FEATURE: S/PARK
S/PARKではたらく研究員の一日 〜田中静麿さん編〜
資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)にある研究施設や、そこではたらく研究員にフォーカスを当てたスペシャル企画の第三弾が公開。前回に続き、レチノール研究に携わる研究員の一日にフォーカスをあてて、S/PARKの最新テクノロジーや知見を駆使した製品開発の裏側に迫ってゆく。
資生堂の30年以上にわたる研究の結果、厚生労働省からレチノール類として、日本で唯一シワを改善する薬用有効成分として認可を受けた「純粋レチノール」。熱、光、酸素に対して弱く、分解されずに化粧品に配合するのが難しい成分とも言われている。繊細でありながら、抜群な肌への効果を持つこの成分を、安定して生活者のもとへ届けるためには、どのような工夫が必要なのだろうか。
今回は、乳液やクリームといった乳化物の製品開発を長年担当する、研究員の田中静麿さんのとある一日に密着し、繊細な「純粋レチノール」を守り抜き、アクティブな状態でお客さまの肌へ確実に届けてゆくためのポイントについて教えてもらった。
11:00 乳化作業
普段は、だいたい9時ごろに出勤するという田中さん。まず最初に行うのは、メールの確認やその日に行うタスクの整理。そのあとは試作品作りにとりかかる。この日は乳化作業の様子を見せてもらった。
乳化とは、本来混ざり合うことのない水と油を界面活性剤で混ざり合うようにするというもの。クリームや乳液、リキッドファンデーション、ヘアコンディショナーなどの化粧品には、保湿剤のように水に溶ける成分と油分とを同時に配合することが求められることから、乳化は欠かすことのできない技術となっている。
資生堂の乳化技術の強みについて田中さんに聞くと、「資生堂は、お客様の好みに合わせて様々なテクスチャーを実現でき、多くの薬剤を安定して配合できる処方バリエーションの多さが強みです。例えば、繊細なレチノールを守るために、特別な油分でレチノールを包み込み、酸素に触れないような特殊な処方を採用しています」と教えてくれた。
14:00 イエロールームで充填作業
お昼休憩を挟んでから向かったのは、特殊な黄色い光で満たされた通称・イエロールーム。ここは「純粋レチノール」を守るために、レチノールの劣化を促進させない黄色の波長の光を多く取り入れた空間になっている。
光だけでなく、酸素にも弱い「純粋レチノール」は、グローブボックスと呼ばれる酸素濃度を低く設定することができる特殊な機器を用いて製造・充填作業が行われている。側面の扉から容器と薬剤を入れたら、正面に取り付けられたグローブ(手袋)越しに作業を行う。手元の様子はガラス越しに確認することができ、酸素ができるだけ少ない環境作りを徹底することで、レチノールの酸化による劣化を抑制し、安定した製品開発を実現している。
16:00 チームメンバーと共に官能評価
ここからは、チームメンバーと共に試作品の官能評価と呼ばれる試作品チェックを行う。異物混入などがないというのはもちろん、わざと過酷な環境下にさらし、負荷をかけた試作品でも匂いやテクスチャーに変化なく安心して使用することができるかなど、さまざまな観点で評価をしてゆく。
なかでもこだわりはテクスチャーだという。「中味の開発に携わっているからこそ、テクスチャーの確認は重点的に行います。それだけでなく、おおよそ10パターンほどの環境下で保管した試作品を比較して、厳しい条件でも分離など起こさず、化粧品として成り立っているのか、変色や変臭などがみられないかなど、細かくチェックしています」と田中さん。
ディスカッションは、レチノールのために作られた特殊容器の話題へ。通常のチューブはスポイトのような原理で、容器の外から中へ空気を吸い上げることができるものが一般的だが、酸素に弱いレチノールにとっては劣化を進めてしまう要因となってしまう。そこで作られたのが、内側からクリームを出すことができつつ、外側から酸素が侵入することを防ぐこともできる特殊な容器である。さらには完全遮光により、光による劣化も防いでくれる。
今回、田中さんの一日を追うなかで研究の柱となっていたのは、光や酸素に弱い「純粋レチノール」を守るために開発された技術の数々。「Shiseido Retinol TripleLock Technology」と呼ばれる、資生堂が独自に開発した処方・製造・容器の3つの技術でしっかりとレチノールの高い効果を守り、安定してお客さまのもとへ届けるための研究が日々行われているのだ。
(「Shiseido Retinol TripleLock Technology」について詳しくはこちらをご覧ください)
そうして完成までたどり着いたレチノール製品の一つに、「エリクシール レチノパワーリンクルクリーム(医薬部外品)」がある。最後に、これまでのリンクルクリームと比べてよりパワーアップした魅力について教えてもらった。
「とくにこだわったのは、“ふっくらとしたハリ感”をもたらすテクスチャーです。機能性だけでなく、お客さまに満足して使い続けてもらうためにもとくにこだわりました。
そのテクスチャーを実現するために必要な原料とレチノールとの相性を解明するところからスタートし、試行錯誤をして完成しました。さらに、ふっくらとしたハリ感に効く成分には、硬くなりがちな角層を柔らかなうるおいで満たす効果があることも発見できました。完成した新しいリンクルクリームをぜひ試していただけたら嬉しいです」
S/PARKで生まれた美のひらめきをお客さまへと届ける過程を追ったスペシャルシリーズは本記事で最終回。普段なかなか見ることのできない研究設備や、研究員の姿をのぞくことで、新たな発見や想像力の刺激につながったのではないだろうか。また、今後もS/PARKを通して資生堂の技術をご紹介してゆくので、どうぞお楽しみに。