FEATURE: S/PARK Museum
MUSEUM展示「サステナブルビューティーガーデン」を振り返って【フラワーサイクリスト 河島春佳さん×資生堂 蔵内健太郎】
S/PARK Museum内、Future Zoneにて展示が行われた「Sustainable Beauty Garden(サステナブルビューティーガーデン)」。直径3m以上のフラワードームをはじめとした、廃棄予定の花材を再利用した装飾が2020年2月から4月までの3ヶ月間展示された。
新型コロナウィルス感染症の影響によりS/PARKが一時休館していたため、残念ながら一般の方にご覧頂けるのは2月中の1ヶ月間になってしまったが、その制作の背景や展示に込められた想いを探るべく、今回コラボレーションしたフラワーサイクリストの河島春佳さんと、当展示のプロデューサーを担当した資生堂HQ社会価値創造本部の蔵内健太郎に話を聞いた。
「このサステナブルビューティーガーデンを通じて一番伝えたかったことは、花の業界の中で“規格外”と呼ばれるものであったり、結婚式で使い終わったものなど、まだまだ綺麗なのに廃棄されてしまう花がたくさんあるということ。そしてそういった花には、こうして循環させられる方法があるんです」
そう話す河島さんは、花の廃棄問題解決に向けた活動を行うフラワーサイクリスト。生花店や式場などでまだ美しいまま廃棄されてしまう花を「ロスフラワー」と名付け、そうしたロスフラワーをドライフラワーにしてディスプレイなどによみがえらせ、命を吹き込むサステナブルな活動に取り組んでいる。
今回「サステナブルビューティーガーデン」の中央に鎮座した直径3mにも渡るフラワードームには、約1万5000本のうち8割以上が「ロスフラワー」が使用された。
「定期的に農家さんから規格外の花を買取り、アトリエに送っていただいているのですが、今回の展示でもそれらの花を多く使用しています。たとえば形が崩れてしまっているものはもちろん、一部茶色くなってしまっていても、花の頭の部分だけであったり、花弁だけを分解して使うなどの工夫もしています。今回使用した花は、まず展示が終了して撤収に来てくれたメンバーにお礼としてプレゼントしました。残りは私たちのアトリエに持ち帰り、また別のところで装飾する際に使用させていただいたり、ワークショップの材料にさせていただいたりします」と教えてくれた。
また会場内にはロスフラワーの装飾と共に、様々なパネルや動画、タブレットを利用して行うアクティビティなどが設置された。「綺麗な空間の中で『サステナブル』という言葉について考えてもらうということが、今回の展示の大きなポイントとしてありました。同時に、『資生堂が会社としてやっていることってなんだろう?』ということについてもっと知っていただける機会にもなるのかなと思い、いろんな仕掛けを施しました」と、話すのは資生堂の蔵内。
フラワードームの中に隠されたリボンにタブレットをかざすと資生堂のサステナブルビューティーに関する取り組みを見ることができたり、子供が楽しめる「ぬりえコーナー」や華やかに装飾されたフォトスポット、オリジナル待ち受けのプレゼントといったコンテンツも準備された。
こうした今回の企画内容について蔵内は、「わかりづらいものをいかにわかりやすくお伝えできるか、ということに気を配りました。それから、より美しくサステナブルな世の中を尊重していくためには、ちらりとでもいいのでよりたくさんの人たちに、こういった内容の発信に触れてもらう機会をいかにたくさん持つか、ということが大事だと思っています。そういったことの積み重ねが、いずれ大きな実となるイメージを持っています。そのために今回は河島さんの力もお借りしながら、楽しくて綺麗な場づくりをし、資生堂として皆さんに知っていただきたい情報をその空間に置かせてもらいました」と語った。
河島さんも続いて、「サステナブル、エシカル、SDGsといった言葉を皆さん意識されているかと思います。でももし、『関心はあるけどどうすればいいのかわからない』と言うなら、私はまずは楽しんでやるのが一番いいのかなと思っています」と、アドバイス。「例えば、最近はゴミ問題がよくピックアップされていますよね。じゃあ、生活の中で出てしまう生ゴミをコンポストにして、それを堆肥にして……それを使って植物を育ててみる。そういったことを楽しんでやれる人がたくさんいるのが、サステナブルな循環型社会なのかなと思うんです」と話す。義務付けてやるというよりも、楽しむことが一番長続きするポイントなのではないかと感じるのだそう。
「それから、“全部”は無理だと思うんです。ロスやゴミをゼロにすることは難しいのですが、でも、そういった問題や気になることをひとつずつクリアしていく。自分の中でゲームのような感覚を持って取り組んでもいいと思いますし、そうやって楽しむことでだんだん身について、それがどんどん当たり前になっていけばいいですよね」
河島さんのフラワーサイクリストとしての活動自体も、色とりどりな花とその花が持つストーリーを見たり知ったりして、楽しみながらその背景にある花の廃棄問題に目を向けてもらうというものだ。「楽しみながら見てもらって、抱えている問題を知ってもらう。その上で、『自分できることってなんだろう?』という発想につながればいいなと思います」と河島さん。
今回の展示にはもうひとつ、“裏”に込められた想いがあったと話すのは蔵内。「もうひとつ大切なのが『アップサイクル』という考え方を持つことだと思っています。アップサイクルというのは、単に『その物の値段を上げる』などということではなく、それを手に取る人たちにとってまた新たな価値を生み出しながら、循環させていくこと」。資生堂の活動の中でも考えていることであり、自身の日々の生活の中でももっと考えていきたいことだと言う。
「『サステナブル』というキーワードともすごくリンクしていくところがあります。実はこの「アップサイクル」も、今回のサステナブルビューティーガーデンを通じて皆さんに受け取っていただきたいメッセージだったりするんです」と明かしてくれた。
「廃棄を減らす」、「消費量を抑える」などといった、どこか後ろ向きな話ではなく、気持ちの面でも楽しく、ポジティブに取り組み、循環させていくことで、サステナブルな結果に繋げていくことが大切だと話す河島さんと蔵内。そんな二人が持つ想いが重なって形となり、今回の「サステナブルビューティーガーデン」が生まれた。
「新たな価値を付け加えて、提供していって、循環させていくというところがすごく大事です。今回の展示のために集められたロスフラワーもいろんな街から集められたもので、それぞれ異なるストーリーを持つ花たち。そこに、さらに今回の展示で利用されたというストーリーが加わって、また新たな人の手に渡っていく。そういうようなことを、今後もより、継続させていきたいですね」と、蔵内が締め括った。
株式会社RIN 代表
フラワーサイクリスト
河島春佳(かわしま・はるか)さん
https://lossflower.com/
長野県生まれ。大自然の中で幼少期を過ごし自然を愛するようになる。東京家政大学服飾美術学科卒業。2017年 生花店での短期アルバイト時に、廃棄になる花の多さにショックをうけたことから、独学でドライフラワーづくりを学び、フラワーサイクリストとしての活動を始める。2018年クラウドファンディングで資金を集めパリへの花留学を実現し、2019年ロスフラワーを用いた店舗デザインや、装花装飾 を行う株式会社RIN を立ち上げる。2020年花農家と消費者の架け橋として開設したオンラインショップ『フラワーサイクルマルシェ』は、農林水産省HPでも紹介。
Instagram: @haruka.kawashima