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“多様な知と人の融合”が起こる土壌を耕し続ける、研究所発のCultivation活動

2022.03.7

2019年に始動したオープンイノベーションプログラム「fibona」。ビューティーに関わる多様な知と人を融合させることで、イノベーションが生まれる土壌をつくる役割を担ってきたのが、Cultivationの取り組みだ。

Cultivationの取り組みを推進するメンバーは、この取り組みに立ち上げから携わるR&D戦略部の古賀由希子、基礎研究部門での皮膚の構造研究と並行しながら外部との共創に魅力を感じてfibonaに志願した星野拓馬、2020年の入社後すぐにfibona参画に名乗りを挙げ、普段は化粧品の外装開発業務に取り組む鈴木敬和の3人だ。

まったく異なる部署に所属しながらfibonaを通じてつながった3人に、Cultivationの取り組みと果たしてきた役割について聞いた。

左から古賀由希子、星野拓馬、鈴木敬和

「外とつながる場」としてのfibonaの魅力


──みなさんの普段の業務と、Cultivationの推進に携わるまでの経緯について教えてください。

古賀:
私は2019年にfibonaが誕生した際に、Cultivationの取り組みの立ち上げを担当しました。普段は研究戦略にまつわる仕事をしていますが、その中ではお客さまニーズの把握や、外部と連携しながら価値創出を加速するための技術探索や技術スカウティングなども担当しています。

S/PARKができるタイミングで資生堂に中途入社したので、今年でちょうど3年目です。以前は電機メーカーでお客さまのニーズを探る活動や、新規事業を創出するために外部の方々のインサイトを得ながら共創の環境を作るなどの取組みを担当してきた経験もあります。

星野:
私は大学時代にシミュレーションや数理モデルを通して「生命現象とは何か?」といったことを問う研究をやっていて、化学の分野で博士号を取りました。資生堂に入社したのは2019年です。現在は、基礎研究部門でお客さまの肌特徴を調べる研究をしています。

fibonaの存在を知ったのは、入社した年の夏でした。まだ右も左も分からない新入社員だったのですが、fibona立ち上げの案内をメールで見たときに「あ、これは面白いものが始まりそうだ」と直感的にビビッと来たんですね。その後、何度かfibonaのイベントに参加するうちに「企画する側に回らないか」と声をかけられました。基礎研究を中から見るのと同時に、外にアンテナを張っていきたい気持ちがありましたから、社外の人と一緒にイベントを行える点にすごく興味を感じました。

鈴木:
私は2020年の入社後、化粧品のパッケージを開発する部署に配属されました。商品企画の段階から携わるため、開発が進んでいく中で社内外のさまざまな人たちとお仕事をする機会が多かったんです。それもあって積極的に外に開き、社内にないアイデアとつながっていくfibonaの活動に関心を持ち、Cultivationの企画運営に参加しました。

「探究・内省・伝承」3本柱の取り組み


──fibonaにおいてCultivationの取り組みはどのような役割を果たしているのでしょうか。

古賀:
最大の役割は、ビューティー分野に関連する多様な異業種の方々と資生堂の研究員やスタッフが出会っていく場をつくることです。これまでの資生堂にはなかった知識、経験、マインドを融合することで、イノベーションや新しいアイデアへの情熱を育む風土づくりに取り組むことがミッションです。

Cultivationの取り組みの中で推進している施策は、主に3つあります。ひとつは「Around Beauty Meetup」。毎回異なるテーマを設定し、ゲストをお招きしてプレゼンやパネルセッションを行うという学びの時間と、社内外の参加者同士が話し合って気づきをシェアする時間を組み合わせた、“探究型”のイベントです。2、3カ月に1回ほどのペースで、オンラインも含めてこれまで11回のイベントを開催してきました。お招きするゲストは、等身大で頑張っていらっしゃる方が多いですね。ゲストを選ぶ際には、社員や外部からの参加者の皆さんが共感しやすい部分がある方を設定することを意識しています。

鈴木:
私が最初にCultivationのメンバーとして関わった「Around Beauty Meetup」は、8回目にヤッホーブルーイングの仮屋さんをお招きして実施した、ファンの熱狂を生むコミュニケーションや組織をテーマとする回でした。普段の業務ではまったく気づかない視点、聞けないお話、いろんなアイデアがどんどん展開して企画運営側として興奮したことがすごく印象に残っていますね。

Around Beauty Meetup#8は、ファンの熱狂を生むコミュニケーションや組織をテーマに開催した

古賀:
「Around Beauty Meetup」は、Cultivationの取り組みのフラッグシップ的な位置づけにあるイベントです。参加者は社内外から最大100名を超えることもあり、施策の中では最も大きい規模ですね。

──fibonaが外へ向かって開いている一番大きな入口ともいえそうですね。では2つめの施策は何でしょうか?

古賀:
研究や研究所の抱える課題やイニシアチブへの思考を深めていくために、有識者と研究所のリーダーがセッションすることで今後のアプローチを考えるきっかけとする「Side Story」という取り組みです。こちらは“内省型”の内容となっています。

そして3つめは、つい最近実験的に立ち上げた「DNA talk」というセッションです。自分のビジョンと高い専門性・推進力を持って資生堂の研究をリードしている研究員が、仕事観や興味を対話によって参加者と共有する、“伝承型”の少人数イベントです。こちらは星野が企画してβ版として開催し、効果を把握しながら今後に向けてブラッシュアップしているところです。

──いずれもコンセプトがはっきりしていますね。あらためて、そもそもこれらの取り組みの名称を「Cultivation」にした理由は?

古賀:
「Cultivation」は栽培・培養を意味します。土壌をしっかり耕し、そこに種が蒔かれれば、良い芽がどんどん出てくるはずです。そうした気持ちを込めて名づけました。3つの活動それぞれで大事にしていることは異なるのですが、Cultivationの一番大きな取組みである「Around Beauty Meetup」で忘れないようにしているキーワードは「等身大」と「インタラクティブ」です。単に受け身で講演を聞くのではなく、ゲストの情熱に触れて、自分の意見を口に出していける、アイデアや情熱が刺激される場づくりを意識しています。

星野:
「Around Beauty Meetup」は、等身大とインタラクティブのバランスを重視することによって、自分たちの研究や日々の活動に落とし込める視点を見つけていきます。「Side Story」は、それより一段高い視座から語ることで包括的な課題解決の道筋を探っていく。そして「DNA talk」は、インタラクティブの枠をさらに広げて少人数でとことん話せるようにしています。それぞれに特色を持たせつつCultivationの取り組みを進めています。

鈴木:
やっぱり熱量って伝播するんです。誰かの情熱に刺激を受けて、思ったことを口に出すと、情熱の火ってどんどん伝わっていくんですよ。そこからいろんな展開につながっていきますし、イノベーションを目指す上ではとても大事なことだと思っています。

オンラインで「二次会」のように興味を共有できる場を作り出す


──実験版が始まった「DNA talk」についてもう少し教えてもらえますか。

星野:
私がCultivationチーム加入前、一人の参加者として「Around Beauty Meetup」に出席していいなと思ったのは、イベントが終わった後もみんなでワイワイ話し合える場があったことです。ところがコロナ禍によってオンサイトでの企画が難しくなりオンライン開催に切り替わると、そういった懇親の場をつくることがどうしても難しくなってしまった。時間を区切るとそれ以上は続けにくいし、オンラインで少人数のグループに分かれて議論しても実際に会ったときのようにじっくりとは話し込めない。

でも本当は「もっとこの人の話を聞きたい」「新しい人とつながりたい」と考えている人が参加者の中にもいるはずなんですね。自分もそうですが、特に研究者は自分の研究領域にまつわる多様な声を知りたいという欲求を持っています。

オンサイトで実施したAround Beauty Meetupでは、参加者同士のコミュニケーションも活発に交わされていた

星野:
ならば「Around Beauty meetup」の研究所内バージョンのような形で参加人数を10人程度に絞り込み、お互いにじっくり話せる会をつくろう、と思ったのが「DNA talk」のきっかけです。普段の仕事ではなかなか話せない人とじっくり時間をかけ、それぞれのバックグラウンドを共有して、腹を割って話し合う。飲み会の二次会のような雰囲気に最速で持っていくイメージです。オンラインであってもそういう場があれば、思いがけないアイデアがスパークしてイノベーションが生まれる。そんな展開を期待しています。

鈴木:
オンラインでも二次会まで用意してみると、「みんなもっと話したいことがあるのだな」と感じますよね。僕も自分が企画を担当した第8回の「Around Beauty Meetup」でそれを実感しました。オンラインの中でどうすれば話しやすい場をつくれるかは、まだまだトライの余地がたくさんあると思っています。

星野:
基礎研究部門にいると、自分が今やっている研究は外にはなかなか出せません。同じ部門の人や直属のマネージャーはもちろん内容を知っていますが、研究者はもっといろんな人の声や研究のターゲットに近いお客さまなど、多様な反応を聞きたいんです。特に、外に出づらい状態が続いて悶々としたコロナ禍においては、そんな風に安心して話せる場、多様な声を聞ける場がかなり減ってしまいました。そこをフォローするための場として、今後「DNA talk」をブラッシュアップしながら取り組んでいけたらと思っています。

古賀:
最初は星野も鈴木も参加者側でしたが、途中から企画側に巻き込まれてくれたんです。そして実は今年、この2名以外にも沢山の研究員が企画側への参画に手を挙げてくれています。fibonaに巻き込まれ主体的に関わることによって、企画力・実行力が身についていく。この過程自体がCultivationだな、と私はうれしく感じています。

「Around Beauty Meetup」でご登壇いただいたゲストの中には、その後に自治体を通じたご縁も重なり実証実験を進めているケース(Around Beauty Meetup#1 エーテンラボ株式会社 長坂さん)や、S/PARKのレストランイベントでのコラボレーションに繋がった例(Around Beauty Meetup#4 ソムリエ 塚越さん)などもあります。Cultivationの取り組みも3年目に突入しましたが、これまでに蒔いた種が芽吹き始めてきたなとも感じますね。

多様なメンバーによる、化学反応を起こす場づくりの挑戦


──最後に、みなさんのfibonaを通じて達成したい目標や展望についてお聞かせください。

星野:
これは自分の研究でも、fibonaで仕掛けていく施策でも同じですが、予想を超えた化学反応がバチバチ起こるような場づくりをしていきたいです。予定調和でまとまるのではなく、さらに一歩超越した風景を見てみたい。それをまた次の研究や施策にフィードバックしていけたら理想的ですね。

鈴木:
私はCultivationの企画運営メンバーになってようやく2周目くらいのタイミングですから、ここからはさらに種を蒔いて畑を広げていきたい。fibonaでの学びや得たチャンスをしっかり掴んで、普段の業務でも新しいチャレンジをしていきたいなと思っています。

古賀:
fibonaの活動は組織の枠を超え多様性を広げていくことを重視していますが、その視点に立ち戻ると、そもそもCultivationの施策を普段の仕事では関わることのないダイバーシティのあるこのメンバー3人でしっかり話し合いながら、同じゴールを目指してここまでやってこられたことに大きな意味があると感じています。

そのうえで今後は、変わらないところと、変えるべきところがあると思っています。いろんな種を蒔いたこの先、どう未来につなげていくのか。同じ肥料をあげても育たない畑はどうすればいいのか。それぞれが課題に向き合いながら実行力をつけ、新しいチャレンジを続けていけたらいいですね。そのための仕掛けを今後もさまざまな形で続けていくつもりです。


(text: Hanae Abe edit: Kaori Sasagawa)

Project

Cultivation

ビューティー分野に関連する異業種の方々と資生堂研究員とのミートアップを開催し、美に関する多様な知と人を融合し、イノベーションを生み出す研究員の熱意やアイディアを 刺激する風土を作ります。

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