FEATURE: S/PARK

資生堂S/PARKラボ
純粋レチノールの開発拠点に潜入!

日々、多くの美とひらめきが行き交い、新たな技術が生まれる資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)では、どのような研究者たちによって、どんな研究が行われているのだろうか。普段なかなか知ることのできない研究開発の裏側を、実際にはたらく研究員とともにラボを巡りながら探ってゆく。

化粧品成分として、ここ数年で注目される機会が増えているレチノール。30年以上前から研究を続けてきた資生堂は、2017年にレチノール類として、日本で唯一シワを改善する薬用有効成分として「純粋レチノール」の認可を取得した。
純粋レチノールについて詳しくはこちらをご覧ください

今回は、2009年よりレチノール研究に携わり、「純粋レチノール」のエキスパートとして知られる研究員の大田正弘さんと一緒に研究開発の拠点となるS/PARKのラボエリアを回り、レチノール研究の難しさやその技術の革新性について教えてもらった。

まず最初に訪れたのは、培養実験室。ここでは細胞レベルでレチノールがヒトの皮膚に対してどのように作用して、シワを改善しているのかという作用機序を検証する実験をしている。直接レチノールを肌に塗っても肌のなかで起きている現象をみることは難しいが、ヒトの皮膚を構成する細胞レベルでみることで、皮膚のなかの変化を捉えることができる。例えば、純粋レチノールを与えるとどのくらい細胞からヒアルロン酸が産生されているのかなど比較検証していくことができるのだ。

「厚生労働省の薬事審査では、細胞レベルでの作用機序(有効成分が生体にどのように作用して効果を発揮しているのか)を説明するだけでなく、ヒトでの効果を検証する必要があります。そのために実際にヒトの肌に塗布した時に、どのくらいの期間でどの程度シワが改善するのかデータを積み重ねてきました。測定機器による数値解析やヒトの目視によるシワの程度の変化を観察するなど、これまでにのべ5000例は下らないシワ部位の状態を観察してきました。単なる保湿剤とは異なる効力を示しながら、医薬部外品として適切な効能を認めてもらうことが必要でした」と大田さんは振り返る。

次に案内してもらったのは、ヒト試験室。一見よくある会議室のように見えるが、この部屋の特徴は温度や湿度をコントロールすることで、一年中適切な環境下で人の肌を測定することができるということ。以前からヒト試験自体は行われていたが、S/PARKで研究を行うようになってからは、このような恒温恒湿室の規模が格段に拡張され、最新設備へのグレードアップにより、充実した試験環境が整ったという。

「シワだけでなく、皮膚の中の水分量や皮膚から蒸散している水分量、皮膚表面のキメの測定などの試験では、温度や湿度といった環境の変化によって結果が著しく変わってきます。製品の効果試験の場合、製品を使用する前と使用直後、さらに数週間後というように、長期間にわたる場合は特に一定の環境下で測定することが重要になります。昨今のヒト試験室が優れているのは、試験に応じた環境設定が自在にでき、常に温度と湿度が記録されているという点。そうすることで毎回の試験環境の精度が保たれ、測定精度の向上にもつながっています。S/PARKには、同じような部屋(恒温恒湿室)がいくつかあるので、ヒトでの効果について確かな検証環境のもと、質の高い研究を日々行うことが可能なのです」

ここで登場したのは、《PRIMOS(プリモス)》というシワを高い解像度で3D計測できる測定機器。今回はこの測定機器を使って、広報担当の鈴木翔子さんとともに実際の目尻のシワを見てみることに。通常のヒト試験と同じように、メイクを落として洗顔したのち、一定の温度・湿度の環境下で一定時間肌を馴らしてからシワを測定した。

撮影された画像はすぐにモニターで確認することができ、試験品を塗布する前との比較やさまざまな成分の連用試験で撮影されたデータと照らし合わせて比較する。この測定機器では、目尻部分の皮膚の凹凸をマイクロメートルオーダー(1mmの1,000分の1が1μm(マイクロメートル)に相当)で検出することができる。画像中で、モニターの中に緑色で浮かび上がる部分は、目視では捉えることが困難なレベルのシワが、高精度に検出されている様子である。

検出された画像データをコンピューターで解析することで、シワの面積・体積、シワの深さなど様々な要素を数値化でき、有効成分である純粋レチノールが入っている試験品と入っていない試験品を比較して、どのくらいの改善効果があるのか客観的に検証できる。

純粋レチノールの効果の検証は、こういった測定機器による目に見えないレベルの肌の変化に加えて、実際に研究協力者のシワの状態を目視で観察したり、高精細なカメラによる外観写真から変化を捉えるなど、ありとあらゆる方法と比較項目で繰り返されてきた。最後に、純粋レチノールの承認までの道のりを改めて大田さんに振り返ってもらった。

「資生堂ではレチノールの研究開発について1980年代から取り組んできました。当時から常に最新の測定・分析方法を採り入れながら、シワの実態や要因の解明、薬剤の効果検証に取り組んでおり、認可を申請する前段階では有効性だけでなく、安全性、安定性、規格設定と製品を保証するための取り組みに膨大なマンパワーと時間をかけてきました。なかなか審査が進展しない時期もありました。しかし、厚労省の厳しい審査基準をクリアすべく、データ取得を積み重ね、長い年月をかけて2017年にようやく認可が下りて、実際にお客さまのお手元にこの技術を届けられるようになりました」

大田さんによる純粋レチノール開発拠点のガイドはここまで。次回は製剤開発を担当する田中静麿さんにバトンを渡し、リアルな研究員の一日の過ごし方から純粋レチノールを用いた商品ができるまでの過程を紹介する。そちらもぜひお楽しみに。