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スタートアップとの共創を加速させるには? fibonaの若手研究員が向き合う“美のイノベーション”

2020.05.21

資生堂と“外部の知と人の融合”によってオープンイノベーションを起こす「fibona(フィボナ)」。横浜・みなとみらいに誕生した資生堂の研究開発拠点「資生堂グローバルイノベーションセンター(GIC)」のもとで、2019年7月に発足した。

fibonaでは活動の柱のひとつである「Co-Creation with Startups(スタートアップとの協働)」によって、新たな“美のイノベーション”が生まれている。

fibonaメンバーの若手研究員によるオンライン対談を実施。当初からプロジェクトを担当する大南武尊、fibonaの活動に刺激を受けて手を上げた星野拓馬が、専門の研究領域を超えてスタートアップと共創する意義や、価値観の変化を本音で語った。

2020年、人々の行動や生活環境が大きく変化するなか、私たちの働き方や美に対する意識はどう変容していくのだろうか。fibonaの現在地とこれからを展望する。

資生堂グローバルイノベーションセンターの星野拓馬(左)、大南武尊(右)

研究員の二人が、fibonaに参画した経緯を教えてください。


大南:
私は2018年の入社以来、機械学習やデータ分析、画像処理を専門とする研究員として働いています。資生堂の持つ美に関する知見をいかし、新しいサービスやアプリケーションの開発に取り組んでいます。fibonaには、入社1年目の終わりに上司から打診されて携わることになりました。

星野:
私は学生時代から、皮膚に薬やクリームがどう浸透するのかをシミュレーションする基礎研究に取り組んできました。2019年の入社後は、基礎研究の部門で皮膚の外部・内部構造などを研究しています。

fibonaに参加したきっかけは、入社して3カ月頃にあったキックオフ・イベントです。専門分野ばかりに目が向きがちなので、外にアンテナを張って社内外の情報に触れておきたいと、常々思っていたところでした。スタートアップの方々と接することで、これからの研究に役立つテクノロジーや取り組みに出会えるかも知れないという興味もありました。

キックオフ・イベントではスタートアップを招きパネルディスカッションを開催。右から2番目が大南

本格的に関わるようになったのは、「Pitch Tokyo」というトークイベントを、テクノロジー大国イスラエルの情報を提供する「Aniwo」と共同開催したところから。デジタルヘルスやビューティーテックのキーパーソンが一同に介し、白熱したディスカッションが展開されました。学生時代にイスラエルに留学した経験があり、最新テクノロジーの凄さについてよく知っていたので、企画した大南さんと実現に向けて奔走しましたね。

2020年1月に開催した「起業大国イスラエルで急成長するデジタルヘルスとBeautyTech」

fibonaが1周年を迎えます。1年を振り返って、印象的な取り組みは?


大南:
スタートアップを公募し共創を目指す共創プログラムの選考に関わったことと、選考後に協業する座組みを考えたことです。fibonaチームで社内のさまざまな人を巻き込みながら応募企業から最終選考の5社を選定するプロセスを1カ月でやりきったことはこれまでにない経験でしたね。迅速にものごとを決める判断力や、そもそもの判断基準を考える力などが求められました。

fibonaでの取り組みには、普段の研究仕事とはまったく違う考え方と行動が必要です。いち研究員がなかなか踏み込むことのできない会社全体の経営戦略の一端に触れることができ、目線が上がったと感じています。

5社のスタートアップ企業がプレゼンテーションを実施した「fibona Pitch Stage」

星野:
社内外のイノベーターが集まり、美にまつわるトークをして交流する「Around Beauty Meetup」に研究員として参加したことが特に印象的でした。

毎回テーマがとても興味深いんです。第1回は、テクノロジーが人間の行動や習慣にもたらす影響について語る「Tech × 習慣で実現する Beauty の世界」。第4回は、嗅覚や味覚、聴覚といった五感が美にどのように影響するかをトークする「マリアージュを通じて体験価値を探る」でした。これまでの研究とは異なる視点を得られて、とても刺激的でした。

第4回はゲストトークとともに食事とドリンクの「ペアリング」を体験

共創プログラムでは、3社のスタートアップが採択されました。どのような視点で企業と向き合い、協業を進めているのでしょうか。


大南:
3Dスキャニングの量産技術を持つ「デジタルアルティザン」とは、同社のセンシング技術を組み合わせて新たな研究開発をはじめたところです。また、ユーザーの尿からパーソナル栄養検査・改善サービスを提供する「ユカシカド」とは、栄養素と美容の相関関係について一緒に研究しています。IoTシューズの「no new folk studio」とは、美容と歩容の研究をスタートしました。

3Dスキャナー技術を持つ「デジタルアルティザン」のプレゼンテーション

共に創るアウトプットを見据えて様々な基準を仕組みとして設けてはいるのですが、私自身としては、スタートアップと協働する際は、まず直感で面白そうと思える会社かどうかも大切にしています。思いもよらない驚きがあるか、未来をつくる可能性にワクワクできるかを期待しています。

それから資生堂のビジネスからかけ離れたサービスを展開していること。せっかく志のあるスタートアップの方々と協働するわけですから、これまで手掛けてきたサービスの範疇にあるプロジェクトになってはもったいないと感じています。

私個人の意見ですが、イノベーションが起こる根幹は(Apple共同創業者)スティーブ・ジョブズのいう「Connecting the dots(点と点を繋げる)」だと思っています。関係のないこと同士を繋ぎ合わせるからこそ、新しい概念が生まれたり、パラダイムシフトを起こすことができると思います。

そして、何よりも大切なのは、ビジネスにどれだけ心血を注ぎ、真剣に取り組んでいるのか。経営ボードのみなさんの熱量には特に着目しています。

採択されたスタートアップの経営者のみなさんと資生堂メンバー

プロジェクトを進めるうえで心がけたことは?


大南:
自社、スタートアップの方々、取引先、そして社会……と関わるすべての方にメリットがあるようバランスをとることですね。

資生堂が長年大切にしてきたのは、パートナー企業のみなさんと対等であるということ。スタートアップの方々に技術や知恵を提供してもらって、資生堂だけに利益が生まれるような座組みには絶対にしたくありませんでした。

一方で、資生堂に利益をもたらさないプロジェクトでは長続きしません。片方がギブしすぎることなく、対等に「ギブ&テイク」し合える関係を維持することを大切にしていました。

プロジェクトを進めるなかで、ときにはチームの方向性と自社の戦略が食い違うこともありました。けれど諦めずに正しいと思うことはしっかり伝え、丁寧に説得したことで会社ことを深く知ることができましたし、社内の仲間も増え、調整力も身につきました。

fibonaに参画したことで、研究員としての視野は広がりましたか。


大南:
人脈とチャネルが大きく広がりました。いつもと違うコミュニティに一歩踏み出すことで新しい出会いが生まれ、そこで出会った方にまた新しい方を紹介していただくことで人間関係が広がっていく。そんな風に、今までにない「人間関係の地図」が勢いよく広がっていく豊かな体験をすることができました。

星野:
私もたくさんインスパイアされました。fibonaのメンバーになったことで、「美とは、化粧品を肌に浸透させて、皮膚を美しくさせることばかりではない」という本質的なことに気づきました。fibonaでの経験は、研究で新しいアイデアを得るために必要な視点をもたらしてくれると思います。

fibonaでは何よりスピードを大切にしたいですね。私の場合、皮膚に関する自分の研究がすぐに製品化されて世に出るわけではありません。社会のスピード感を身をもって知るためにも、短いスパンで様々なアイデアを出しβ版をローンチする「Speedy trial」の取り組みなど、スタートアップと同じスピード感で進めていきたいです。

研究開発部門が、0→1のプロダクトの立ち上げをしていく「fibona with incubators program」

新型コロナによって在宅勤務が続いています。働き方に変化はありましたか。


大南:
GICでは以前からテレワークが推奨されていて、私自身もよくテレワークをしていました。エンジニアなので、パソコン1台あればどこでも仕事ができます。いまでも、働き方は出社していた時とほとんど変わっていません。

フルリモートになってからは通勤や会議による移動時間がなくなり、仕事への集中度が増しました。いまはビデオ会議が始まる直前までプログラムを書いていることもあります(笑)。

星野:
オフィスでの実験はできなくなりましたが、その分これまでの実験で蓄積されたデータの解析作業に没頭できるようになりました。

GICは、オフィスがすべてフリーアドレスなんです。同じフロアに同僚や上司がいないことは当たり前で、周囲の人たちと積極的にコミュニケーションを取る習慣が身につきました。そのおかげで、スムーズにフルリモートに対応できたと思っています。

プライベートでは、毎日約2時間かかっていた通勤時間を仕事や両親とのコミュニケーションに充てられるようになったのは大きな変化です。家族の代わりに買い物へ行ったり、一緒に食事をしたりすることが増えました。コロナ後もこうした家族との時間を大切にしたいですね。

時代に応じて、人々の美意識は変化してきました。これからの時代に、どのような“美のイノベーション”が求められるでしょうか。


大南:
大きな時代の分岐点にあるいま、人々の美に対する意識も大きなアップデートが起きています。

例えば、在宅勤務が主流となり、ビデオ会議のためだけにメイクをすることに煩わしさを感じる人も増えている気がします。逆にテレ会議中にパックをして美容を力を入れるという人もいるようです。マスクをしたときに美しく見えるメイクや、マスクをしても落ちにくいリップなどのニーズも高まるのではないでしょうか。

デジタルというフィルターを通して日々世界を見る現在、入力情報の変数が本物より少ないと感じます。もしかしたら、外出自粛の要請が解除された後は、季節の花々や建築物を見たい、人に直接会いたいという気持ちが高まり、リアル志向に回帰するかもしれません。

研究員として、注目しているテクノロジー領域はありますか?


星野:
資生堂では長年、シワやシミなど目に見えてわかる肌の変化に関する研究に取り組んできました。私個人としては、そこからもう一歩踏み込んで、表から見えにくい肌の悩みを可視化するテクノロジーに注目しています。「何となく」感じる肌の変化や不調を、テクノロジーの力で顕在化させて、人々の不安感や孤独感を解消できたらいいなと夢見ています。

大南:
私は、資生堂が基点にしたオープンプラットフォームに関心があります。IT業界におけるSaaS(サービスとしてのソフトウェア)のように、資生堂がプラットフォームを用意して、そこに様々なデベロッパーに集まってサービスやクリエイティブを提供していただいて、多くのユーザーにご利用いただきたいです。

fibonaも2年目を迎えますが、これからの展望を聞かせてください。


大南:
2年目以降は、fibonaで生まれた新しいシナジーの萌芽をビジネスにまとめる胆力が必要だと感じています。プロジェクトのゴールをしっかり定め、ゴールをスピーディに達成するためのロードマップを描いて実行していきたいですね。

最近、事業部門から「スタートアップを紹介してもらえませんか?」という問い合わせが増えてきたんです。これからは事業部門とも連動しながら、全社的なスタートアップとのマッチングハブとしての役割を果たしたいと考えています。

星野:
海外にfibonaの活動をもっとアピールしていきたいですね。留学していたイスラエルでの経験を生かして、欧米だけでなく日本的な東洋の美と、中東の美を組み合わせてグローバルな展開ができたらいいなと思っています。

(text: Kanako Ishikawa、edit: Kaori Sasagawa)

(2020/05/22 表記を一部修正しました。)

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