラインを活用できるようになったことで、僕たちの選択肢の幅がすごく広がりましたし、今後はオンラインとオフラインの良さを組み合わせる試みもさらに進めていきたいですね。

これまでは“研究所の中のfibona”でしたが、もう少し開いた取り組みにしていきたいと思っています。お客さま、マーケター、研究員、ブランド担当者がそれぞれに上手く交わり、ひとつのチームとなってアイデアを考えていける。そんな仕組みを作っていけたらと思っています。

Project

Co-creation with consumers

「S/PARK Studio」などのS/PARKの施設やコンテンツを活用し、商品体験や使用後のフィードバックなどを研究員と生活者が直接コミュニケーションすることで、生活者視点の商品・ソリューションを開発します。

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